第三界—4 『花ノ開界』
「うがるっぁぁぁぁあ!」
「ヅァッ……!」
フラワーワールデスの変貌、巨大化により俺とナイトは、浮遊感なんて一切感じられない様な速度で吹き飛ばされ、視界の中で虹色に包まれた地面が霞む程の高さに肉体を、鎧を舞わせる。
『 フ ラ ァ ア ア ァ ! ! 』
フラワーワールデスの叫び声はめしべなら、触手の様に、龍の如くうねる蔦、幹、根……球体を象る地面に伝い、振動し、夜空に映る星々にまで轟く程の衝撃音を……咆哮を生み出し、そしてその雄叫びの振動を纏った触手が、地上へと落下する俺の肉体に向かい、俺の肉体を押し潰す為、風を切り裂き空を舞う。
「朝日ッ……!」
分解状態でナイトは叫び、俺に向かい、俺の肉体を護る為、風の隙間を通り空を走る。
「アーマード ナ イ ト に は さ せ な い よ ! ! 』
「ウォォ……ァァァアア!」
夜空色の……宇宙色の鎧が、緑色の……地球色の蔦が、それぞれ真逆の、相反する目的の為に俺に向かい空の中を、宇宙と地球の狭間の中を駆け抜け……そして……
「ッ……ぁぁアぁァアアあぁァァアア!」
2つの蔦の先端が、鎧共々、俺の……朝日 昇流の肉体を砕き、押し潰した……かの様にフラワーワールデスの視界には映った、だが違った。
蔦は、フラワーワールデスは何も押し潰してなどおらず、朝日 昇流の叫びは苦痛による悲鳴でも、ましてや断末魔などでもなく……
「アァァァマァアドァアア!!」
戦闘開始、アーマードナイトとしての開戦の宣言、咆哮だった。
「ヅァァッ!?」
その咆哮が放たれ、蔦を伝いフラワーワールデスの鼓膜まで届いたその瞬間、蔦の先はアーマードナイトの両腕を開くその動作により木っ端微塵に、細切れにされた果実の様に砕け散らされ、重力に引かれ落ちていく。
「ゼッ……ィァアァァァア!」
まだ重力よりも強い力で、上方向へと飛ぶ破片に両足の裏を付け、足場とし、開戦直後からフルパワーで蹴り飛ばしてフラワーワールデスに向かい跳躍した。
「随分とでっかく巨大化したらしいけどなぁぁ……!」
前方から迫る蔦は両手の甲で軌道を下方向へ反らし、両横から来る蔦は両拳で打ち砕き、全方位から螺旋を描いて向かい来る蔦には手を当て、足を当て、隙間を通り、足場として利用する……そんな風にフラワーワールデスの防御と言える攻撃を、弾き、破壊し、掻い潜りながら花の中心、フラワーワールデスの元へと飛翔する。
「敵の巨大化は負けフラグ! つまり今! 俺の勝利は絶対ッ……だぁぁぁあああ!」
花の真上へ辿り着いた時、仮面の下で、人の手では破壊出来ない、アーマードナイトという鎧が軋む次元の震動を生み出す程の叫声を放ち、そして右拳を……フラワーワールデスに対する最初で最後の一撃を振り上げ、構える。
「これが最初で! これで終わりだァァァァァァ!」
花の戦いを終わらせる為、重力と引力に従い落下し始めた……が……
「ぜぁっ……!?」
降下を開始した瞬間だった。
フラワーワールデスの周りの、花弁の内側、5つのおしべから大森林を連想させる様な深い、青緑色の煙が、花粉が放出され、アーマードナイトを呑み込み、その鎧の隙間から入り込み、内側を満たし、そして耳、鼻、目の隙間から俺の体内へと侵入する。
「ッ……この程度目くらましにもならねぇよ!」
予想外の、突発的な事に一瞬だけ動揺してしまっがただの見かけ倒し……いや、見かけも大した事の無いただの、無駄な足掻きだったらしい……そう、思ったのも束の間……
「君の負けだよ」
「っぁ……!?」
突然、俺の肉体と意識は急激に老化、衰弱する様に弱まり、俺の拳は解かれ、攻撃の構えも何も取らずただ落下するだけの無機質な鎧となっていた。
「づぃぁ……!」
まるで自分の肉体と意識が分離する様な、肉体が意識を置き去りにして落ちていく様な、金縛りにでも遭っているかの様な、そんな感覚に襲われる。
「フラァァァ!」
真横、右から遠心力に身を任せた様に蔦が迫り、朦朧としながらも意識は、脳は反射的に防御、そして反撃をする様に右腕に命令をする……だが。
「ぎっっ……がらぁヴぁ……!」
右腕は動かず……肉体と意識は連携を取れておらず、俺は無抵抗にその身を蔦に打ち付けられ、吹き飛ばされる。
そして、その衝突は肉体を無視して俺の意識へと直行し、脳内に激しい爆裂音の様な轟音を作り出す。
「君に足りない物はさ、多分経験とか実力とか、そういう物じゃないんだろうね……」
「らっ……ぶぁ……!」
フラワーワールデスは花の中心から、無数の蔦に何度も何度も、キャッチボールでもしているかの様に弾かれ、少しずつ鎧にヒビを生やしていくアーマードナイトの……というより、その中身である俺自身を見上げてながら、冷たく……冷然とした様子で呟く。
