解呪の見込み

「二人共異論がなければ婚約を交わしたいのだが…ミューズ嬢はそのままではサインが出来ないか」

今のミューズはペンを持つことも出来ないサイズの為、アルフレッドは残念そうに唸る。


「そうね、呪いを解かないといけないわ。サミュエルは起きたかしら?」

王妃のアナスタシアは側近に声を掛け、様子を見に行かせた。


「早く元に戻してあげて、婚約パーティを開きたいわ」

アナスタシアは今から楽しみだと笑っている。


「婚約パーティについてはそう焦ることもないでしょう、寧ろ開かなくてもいい」

「あら、嫌なの?」

婚約パーティなどしたら、穏便に婚約解消出来なくなってしまう。


「いえ、今する話ではないと思っただけです」

ティタンは顔を伏せた。


王太子の婚約者であるレナンが席を立ち上がり、ミューズの側に寄った。

「ミューズ様、嬉しいです。わたくしに妹が出来るなんて」

にこやかな笑顔で、そっと手を伸ばされる。


ミューズも手を伸ばし、レナンの指先に触れた。

触れられてとても嬉しそうだ。


「レナン様、改めてよろしくお願いしますね」

裏のなさそうなレナンにミューズはホッとした。

このような状況でも優しくしてもらえるなんて嬉しいし、今後親類となるのだから早々に受け入れられて安堵した思いもある。


「困った事があったら、わたくしに相談してね。王族の婚約者という、同じ立場になるから何か助言が出来ると思うわ」


レナンは優しくミューズの髪を撫でた。

「本当に可愛らしいわ、お人形さんみたい」


アナスタシアも、ミューズの元へと歩み寄る。

「私も相談は何でも受けるわよ、特に息子について困った事があったら言ってね。エリックは意地悪だし、ティタンは少し鈍感だから」


二人の息子の短所を上げながら、ため息をつく。


「もう二人共極端なのよね。困ったわ」

母親らしい悩み事だ。





「皆様お揃いのところ、失礼します」

昨日よりはしっかりとした足取りでサミュエルが来る。


変わらずフードは目深に被っていた。


「ミューズ様、昨日は失礼しました。あのような姿での顔合わせとは、本当に不甲斐ない」


目上の者に見せる姿ではなかったと、サミュエルは反省している。


「いえ、私のために無理に起こしてしまったと聞きました。こちらのほうが申し訳ないです」

ミューズも謝罪を述べる。


「ミューズ様はティタン様の婚約者と聞きました、ならば俺が力を尽くすのは当然です」

サミュエルは、膝をついた。


「俺に敬語は不要です。ティタン様の婚姻相手ならば、俺にとっては仕えるべき主。ならばどうぞ手足のように使ってください」


「いえ、そこまではちょっと…」

重すぎる言葉だ。

実際はまだ書類すら交わしていないのに。


「サミュエル、彼女とはまだ婚約を結べていない。あまり困らせるな」


ティタンの言葉にサミュエルは先走ってしまった事に気づく。

「失礼しました。解呪しない事には婚姻もまだ難しいですよね、俺の至らなさで遅くなってしまい、申し訳ありません。夕方には治せると思うのですが…」

「夕方に?」


ミューズはようやっとこのサイズから開放されるのかと嬉しくなる。


「えぇ。今オスカーに頼んでとある薬草を取らせに行っています。あいつは植物に詳しいので。それが届き次第薬を作りますので、夕方には出来るかと」

「では急いでミューズ様のドレスを調達するです。その頃には間に合わせますので」



マオの言葉にアナスタシアが動く。

「ミューズ様の為のドレスね、わかったわ。ちなみにサイズはどれ位かしら」

唐突に聞かれ、ミューズはどう伝えるか迷う。


「背丈はマオくらいで、胸元はもう少し、余裕があると嬉しいです」


身長は小柄ながらも、出るところは出ている。


ミューズの今の体型から予測し、侍女達に伝えた。


「サイズは、わかったわね。では彼女に合うドレスと装飾品を次々と見繕ってきなさい。予算は気にしません。夕方に間に合うように急いでね」


「「はい!」」


侍女達は駆け出していった。


「着られる服があれば結構ですよ。装飾品なんて、申し訳ないです」

おろおろとするミューズにアナスタシアはピシャリと言った。


「何を言うのです!あなたは息子の婚約者となるのですよ、それなりの格好をしなくてはいけません。戻ったら髪も肌もピカピカにして、あぁ髪型はどうしましょ」


キラキラとした目でアナスタシアがミューズの髪に触れる。


本物の着せ替え人形のようだ。


「母上、ミューズ嬢が困っています。あまり圧をかけないでください」

たまらずティタンはミューズを庇った。


困る姿が本当に可哀想だったからだ。



「ありがとうございます、ティタン様」

ホッとした笑顔を向けられ、ティタンはそれだけで勘違いしそうだった。


余計な贅沢は好まないし、想い人でもない自分にそのような笑顔を向けるなんて。


ティタンの表情は曇るばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る