第88話

 




『あなたがギィ?』

『人間の賢人って聞いてたけど、結構若いなぁ』


 羽根ペンの先を書類の上に走らせていた時、ふとそんな声が聞こえた。

 鼓膜を震わせるような外からの音ではなく、脳に直接響くようなその感覚には覚えがあった。


 書類に貼り付けていた視線を上げて周囲を見渡すと、天井近くに浮くような形で、薄緑に淡く発光する緑髪の少年と、同じような淡さで白く発光した金髪の少女がふわふわと浮いていた。


 外見は、イタズラ好きな性格が滲み出たような表情で笑う美少年と、天使のようにフワフワとした優しそうな微笑みを浮かべた美少女。

 年の頃は、姪っ子ちゃんと同じか、少し上くらいだろうか。

 少年はシンプルな白いシャツとズボン、少女は白いワンピース、といったその辺りの子供達と同じような服装にも関わらず、人形のように整った左右対称な顔立ちが、彼らが人間ではないという直感を裏付けていた。


「……私の名はオーギュスト・ヴェルシュタインだが」

『そんな長い名前チビ達には覚えられないよ』


 クスクスと笑う少年に諭されて、微かに考えていた予想は的中したのだと理解した。


 私を“ギィ”と呼ぶのは、小さな精霊達だけ。

 それを知っているという事は、同じように精霊の声を聞く事が出来る者か、あるいは。


 薄く発光する彼らを見れば、光と風の精霊王を幼くしたような顔立ちである事に気付く。

 ここまで来ればもう可能性は一つだ。


『私たちもギィと呼んで良いかしら? 噛んでしまいそうなの』

「……好きにするといい」


 まあ色々と小難しく御託を並べたものの、早い話が彼等も精霊という結論しか出て来ない訳で。

 それより何より気になるのは、彼らが一体全体何しに来たのか、って事なんですよ。


「それで、君達は何故ここに? 見た所上位精霊のようだが」


 この上位精霊って言葉なんだけど、なんか精霊にも階級があるらしく、下位、中位、上位と順番に強く、そしてそれぞれに高い知性と高い魔力を持った存在に成長する、らしい。

 見た所個人としての人格を確立しているし、小さな精霊達とは段違いの魔力を持っているようなので、多分だけど上位精霊で合ってる筈だ。


 以上の事は、なんか知らんけどオーギュストさんの知識にあったので、多分どっかで本とか読んで覚えていた内の一つなんだろうと思う。

 いや、もしかしたら一般常識なのかもしれないけど、オーギュストさんの知識はどうも偏ってるのでよく分からない。

 十中八九家庭教師のせいだと思う。


『あのね、ギィ、その事なんだけど、ちょっと助けて貰いたいの』

『そうそう! 僕らの愛し子いと ごが、このままじゃ大変な事になっちゃうんだ』


 困ったように眉根を寄せる少女と、どこか慌てたように捲し立てる少年。

 早速私を愛称で呼んでるけど、相手は精霊、気まぐれ自由自分勝手は当たり前だ。

 この感じだと遠慮する精霊とか居ないんだろうな、とか思ったけども、それより。

 全然話が見えないけど、何か事件が起きていて、それをなんとかして欲しいんだろう事は何となく分かった。


 精霊がなんとか出来ない事が私に出来るのかってのは気になるんだけど、私を頼って来たって事は、もしかすると権力とかそういう、腕力や魔力でなんとかなるような問題じゃない、って事なんだろうか。よく分からん。


 よく分からんけど、断るという選択肢が一切出て来ないし、面倒臭いけどやらなきゃいけない、としか思えないから、きっとやった方がいい事なんだろう。

 私だって暇じゃないんだけど、オーギュストさんの鋭過ぎる勘が問題無いって言ってるから大丈夫なんだと思う。


 しゃーねぇ、やるか。


「ふむ、私にも出来る事と出来ない事があるのだが、出来る範囲なら手助けしよう」

『助けてくれるって! アリー! ベル! こっちこっち! ほら!』


 答えた瞬間食い気味に大きな声を出した少年は、この部屋の、ちょうど私の正面の窓の方を見て、誰かに声を……って待ってここ三階なんだけど外に誰かいるの?


