第十六話 終幕

 驚いたルス・ソンブラは震えた声で問う。


「奇術師、私たち仲間よね? どういうつもり……?」


 奇術師はルス・ソンブラの耳元で囁く。


「ふふっ。君は目立ちすぎた。"男漁り"だけで済ませてればアシはつかなかったのにね。武器収集にまで手を出すとはナンセンスだな」


 ルス・ソンブラはなんとか奇術師から逃れようとするが、振り解けずにいた。

その様子を見ながら、奇術師は高らかに笑った。


「最終幕(フィナーレ)の時間だよ。君の罪を精算しないとね、快楽に溺れた"樂劇"歌手よ」


そう言って奇術師はルス・ソンブラの口にトランプを突き立て、離れた。


 次の瞬間、トランプが発火し、ルス・ソンブラは燃え盛る炎に包まれた。

ルス・ソンブラは声にならない声を上げながら、燃えていた。


「ああ、美しい女性はよく燃える! 素晴らしい! 綺麗な炎だ! おっと、そこのお嬢さん、望のことを死なせたらダメだからね?」


 Yに手を振りながら、奇術師は夜の闇に消えた。

Yは緊張が解けたのか、その場にしゃがみ込んだ。

そして、空を見上げ呟く。


「ごめん、……姉、さん……」


 しばらくして、トリステーザが店から出てきた。


「何があったかは……あの焼死体を見れば分かるわ……事情聴取は後にするから、Xを連れて帰りなさい」

「……何も聞かないつもりか?」


Yにそう問われ、トリステーザはため息をつく。


「今は言わなくて良いわ。あと、今回は私のポケットマネーから懸賞金の額を払ってあげる。口止め料よ。とにかくXを連れて帰って」


 トリスエーザに手でしっしっとやられ、YはXをおぶってXの家に向かった。


 Yを見送り、トリステーザはため息をつく。


「昼間の件といい、ルス・ソンブラの件といい……裏に手回すの大変なんだから、勘弁してほしいわ……」


「敵さんの方が上手のようですね」


 声の下方をトリステーザが振り返ると、マスターがニヒルな笑みを浮かべて立っていた。

マスターをトリステーザが睨みつけ、ため息をつく。


「そうね……本当に厄介だわ」

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夢幻の銃声 ねこぱんち @NekoPunch0402

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