第3話~冒険者ギルド~
「着きましたね」
「ああ、長かったね」
ノースフォートレスの町に着いた。
本来なら馬車で2週間で済むところが、追手を巻くために歩いたり、遠回りをしたりしたので、1か月もかかってしまった。
「すいません。ちょっとお聞きしたいのですが」
「なんだい。兄さん」
「冒険者ギルドはどちらですか」
俺たちは馬車駅の切符売り場のおじさんに冒険者ギルドの場所を聞いた。
「冒険者ギルド?それなら北ブロックだ。地図でいうとここだ」
おじさんは地図を指し示しながら、笑顔で教えてくれた。
「この地図は観光客にあげる用の物だからもっていってもいいよ」
「ありがとうございます」
「ところで、お前さんたちは冒険者なのかい」
「いえ、これからなるところです」
そう俺たちは道中色々と相談した結果、冒険者になることにした。
冒険者。危険な仕事である。
城壁の修理とか、荷物運びとか、店の販売員とか他にも世の中には安全な仕事があるのに、なぜわざわざ危険な冒険者なんて仕事を選ぶのか。
理由は単純だ。危険だがとにかく稼げるからだ。
俺たちは駆け落ちの身だ。いつ追手が来るかわからない。そうなったらまた逃げなければならない。そうするとまたお金がかかる。だからできるだけ稼いでおかなければならないのだ。
「そうかい。がんばりなよ」
「はい」
俺たちはおじさんに別れを告げ、冒険者ギルドへ向かった。
★★★
クンクン。肉の焼けるいい匂いがしてきた。
「お兄ちゃんたち、オーク肉の串焼きはどうだい?1本銅貨1枚だよ」
「4本ください」
「あいよ。毎度あり」
俺は銅貨4枚を串屋のおっちゃんに渡す。
「結構おいしいですね」
「ああ、もっと油っぽいのかと思ったら、意外とあっさりしているな。部位がいいのかな」
道路脇のベンチに座って串焼をほおばる。二人とも昨日の晩食べたきりで、まだ朝飯を食べていなかったのだ。
「さあ、行くか。おじさんにもらった地図によるとあと少しのはずだ」
休憩を終えると俺たちは再び歩み始めた。そこから3回ほど通路を曲がると目的の場所へ到着した。
「ここが冒険者ギルドか」
「結構大きいですわね」
「そうだな。ヒッグスタウンにもあったが、あそこよりずっと大きいな」
「まあ、ここは100万都市らしいのでその分大きいのでしょう」
冒険者ギルドは結構大きかった。使用人込みで20人くらい住んでいる俺の実家の1.5倍くらいの敷地に、3階建ての建物がドンと建っているという感じだった。
「こんにちわ~」
カラン。カラン。
初めてのことなので多少緊張しながら入り口のドアを開けると、入り口の呼び鈴の音が甲高く鳴り響いたが、特に反応なく誰も出てこなかった。
辺りを見回すと通路を挟んで左右が食堂になっているようで、飯の時間帯を外しているにも関わらず、結構な数の人が食事をとっていた。
「おいしそうだな。昼飯は帰りにここで食べるのもいいかもな」
「見てください、ホルスト。昼間からお酒を飲んでいる人がいますよ」
「本当だ。ということは、ここは酒場も兼ねているということか」
俺はもう一度周囲をよく見てみた。すると店の看板があり『食事&酒 ラブアンドピース』と書かれていた。
「ホルストこっちみたいですよ」
きょろきょろと辺りを見回す俺の袖をエリカが引っ張ったので、そちらを見ると通路の天井から案内板が吊るされていた。
「なになに『冒険者ギルドは通路の奥になります。ご用の方はどうぞ』か。確かにこっちだな」
「そうみたいですね」
「じゃあ、行くか」
「はい」
俺たちは奥へと向かった。
★★★
冒険者ギルドは通路の奥、階段を上がった二階にあった。
「あんまり人がいないですね」
「そうだな。まあ、もう昼近いし時間帯の問題だろう」
「こんにちは~。今日はどういったご用件ですか」
冒険者ギルドの入り口できょろきょろしていると、女性職員に声をかけられた。
燃えるような赤髪をポニーテールにした小柄な美人さんである。
白いワイシャツに黒のズボンというフォーマルな恰好をしており、その結構な大きさの胸のせいでワイシャツのボタンが悲鳴をあげていた。
「え~と。今日は冒険者登録をしに来ました」
「そうですか。では、こちらにどうぞ」
職員さんが受付に案内してくれた。俺はエリカの手を引きそちらに向かった。
「おや、あんたたち仲いいね。うらやましい限りだよ」
椅子に座るなり職員さんの口調が変わった。
「おっと。あんたたちを見ていたら、つい口調が素になってしまったよ。……まあ、いいや。堅苦しいのは嫌いだし。アタシは、リネット・クラフトマン。ここの副ギルドマスターをしている」
「えっ、副ギルドマスターですか」
エリカが目を丸くした。俺もびっくりだ。
「どうして、そんな偉い人が受付なんかしているんですか」
「実は副ギルドマスターとは名ばかりでお飾りなんだ。だから暇でね。何でもしてるんだ」
「お飾り?」
「ああ。父親のコネさ。アタシの母親は人間なんだが父親はドワーフでね」
「ドワーフ?それって」
「そう、アタシはハーフドワーフさ」
リネットさんは自分の髪の毛を触りながら誇らしげに言った。
「で、その父親はこの町の鍛冶組合の会長なんだが、その父親が危険な冒険者なんてしている娘を心配してギルドマスターに言ったのさ。『何とかしろ。さもないとギルドに納める武器を減らす』と」