「せ、精霊さま、待って、いくらなんでもこれは……」


 耳をすませなくても、オーギュストさんの凄すぎるスペックの聴覚が、人の気配と共にそんな声を捉えた。

 手足が震える微かな擦過音と、ガチガチと鳴る歯音、聞こえた声から、その人物の性別が女性で、酷く怯えているのが分かる。


「ねえさま! そんな事言ってたらなにも進まないわよ! いいから早くいきましょ!」

「ど、どうやって!?」

「飛びうつるのよ!」

「無理よそんなの!」


 いや、待て待て、もう一人居るぞこれ。

 一体どこにいるの君ら。


 内心は慌てて、しかし余裕のある態度でペン立てに羽根ペンを突っ込む。

 それから席を立って窓へ近付き、普通の速度で開け放った。

 

「あ、あわわ……」

「あらら」


 ちょうど正面の、木の枝の上。

 一方は涙目、一方は興味津々な栗毛色の瞳と目が合う。

 三つ編みお下げが良く似合う、高校生くらいの大人しそうな少女と、姪っ子ちゃんくらいの年の、勝ち気そうなツインテールちゃんが、二人で木にしがみついている。

 性格は全く違いそうな感じだが、顔立ちがよく似ているので姉妹なんだろう。


 いやいやいやいや何してんの!?


 毎度の事ながら思い切りツッコミを入れてしまいそうになったけど、すんでのところで踏みとどまった私を誰か褒めて欲しい。

 誰もいないし誰も知らないし誰も気付いてくれないんだけどな! 毎度の事ながらな! ちくしょう誰か褒めてよマジで! 誰でもいいから!

 いややっぱり急に誰かに褒められるとか普通に怖いからいいや! 今のナシで!


「何をしているのだね?」

「なぁにとつぜん、ぶしつけなひとね!」


 ムッとした表情のツインテールちゃんの言は、まあ確かに正論ではあるのだが、しかし。

 他人の家の木にしがみついてる君が言うセリフじゃねぇなぁ。

 親御さんどんな躾してんのよこの子に。


「ベル! や、やめなさい失礼でしょ!? そそそそれにどう考えても私達の方が不審者なのよ!?」


 噛み噛みで妹を諭そうとする少女は、とても必死で今にも泣き出しそうだ。

 どうやら、見た目通りに一般常識を持ち合わせているタイプの少女は、なんというか不憫だ。

 この感じから察するに、精霊や妹にいつも振り回されているのが、容易に想像出来た。


「ふむ、なるほど、君達が精霊殿の言っていたアリーとベルか」


 そう言った瞬間、不審者を見る目を私に向けていたツインテールちゃんがそれまでの態度を一変させ、嬉しそうにキラキラした目を向けて来た。


「あなたも精霊さまの声が聞こえるの!?」

「……まずは部屋に入るといい」


 いつまでも木の上に居たいなら別だけど、このままだと帰る事も難しいんじゃないかな。

 つーかどうやって来たんだこんな高い所まで、と思ったが、多分精霊さんの仕業なんだろうなと納得して、自分の中でその話題を終わらせた。


「わかった! 今いくわ!」

「ちょ、ベル!?」


 そう言って、ツインテールちゃんは姉を放置して、勢いよくジャンプする。

 距離としては1mあるかないかくらいなので、跳べないという事は無いだろう。

 だがしかし、高さがかなりある中、よく跳んだものだ。

 普通なら姉同様すくんで動けなくなるだろうに。


 めっちゃ度胸あるなこの子。


 感心しつつ、窓の中へと飛び込んで来たツインテールちゃんをそっと補助して室内へ降ろす。

 私の補助には気付かなかったらしいツインテールちゃんは、ドヤ顔で胸を張りながら、姉へと声を掛けた。


「さあ! ねえさまもとんで!」

「無理に決まってるでしょ!?」


 ですよね。





 その後、ガチガチに体を縮こまらせて動けなくなってしまった少女を救う為に、よっこいせと彼女の掴まる木の枝まで行った私は、そのまま彼女を横抱きにして救出した。

 なんか余計に硬直してしまったけど、無視してソファに座らせたあと、対面のソファに腰掛ける。

 

