第三話 尾行 ー弐ー
ガタッ
目の前に酒場のマスターか灰皿を置いた。
「X(えっくす)、ご注文は?」
灰皿には一枚の四つ折りにされた紙切れが載っていた。
「マスター、モスコミュールを頼む」
この酒場では、本名を語らないのがルールとなっている。
ちなみに俺のコードネームはX(えっくす)だ。
紙きれを拾い上げ、中身を見た。俺の口角は自然と上がった。
紙切れをライターで燃やし、煙草に火をつけ、灰皿の横に札束を置いた。
「マスター、いつもサンキュ。あと、とりあえず"いつもの"もよろしく」
そう伝え、俺は胸元に忍ばせていた、銀色に鈍く輝く一丁の銃を取り出し、煙草を持つ手の脇(わき)から銃口をのぞかせた。
バンッバンッ
「ガッ──」
乾いた銃声が二つ、古びた酒場に響き渡った。
それからしばらくして、奥で取引をしていた金髪の髭面男と赤髪ロン毛の細身の男は力なく倒れた。
二人の額には、それぞれ一つずつ銃創(じゅうそう)があった。
俺は煙草を消し、胸元から四本のナイフを取り出し指の間に挟んだ。
二人が倒れたのを見た筋肉質なスキンヘッドの男は俺の方を一瞥(いちべつ)し、隠し持っていた四本のナイフを俺に向かって投げてきた。
投げられたナイフに俺は持っていたナイフを投げ、落とした。
「──てめえ、何者だ……?」
そう言いながらスキンヘッドの男はじりじりと近づいてくる。
それを見ていた仮面をつけた黒ずくめの男は賞金首三人が持っていたジュラルミンケースを持って酒場から出ていった。
「なっ……待てこらっ!! てめえ、顔は覚えたからな!!」
そう吐き捨て、スキンヘッドの男は仮面をつけた黒ずくめの男を追って酒場を出ていった。
カランッ
机に置かれたグラス氷の湿った音が響いた。
グラスを傾け、俺は一気に飲み干した。
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