「まあ」
「それで、たまたま空いてた副ギルドマスターのポストにアタシは就任しましたとさ。……ああ!もっと冒険したかったのに!」
リネットさんは心底悔しそうなな顔をした。
「まあ、そんなことはどうでもいいや。それよりも、さ。あんたたち、どういう関係?」
「えっとお」
「恋人でしょ。恋人なんでしょ。ねえねえ、どこまで行ったの?キスぐらいしたの?」
「それは……」
リネットさんの勢いにやられてエリカが口ごもった。ド直球で聞かれて気恥ずかしいのだろう。顔を真っ赤にしている。
その姿はかわいらしく、ずっと見ていたい気もしたが、それでは話が進まないので俺が代わりに答えた。
「俺たち、もうすぐ結婚しますよ」
「マジか!」
「マジですよ」
リネットさんは机をドンドンとたたいた。
「いいな、いいな。うらやましいな。アタシも一緒に冒険してくれるような強いダンナ様が欲しいな」
そして、なぜか俺のことをじろじろ見る。
「そういえば、あんた結構いいガタイしているよね」
「まあ。町の防衛軍入隊のために訓練していましたからね」
「ふーん。いいねえ。だったら、十分冒険者はやれそうだね」
「ありがとうございます」
「でさ、その子のついででいいからさ。アタシも貰ってくれよ」
「はぁ!?」
冗談だか本気だかわからない口調で、リネットさんが突拍子もないことを言い出した。
「ダメです。この人は私のです」
すぐにエリカが、俺とリネットさんの間に割って入る。怒ったのか、頬をプクッと膨らましている。
これもかわいい。本当、美人は正義だ。
「冗談だよ。あんたたちがうらやましくて、ちょっとからかってみただけだよ」
「本当ですか」
「本当。ホント。お嬢ちゃんから旦那様を奪ったりしないからさ。許してよ」
「わかりました。それならいいです」
「ありがと。……でも、やっぱりだれか強いダンナが欲しいよお。お嬢ちゃん、誰か紹介してよ」
「……ご自分でお探しください」
「うう、やっぱり」
リネットさんは、肩を落とし本当に残念そうにする。
そんなリネットさんを見て俺は思う。
基本まじめだけれどちょっとノリが良いところもあって面白い人だ。悪い人でもなさそうだし。
美人だし、嫁さんにしたいと思う男も多いだろう。
冗談なのはちょっとだけ残念だったかな?
「ホルスト、何か妙なことを考えてませんか」
「いや、そんなわけがないじゃないか」
エリカが鋭く切り込んできたので、慌てて顔を背けてごまかした。
★★★
「ホルスト・エレクトロンに、エリカ・ヒッグスね」
リネットさんが申込用紙に書かれた俺たちの名前を読み上げる。
「登録って名前書くだけで終わるんですね」
「まあ、モンスターに町や村が簡単に滅ぼされるご時世だしねえ。身分証などない人も多いからね」
本当に世知辛い世の中だ。駆け落ちの身で素性を明かせない俺たちにはありがたい話だが。
「では説明を始めるよ」
「お願いします」
「まずはギルドのルールだけど、この紙の通りだよ」
そう言ってリネットさんが出してきたのは、1枚のぺら紙だった。大き目の文字で表裏に何か書かれていた。
「えらく少ないんですね」
「うん。どうせ事細かに定めても誰も覚えないからねえ。内容も『盗みはするな』とか、『他人の手柄を横取りするなとか』常識的なものばかりだし。それで。次になんだけど」
リネットさんは部屋の真ん中にある掲示板を指し示す。
「あそこが依頼クエストボードだよ。あそこに毎日依頼が張り出される、一応、早い者勝ちで受け付けるからいい条件のものは競争になるよ」
「依頼って誰でも受けられるんですか」
「EからSのランク制度があり、ランク相当のものが受けられるよ。もちろんあんたたちは最初はEランクからスタートだ」
「依頼って、どんな感じですか」
「こんな感じだよ」
リネットさんは立ち上がると依頼ボードへ行き、何枚か紙をはがしても持ってきてくれた。
それらの紙には、Eランクというランク表示の下に『薬草収集』、『臨時城門警備』『ゴブリン5匹討伐』などの依頼が書いてあった。
「この紙を受付に持ってきてくれれば依頼を受けられる。まあ、ごらんの通り、Eランクの子が受けられるのは簡単なものばかりだけどね。でも、油断はダメだよ」
リネットさんの顔つきが突然厳しくなる。なんというか、人生の教訓を教えてくれる先輩とかそういう感じの顔だ、
「薬草を摘みに行って途中でモンスターに殺される人や、ゴブリン退治に行ったはいいが援軍を呼ばれて返り討ちにあった人もいるんだからね。この世界は自己責任が基本。くれぐれも慎重に安全第一でね」
「ご助言ありがとうございます。安全第一で行動します」
「素直でよろしい。そういう子は長生きするよ」
リネットさんは今度は笑顔になると。親愛の情を込めたつもりなのだろう、俺たちの肩をバンバンとたたいてきた。
ちょっと力が入りすぎじゃないかとも思ったが、それは愛情表現の一種だと好意的に受け取っておくことにした。
「これで、説明は大体終わりだよ」
どうやらこれで説明は終わりのようだが、俺たちにはまだ聞きたいことがある。
「それでまだ聞きたいことがあるんですけど、構いませんか」
俺は話を続けた。
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