12話 高野と佐々木<1>

「はぁ~、一体何なんだよ、この間からさ~」

 デスクに突っ伏し、駄々っ子のように文句を言う男はこの市の警察署を取り仕切る署長である高野武志こうやたけし

「署長、そのようにだらしない姿は極力署内ではお控えください」

 高野こうやにピシャリと言ってのけているのは、補佐役の佐々木洋子ささきようこ

「別にいいじゃん、ここに人が来るなんてめったにないんだし、今昼休憩だし」

「その口調もおやめください。年上の良い年したオッサンが使う言葉ではありません」 

洋子ようこくんはお硬いなぁ。そんなだと彼氏も出来ないよ?」

「ご心配無用です。すでにおりますので。あとセクハラです、お気をつけください」

「えぇ! 彼氏いるの? ほんとに?! 信じられん」

「失礼極まりないですね。モラハラも追加されました」

「はぁ、ちょっと砕けた会話しただけじゃん。世の中ハラスメントでがんじがらめだよ」

「諦めてください、そういう世の中です。それより、仕事をしてください。書類仕事だけでもこの量ですし、他にも色々溜まってますよ」

 佐々木ささきが机の上にあるいくつもの紙束を指さしいえば、高野こうやは大きなため息をつきつつ、頬杖をついて口をとがらせた。

「そんなこと言ってもねぇ、こっちとしても精一杯動いてるわけよ。おじさん、頑張ってるんだよ? 古い知り合いまで動員してさ~。なのにだ、次から次へと問題が湧いて上がるんだから処理しきれないよ」

 ふてくされる高野こうやに濃い目のお茶を入れた佐々木ささきは、高野こうやの机の上にある資料を一つ手に取る。

「それにしても、ここ数ヶ月で行方不明が四件。しかも届け出を出してきたのは困り果てた大家だったりで、親族や友人というのがほとんど居ない若い女性ばかり。異常ですよね」

「そう、だからいつ居なくなったのかも分からない始末。それに加えて三つの変死体の発見。それが行方不明者と合致してくれれば少しは進展するんだろうけど、いずれも違うし、遺体の二つは男の可能性がある。行方不明の女性たちも身寄りがないってこと以外の共通点無し。変死体はそれぞれ炭化したのと、ミイラのように干からびてるのと、花にまみれているの。何の意味があるの!? 訳分かんないし。なんかの宗教の儀式? もうそんなのこっちがお願いしたいよね。仏様や神様に、解決してくださいって」

「……。各所で女性を中心に注意喚起していますが、自身で勝手にいなくなったのか、それとも事件に巻き込まれたのか、それが分からないので本当に『戸締まりに注意しましょう』とか、それくらいしか出来ないんですよね」

「無視しなくてもよくない? 結局神頼みかい! とかいうツッコミを期待してたんだけど」

「コミュハラですね」

「えっと、僕喋れなくなっちゃうよ? はぁ、僕はさ~事件のない穏やかな日々を過ごしたくてココに赴任してきたのに、どうしてこう、事件が起こるのかなぁ」

「……何を仰ってるんです? 有名じゃないですか『高野こうやの行くところ事件あり』って」

「なにそれ、始めて聞いたけど」

「有名ですよ。高野こうや署長の行く場所には必ず事件が起こるって。だからできるだけ署長を一つのところに留めないようにと、転々と赴任させてるんだと。私も感心しました。流石、事件を呼び寄せる才能がお有りで」

「え、優秀だらか色んなところで活躍してほしいとかそう言うんじゃなかったの? 酷くない? 僕は事件は望んでないよ?」

「まぁ、噂ではありますが、私は体感としてなるほどと納得しております」

 手に持っていた資料を机に置き、更に書類を「急ぎです」と重ねた佐々木ささきが不貞腐れている高野こうやを見下ろした。

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