 すると、カチコチに硬直した姉の姿を不思議そうに眺めながら、ツインテールちゃんが姉の隣に腰を降ろした。

 ソファ前のテーブルには、精霊が来た時用にクッキーを常備してあったりするのだが、ツインテールちゃんの興味は姉から目の前のクッキーへと移ったらしい。

 じぃっとクッキーを見つめる瞳はキラキラと輝き、年相応の無邪気さが垣間見えた。


「あ、あああああの!」


 どもり、そしてところどころ声をひっくり返らせながらも頑張って発言しようとするお下げちゃんの姿がなんか不憫にしか見えないので、ツインテールちゃんに向けていた視線をそっと彼女へ向ける事で、こちらは話を聞くつもりがあるのだと示した。

 すると、意を決したように唾を飲み込んだお下げちゃんは、じっと私を見詰めながら、真剣な表情で口を開く。


「あなたは、賢人さま、なんですよね?」


 確かめるようなその問いは本当に確認なのか、それとも他の意図があるのか、こちらはそれを知る気は無いので、察する事もせずに頷いた。


「自覚は薄いが、どうやらそうらしい」

「……どういう事ですか?」

「実を言うと、賢人となってからは、ほんのひと月程度も経っていないのだよ」

「……えっと」


 何を言うべきなのか分からなくなってしまったのか、お下げちゃんが困ったように口篭る。

 しかし、そんな私達の様子など何処吹く風なツインテールちゃんは、キラキラお目目で私を見詰めながらクッキーを指差した。


「ねぇねぇ、そんなことより貴族のおじさん、このクッキー食べていい?」

「ちょっとベル! 失礼よ!」

「だってねえさま! 凄く美味しそうよ!?」


 よく分からない会話よりもクッキーの方が彼女には重要なのだろう。


 まあ、まだ小さいしそれは仕方ないと思う。

 私だって同じ歳の頃は小難しい話より食い気だった。

 むしろ先生の小難しい話なんか子守唄にして寝てた気がする。


「では、精霊殿と分けて食べるといい」

「ほんとう!? やったぁ! 精霊さま! 一緒に食べよう!」

『うん、良かったね、ベル』


 緑髪の少年精霊が、ツインテールちゃんと仲良くクッキーを分け合いながら微笑む。

 余程可愛がっているのか、孫を見るおじいちゃんみたいな慈愛に満ちた視線だ。


「……妹がすみません」


 申し訳無さそうに縮こまるお下げちゃんに、金髪の少女精霊が慰めるように少女の頭を撫でた。

 こちらも、まるで母親のような優しい目でお下げちゃんを見詰めている。


「気にしなくていい、私にもあのくらいの姪がいるのでね」


 まあ、ツインテールちゃんに比べるとめちゃくちゃ大人びててヤバいくらい空気読めちゃうハイスペック過ぎる子なんだけどね……。

 むしろツインテールちゃんの方が健康的なお子様って感じだ。

 いや、だからって姪っ子ちゃんが不健康とかそういう訳じゃないと思うけど。むしろ姪っ子ちゃんは可愛いです。


「ありがとうございます……それで、えっと」

「私の事はギィと呼べばいい」


 貴族のおじさんと呼ばれるよりは大分マシだと思う。

 いや、ツインテールちゃんがそう呼んでくれるかは分からんけど。


 オーギュストさんの名前出したらこの子多分なんも話してくれなくなるだろうから、精霊さんから聞いてそうな名前を名乗る事にした。


 他の名前なんも思い付かんかったんや。

 オーギュスト、って名前の愛称何?

 むしろあるの愛称なんて。


 マイケルならマイクとかじゃん?

 もしかして、ギュスト、とか?