「君に足りないのは覚悟……そりゃあ成り行きで力を手に入れて、ただ死なない為だけに、その場しのぎで戦っているんだし覚悟なんて出来ていなくて当然……だけどねぇ……?」
「ががっぁぁあ……!」
蔦と蔦による、鎧のラリーを止め、1本の蔦で握り、巻き付き、腕や足を……反撃に使える部位の全てを抑え込む。
加減が出来ないのか、それともわざと強く締め付けているのかは分からないがアーマードナイトの鎧は軋み、どんどんとヒビは広がり、そして内側の、俺の全身の骨を微かに歪める。
「私は今、初めて命を奪うというその罪を受け入れる……初めてこの自分自身の手を汚す……そんな今までの自分を、誇りを捨てる覚悟をしている! その私に覚悟も何も無い君が勝てるわけっ……ないんだよぉお ォ オ オ オ ! 』
「ズァッ……!?」
フラワーワールデスは叫ぶ、自分自身を解放する様に、自分で、自分を縛っていた柵を破壊する様に咆哮を放ち、そして蔦を振り回しアーマードナイトを地上に向かい、全力投球で投げ飛ばした。
「ゼァァッ……!」
落ちる、堕ちていく。
さっきの様に、花の世界を終わらせようとした時の様に、自らの意思で重力と引力に引かれる……利用するのではなく、2つの力に強制的に、無理やり引き寄せられ押され、1輪の花から、無数の花達の元へと引きずり下ろされる。
「お……いッナイ……ト! 何か打開…… 策ッ……無いか!?」
力を振り絞り発生し、喉を引き締め音を形に、言葉にする……その言葉はこの状況、敗北への道筋を破壊し、勝利をこの、力の入らなくなっている手に掴む為の物だった……が、返事は、勝利へのヒントは見つからなかった。
「っ……? あーくそ……寝てやッ……がる!」
何故返事が無いのか、その理由は単純明快、簡単な物だった……アーマードナイトの胸アーマーに視線を向けてみると、ナイトの大きな、親しげのある瞳は閉ざされ、ただの線となっていた、そう、つまりナイトはフラワーワールデスの花粉により眠っているのである。
こいつ……俺の意識を奪うなんて不可能、なんてカッコつけて言ってたくせにバッチリ熟睡してんじゃねえか。
「どうすんっ……だよこ……れァ!」
迫り来る地上を見つめ、目を離さず、半分自暴自棄になって叫ぶ。
肉体が麻痺し受け身を取る事も出来ない、ナイトが眠っている為新たな能力、まだ使っていない力があったとしても分からない、脳も正常に動かないから自分自身の発想に頼る事も出来ない……そんな状況で、今、花々の地上が迫っている……つまり、ほぼ詰み、何か奇跡でも起こらない限り俺は死ぬ、残り数秒でナイト共々砕け散り、飛び散る事となる。
「ッ……ォオオ……!」
1秒、2秒、3秒……そんな風に、時はカウントを進め、3m、2m、1m……そんな風に地上との距離、空間はカウントダウンを進める。
俺はおそらく、残り1秒、残り1mで墜落し、花々を円状に、紅色に染め上げる……そんな様子が、花達が彼岸花に姿を変貌させる未来が脳裏に過ぎった、その瞬間……
「うぉぁッ……がァ!」
花々の隙間から細い蔦……フラワーワールデスの解放した、又は演じている凶暴性を象徴する様な鋭い棘を持った荊が姿を現し、俺が墜落する事で花々を散らす事を防ぐかのように鎧に纏わりつき、締め付け、棘を突き刺し、地上との衝突寸前の所で俺の落下を食い止めた。
「ずづぁぁ……あぁ!」
荊はどんどんと締め付ける力を強め、鎧に無数の風穴を開け、その下の俺の肉体を棘の先端で浅く刺し、ゆっくりと蠢き、皮を、肉を少しずつ......でも確実に、命を破壊する為に、抉り貫き引き裂いた。
「がぁぁぁ......! あぐぅぎぉぃッ!」
俺の傷から、鎧の穴から、俺の血……生命の源となる液体が流れ出し……花びらを伝い、幹を伝い、そしてフラワーワールデス自身と直接繋がっている巨大な根に吸われ、フラワーワールデスの生命力と変換され、それにより荊の力は増していく。
「ぐぁぞ……が……」
増大する荊の力とは対照的に、アーマードナイトの力は、俺の抵抗する力、生きようとする心は衰弱する。
フラワーワールデスは言った。
その場しのぎの覚悟が、自らの誇りを捨てる程の覚悟には勝てないと、そう言った……確かにその通りだ、フラワーワールデスはこれまで、無数の世界、更にその中の無数の惑星を侵食してきた……だが、その中で1度も自分の手で直接命を奪う事は無く、永遠に眠り、いずれ衰弱し散る命だったとしても、せめて幸せな夢の中で終わらせる、そんな優しさを模した何か……それを自分は心に宿しているという誇りを、永遠の時の中で決して手放さなかった誇りを捨てる様な覚悟に俺の覚悟が、ましてや、今、生きようとする事を諦め始めている……つまり小さな覚悟さえも無くそうとしている様なただの人型が、大きな覚悟を手にした、そして強大な力を持つ人型に勝てるわけが……勝てる……わけ……
「あ……?」
俺は今、思考の中でなんて言った?
