第13話
「あの。今、ロイド・マクドウェルって」
アーサー校長が校内放送を終えて受話器を置くと、ヴィクトリアは震える声で口を開いた。
「マクドウェル君はあなたが編入するクラスの委員長です。あのマクドウェル伯爵の一人息子ですよ。彼はとても優秀で、一年次からずっとクラス委員長をお願いしています。2年次の後期に行われる選挙では、おそらく生徒会長に指名されるでしょうな。あなたも何か困ったことがあれば、彼に頼るといいでしょう」
ヴィクトリアはそっと両手で体を抱きしめた。
あの嫌な思い出がよみがえる。
大丈夫、大丈夫だ。
あれは、失われた過去。悪夢の一片。
今の彼はエザベラ皇女の付き人じゃない。
しばらくすると、しっかりとしたノックの音ともに、ロイド・マクドウェルが校長室に入ってきた。
「校長。およびでしょうか」
「ああ、マクドウェル君。呼び出して悪かったね。こちらは編入生のヴィクトリア・フォーベルマンさん。君のクラスに今日から編入する生徒がいると話してありましたよね。よろしく頼みますよ」
「はい」
「早速だが、彼女を教室に案内してあげてください。そろそろHRが始まる時間でしょう?」
「承知しました。フォーベルマン嬢。私はロイド・マクドウェルと申します。教室にご案内しますからついてきてください。フォーベルマン嬢?」
ロイドは秀麗な眉をひそめながら、ソファに腰かけたまま動かないヴィクトリアの顔を覗き込んだ。
顔を上げると、記憶よりも少し若いロイドが目の前にいる。
ヴィクトリアは、無理やり笑顔を作った。
「はじめまして、マクドウェル様。ヴィクトリアです。よろしくお願いいたします」
ロイドはハッと息をのんだが、すぐさま何事もなかったかのような元の無表情に戻った。
「こちらこそ、お会いできて光栄です。お噂はユリウスから伺っております」
「ユリウスから? お恥ずかしい噂話ではないとよいのですが。ユリウスとは最近会っていないのだけれど、元気かしら」
「ええ。彼はこの学校の騎士養成コースにおりますから、いつでも会えます」
こほん、とわざとらしい咳払いのあとに、アーサー校長が話に割り込んできた。
「さあさあ。HRが始まりますよ。話の続きは休み時間にしてくださいね」
それを聞いたロイドは、すぐにアーサー校長に向き直り丁寧にお辞儀をした。
「はい。では校長、失礼いたします」
「お二人とも、勉学に励んでください。何かあればいつでも校長室にいらしてくださいね」
「ええ。ありがとうございます」
ヴィクトリアも礼を告げ、ロイドと連れ立って校長室を後にした。
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