 あー、そう考えると今更だけどそっちのが良かったかもしれない。

 でも精霊さん達私の事“ギィ”としか呼んでくれないしなぁ。

 違う呼び方させたら精霊さん達混乱しそうだし、もう良いか。

 うん、諦めよう。愛称は“ギィ”。よし。


 瞬時にそこまで思案して、お下げちゃんに意識を戻す。


「わかりました、ギィさんですね。

 私はアリエッタ、そっちは妹のベルベットです」

「ひょほひく!」

『ベル、せめて食べてる時は静かにしなきゃだめよ』

『まあまあ、そこがベルの可愛い所なんじゃん』


 若い子達がわちゃわちゃしてると可愛いな。

 しかも皆顔が良いから目の保養だわ。

 素晴らしい世界。

 ずっとこうならいいのに。


 いや、普段もそれなりに目の保養な人達に囲まれてるけどね。

 でもたまに別の系統の顔が見たくなるというか、スイーツばっかりだとしても和菓子と洋菓子の違いというか、むしろお菓子ばかりよりもフルーツの盛り合わせ食べたくなるというか、なんかそんな感じな訳で。

 どうでもいい事を考えながらも、それはいつも通り表に一切出さず、静かに話を進めた。


「精霊殿が言っていたが、大変な事が起きている、らしいな」

「はい、……えっと、ギィさんは、領主さまが帰ってきた事、知ってますよね?」

「勿論知っているとも」


 何せ本人ですし。


「……その、言っちゃダメですけど、領主さまは街で嫌われてるんです」

「それはそうだろうな」


 めっちゃ石投げられたもんね。

 無傷だし全然怖くなかったけど。


 むしろあんだけ敵意向けられたのに蚊に集られた気分だったんだけど。

 そりゃあオーギュストさんのスペックから考えるとそうなるかもしれないけどさ、でも人間相手に蚊と同等とか、大丈夫なのオーギュストさんのこの感覚。

 マジで怖いんだけど。

 両手でパンってしたら死ぬの? 人間が?


 え? やだ、怖い。

 よし、考えなかった事にしよう。


「そりゃあ確かに領主さまは何もしてくれないし、殆ど帰って来ないけど、でも、街の大人達が言うように、完全な悪だなんて思えなくて」

「ふむ、それは変だな。

 現に何もしていないなら悪とされても仕方ないのでは?」


 知らない事は罪ではないけど、知ろうとしない事は罪、って言葉、誰かが言っていたのを思い出した。

 そうだ、私のお父さんだ。

 なんかの本で読んで気に入ったとかで、しばらく口癖みたいに言ってた記憶がある。

 それは確かにその通りで、だからこそ私はオーギュストさんを悪だと思っていたのだ。


 そして栗毛色の瞳のその子は、真剣に私を見詰めながら、正直な気持ちを伝えてくれた。


「領主さまは確かにダメな人なんだろうと思うし、私もあんまり好きじゃないです。

 でも、私達だって、やっていい事と悪い事があるはず」


 きゅ、と唇を噛み締めた少女が、その目に嫌悪感を滲ませた。


「だからこそ、全然知らない領主さまより、皆をそそのかす教会の神父さまの方が、ずっとずっと悪に見えるんです」

『あの男、アリーとベルが可愛いからって自分のモノにしようとしてるから、余計に悪よ』

「ふむ」


 少女精霊の言を脳が理解し、そして咀嚼した瞬間、沸き立ったのは嫌悪と怒りだった。


 はあ?


 お下げちゃんは高校生くらいだからこの世界じゃ多分普通なんだろうけど、だとしてもツインテールちゃんとかまだあんなに小さいのに?

 え? 犯罪じゃん。

 例えこの世界じゃどっちも年齢的にOKとか言われても、無理矢理は等しく犯罪だよどう考えても。


 精霊さん達に詳しく聞けば、気に入った少年少女を傍に置いて、愛でるだけじゃなく色々とやっているらしい。

 吐き気がするような事を、何年にも渡って。

 その内容は、小さい子も居るので濁されたけど、後でシンザさんに頼んで調査して貰えば分かるだろう。

 子供に言えないってだけでロクなことじゃないのは容易に想像出来る。


 しねばいいのに。


『今の街の大人達を教育とは名ばかりの洗脳で育てたのはあの男よ、全部あの男の思惑通りに進んで来た結果が今なの』

「なるほど」


 つまりアレか?

