13話 高野と佐々木<2>

「で、これから少しは進展するんでしょうか?」

「信頼しているやつに足取り確認をしてもらってるから、あいつなら何かつかんでくると思うよ」

「我々がこんなに動いて何も掴めてないのに、ですか?」

「う~ん、なんていうかな、ここだから無理ってのもあるわけよ。でさらに、あいつはねぇ、視点が僕らとは違うんだよ。まぁ、だからはみ出しちゃってたんだけど」

 ニヤニヤと嬉しそうに言う高野こうやの様子に、珍しいと少し驚く佐々木ささき

「署長がそこまで買っているのは珍しいですね。余程優秀な方なんでしょうか」

「う~ん、優秀ってのとは違うんだけど、努力家ではあるよ。馬鹿で単純でからかい甲斐もある」

「……褒めてます?」

「十分誉めてるよ。僕が女ならあいつと結婚したのにっていうぐらいには」

 褒めているのか貶しているのかよくわからないと、首をかしげる佐々木ささきをみて、思い出したとばかりに高野こうやは手を叩いた。

「その顔で思い出した。あと、春日かすがさんにも連絡取らないとね」

春日かすが、っていうとあの弁護士の春日源三郎かすがげんざぶろうさんですか?」

「そうそう、彼にもこれから迷惑かけちゃうだろうから」

「私の顔で思い出したってどういうことです?」

 少々不機嫌に佐々木ささきがいえば、高野こうやは慌てて手を振る。

「君が似てるとかじゃなくって、そのよくわからないという風な表情だよ。あの爺さん、よくそういう表情をするんだ。わかっていながら、わかってないような表情をして周りを煙に巻こうとする感じでね」

「はぁ、まぁ良いですけど。じゃぁ、あちらにも協力を要請するんですね」

「そりゃね、協力してもらわないと困るでしょ。こっちは容疑者を絞りきれてないし、いろんな人に任意で話を聞くわけで、そうしたら当然、疑われた! と騒ぐ連中もいるからね。弁護士にというより春日かすが先生に間に入ってもらわないと」

 それはそうですね、と言って、少しため息を付いた後、顎に手を当て考え込んだ。

 その様子に高野こうやが下から顔を覗き込むようにして聞く。

「どうかした?」

「いえ、春日かすがさんの事務所に私の彼が居るんですが、そうなると、この週末のデートはお預けになりそうだなと思いまして」

「え! あそこに居るの?! うわ~彼氏も大変だね~」

「まぁ、大変そうではありますが、仕事が忙しいというのは良いことですから」

「えぇ~、彼氏が可愛そうになるよ。変人で偏屈な爺さんと、堅物彼女を相手にしないといけないなんて」

「……なるほど、署長はもっとお仕事をしたいと。わかりました、各課にそのように伝えておきます。それでは」

 にっこり微笑んで去っていく佐々木ささきに、焦りながら謝った高野こうやだったが、時すでに遅し、部屋の扉が大きな音を立てて閉まった。

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