第10話

「あ…もうこんな時間だ…そろそろ、帰りましょうか…」


時間はもう、9時を過ぎていたので、真由にそう声を掛けた。


「今日は、帰りたくないです… 私… 」


「え… ??」

その真由の台詞に、少し驚く俺…。


「ふふ… なーんてねっ…!少しくらいドキっとしてくれましたか?坂下さん…」


真由が悪戯っ子のような目をして、俺に笑いかける。

なんだ…冗談か…


少しどころか、かなりドキリとしたよ…

内心、そう思いつつ、

「いえ…でも…俺とかにはいいですけど、冗談でだれかれ構わずは、言わないほうがいいと思いますよ…」


「え…?」真由が俺を見上げる。


「いや…あの、その…帰りたくないってその台詞…よくドラマとか小説とかに出てくるじゃないですか…女が別れ際、好きな男に言う定番の言葉っていうか…だからあの…冗談で何とも思っていない男に言うのは、危険かなと… 」


「… はい、…確かにそうですね… 気を付けます…。」

真由が俺を真っすぐに見つめて、素直にそう答える。


「じゃあ、お休みなさい… 」

「おやすみ… 」


俺たちは互いにそう挨拶をして、駅前であっさりと別れた。



それにしても、真由の家族…  兄… 

その話題は何か、まずかったのだろうか…

 

その時の真由の態度が、気になって仕方ない…。

真由の綺麗な瞳の奥に…一瞬だけ、暗い影を、見たような気がした…


 家族との間に、何か…大きな悩みや、問題を抱えているのだろうか…


それにしても、真由に… 

あの、人もうらやむ美貌とスタイルを兼ね備え、なおかつ人懐っこく明るい性格の真由に… 

今、彼氏がいないなんて…  信じられない話だ…。


明日、きちんと先輩に報告せねばという気持ちとともに…  実は、


自分自身が少しだけホッとしている気持ちを抱いていることに

俺は、必死に気付かないふりをした…。











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