 そいつが全ての元凶で、そいつが居なければ立て篭り事件なんて起きなかったし、私も石なんて投げられなかったと。


 うん、よし潰そう。


 どうせバレないように色々やってるだろうけど、被害者は確実に存在する訳で、そこが打破出来るポイントだろう。


「例え領主さまが本当に悪だとしても、私達まで同じような事していい訳が無い、それを大人達は気付こうともしない!」


 ぎゅっと拳を握りしめ、悔しそうに表情を歪める少女は、本当に今の街の現状をなんとかしたいと思っているのだろう。

 彼女の栗毛色の瞳が、陽光でちらりと綺麗な緑色に光った。


「……それは確かに正論だ。

 だがしかし、綺麗事だとも理解しているのだろう?」

「はい。私じゃ、街の人達は止められない。だから、賢人さまなら、きっと止められると思うんです」


 自分の無力を知っているからこそ、誰かに助けを求めるのは正解だ。

 それが理解出来ているだけでも、街にいる大人達とは段違いに頭が良い。

 きっと、精霊達が彼女達を育てたようなものだからだろう。


 大事な所を見極められる、素晴らしい判断力だ。


「お願いします、どうか街を、皆を助けてください!」

「そうか、話は分かった」

「じゃあ……!」


 ぱっと花が咲くように破顔する少女を、静かに見つめ返しながら、告げる。


「このオーギュスト・ヴェルシュタインの名において、今回の件、尽力しよう」

「へ?」


 少女の顔面は、それはそれは間抜け面だった。


「どうかしたかね?」

「り、りりり、領主、さま?」


 どうやら、領主の名前くらいは知っていたらしい。顔色がどんどん悪くなりながらも震える手で私を指差した少女に、真剣な言葉を返す事で暗に“落ち着け”と伝えようと試みる。


「騙すような形になって申し訳ない、市民の率直な意見が聞きたかったのでね」

「い、いいいいいえ!! そんな! おおお恐れ多いです! 申し訳ございませんでした!!」


 あー、これあかんやつや。

 やっぱ言わない方が良かったかな、でも言った方が説得力があるんだよなぁ。


「気に病むことはない」


 そう声を掛けるけど、顔を真っ青にさせた少女はあわあわと涙目である。


「ねえさまどうしたの?」


 そんな姉を見兼ねたのか、ツインテールちゃんが不思議そうに口を開いた。

 さっき口の中に物を入れたまま喋って怒られてしまったので、今度はちゃんと飲み込んでひと息ついてからの言葉である。お利口さんである。


「べ、ベル、あなたも領主さまに謝っときなさい!」

「貴族のおじさんどうかしたの?」


 貴族のおじさんだと色んなおじさんとカブるから呼び方変えて欲しいなぁ、とか思ったけど、それは言わずに事実のみを口にすることにした。


「どうやら私が領主だと知って慌てているらしい」

「えぇー? ねえさま、いまさらじゃない?」

『ふふふ、確かにそうだね』


 怪訝そうに眉根を寄せ、姉と私を交互に見たあと、少年精霊と“ねー!”なんて言い合い始めたツインテールちゃんは、なんて言うか、肝が据わりすぎてませんか。

 なにこれ、精霊さん達の教育どうなってんの。


「ベル! あなた知ってたの!?」

「このお部屋見るだけでわかるじゃん、めっちゃエラい人だって」

「偉い人だって分かっててその態度なのアンタは!?」

「精霊さまがしんようしてる人なんだから、いい人に決まってるじゃん、ねえさまったらばかね」


 呆れたように首を傾げながら堂々と言い放つ妹に、姉はぶるぶると拳を震わせ、その握った拳を妹の脳天に叩き込んだ。


「だからってその態度はダメに決まってるでしょ!?」

「いったぁい!!」


 ごん! という鈍く痛そうな音と共に、少女の絶叫にも似た大声が響き渡ったのだった。


 うわぁ、めっちゃ痛そう。


 

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