連ねた文字の中にどんな言葉を含ませた?
生きようとする事を諦め始めている……俺はそう思考したのか?
そんな事を考えてしまっているのか?
6年前のあの日に、あいつを見捨ててまで手に入れた、捨てなかったこの命を、こんな花野郎の為に諦めようとしていたのか?
そんな事、許される訳がない……その思考……命を諦める事も、フラワーワールデスに殺される事も……そして、過去の、見捨てた事も何もかも、許されてはならなかった。
だから、死ぬ事と過去が許されないのなら……俺は、朝日 昇流は……
「づづぁぁぁ……!」
1人……孤独だったとしても、この崩壊した世界で未来を生きなければならない、断罪されないまま、業を背負ったまま、生き続けなればならない……だからその為に俺は今、この荊を、束縛を引きちぎり、そしてフラワーワールデスを勝利しなくてはならなかった。
「ゼァァアアァァア……!」
眠り、夢の中で終わろうとする全身の筋肉に無理矢理力を込め、身体を広げ、荊を破壊しようとする……が、俺の最大限をぶつけても荊は引き伸ばされるだけで、その表面、そして内部にも傷1つ出来なかった。
もっと強い、大きな、平常時のアーマードナイトの力が必要だった、少なくとも俺だけではアーマードナイトの力は完全には使えない……だから、その力をフル活用する為には……
「おいナイト! さっさと起きやがれ! 俺もさっきからくっそ眠いけどッ……根性で戦ってんだよ起きねぇとぶっ殺すぞ焦げた上がったパンのカスみたいな色しやがってよォ!」
呑気に、気持ち良さそうに眠るナイトへの怒りもしっかりと暴言、侮辱の言葉として込めつつ、夢の中へ届く様に叫ぶ。
起きないとぶっ殺す、と言ったがナイトが起きなければ俺もナイトも本当にぶっ殺される事になってしまう、それを防ぐ為にも俺は叫ぶ、鎧を伝わり、この居眠り野郎が目覚める事を願って、血を吐きながらも力を抜かずに絶叫を放った。
「それかあれだなぁああ! 吐き捨てられて黒く変色したガムの色かもなぁあ!?」
「ッツ! 夜空の色に決まってんだろ押し潰してカップ麺の謎肉みたいにしてやろうかてめぇ!」
怒りを込めた馬尾雑言によってナイトは目を覚まし、暴言……と言えるか分からない意味不明の言葉を投げかけてくる。
「なんだその貶してんのかなんなのか分からん罵倒……ッまぁなんでもいい! 起きたんだったらさっさと荊ぶっ千切んのを手伝え!」
「あぁ? 荊ってなんぁうぉぁなんだこの状況!?」
ナイトは荊に全身を巻かれ、破壊されかけているという現状を理解し、驚いて叫び喚く。
ナイトの瞳がある位置は完全に荊に覆われてるはずなのに気が付いてなかったのかよこいつ。
「とにかく状況理解したんならッ……エネルギー増大させるなりなんなりしろ!」
「エネルギーを増大……まぁ方法はあるにはあるな……」
ナイトは含みを持たせる様に、少し迷っている様に小さく言う。
「あるなら早く頼む! 急がないとほんとに死ぬ……!」
「いやあるんだが……簡単に言ってしまえば危険な方法というか、なんというかだな……」
「いや危険な手だからってやらずに死ぬのはバカだろ!」
たとえ危険な方法だとしても死ぬよりはマシなはずだ……ここで躊躇して殺されるくらいならその方法にさっさと手を出した方がいい。
「……パワーアップ後、1分以内に俺と分離しなきゃ死ぬ事になる」
「……は?」
ナイトは一言、簡潔に、どんな相手でも理解出来る様に、理解を脳が拒絶する様な内容の言葉を言い放ったのだった。
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