美月、好き嫌いは良くないぞ

 母さんが早めの夕食を僕と妹の美月みづきに出した後、買い物に行った。


その後、美容院にも行きたいらしい。暑い時期じゃないから、車に食品とかを置きっぱなしにしても問題ないと言っていたけど、本当かな?


夕食は焼きそばになる。といっても麺はそれほど多くなく、野菜が中心。

野菜炒め+麺ぐらいのイメージだ。


僕はおいしく焼きそばを食べているが、美月は苦虫を噛み潰したような顔をしている。こういう顔をするってことは、嫌いなものが入っているな。


「兄ちゃん、あたしのピーマン食べてよ」


なるほど。ピーマンが嫌なのか。


「美月はもう小3なんだから、頑張ろうな」


「うぅ~」

納得してない様子で唸っている美月。


どうすれば食べてくれるかな?


「ちゃんと食べないと、大きくなれないぞ」

定番のセリフだけど、効果あるかな?


「別に良いもん」

そっぽを向いた美月。


これは失敗か。次の案を考えないと…。


「お母さんいないし、兄ちゃんにあげても良いよね」

考えている間に、美月は僕の皿に自分のピーマンを入れてきた。


「こらこら、美月が食べないと意味ないよ」


美月の皿を観たけど、そんなに入ってないぞ。

母さんも嫌いなものを克服してほしいから、少しだけ入れたんだろう。


このままだと、全部僕の皿に移されてしまう。

それではいつまでたっても、美月の好き嫌いはなくせない。


……待てよ? 好き嫌いの問題なら、僕もそれをうまく使えば良いのでは?


「美月がピーマンを食べないと、美月のこと嫌いになっちゃうぞ~」

これならどうだ? 冗談だとわかるトーンで言う事にした。


「え?」


何で、この世の終わりみたいな顔をする?


「ピーマン食べるから、兄ちゃんあたしのこと嫌いにならないで!!」


自分の皿にわずかに残っているピーマンを食べ始めた美月。

必死なのが伝わってくるけど、冗談なのがわかってないのかな?


本当にピーマンを食べ終えた美月。頑張ったじゃん。


「どうだった? 食べたら、意外とイケるもんでしょ?」


「そんな事より、ちゃんと食べたからあたしのこと嫌いにならないでね」


美月は皿をキッチンの流しに置いた後、リビングを出て行った。


美月の必死さを考えると、この方法は多用しちゃいけないな。

そう思いながら、僕も皿を流しに置いた後、洗う事にした。

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