第29話 魔王、襲撃するのじゃ

 深夜、人気が無くなった商店の前にわらわ達は居た。

 顔を隠し、真っ黒なローブに身を隠しての隠密行動じゃ。


「建物の周囲に遮音結界を張りました。これでどれだけ大きな音がしてもバレる事はありません」


「うむ、ではやるとするか」


 準備が出来た所で、わらわは魔力を平たく収束する。

 そして軽く飛び上がるとそれを横なぎに払った。


 スパンッと小気味よい音が鳴った直後、建物の屋根が真っ二つに割れた。


「ではゆくとするか」


 切断した天井をマジックポケットに収納すると、空から商店の内部へと侵入する。

 さーてあの男は……おお、おったおった。


わらわ達は呆然とした顔で天を仰ぐロッキルの下へと降り立つ。


「「こんばんわ」」


 挨拶は大事じゃからのう。


「な、な……!?」


 はっはっはっ、驚き過ぎて声も出ぬか?

 じゃがもう遅い。お主はわらわに喧嘩を売ったのじゃよ。

 魔王であるわらわにな! あっ、元魔王な。


即座にメイアが魔法でロッキルを拘束する。


「ひぃっ!? 助けてくれぇ!」


 捕らえられたロッキルは情けなく助けを求めてくる。


「助けてやっても良いぞ?」


 わらわも悪魔ではないからの。


「お主の財産全てを差し出せばの」


「はぁ!? ふざけるな!」


 はっはっはっ、ふざけてはおらぬよ。至極本気じゃからの。

 と、その時じゃった。ドアを蹴り飛ばす勢いで用心棒らしき男達が入って来たのじゃ。


「ロッキルさん大丈夫ですかい!?」


「おお! 良い所に来た! コイツ等を殺せ!」


 味方がやって来た事で希望が湧いたのか、ロッキルがこちらを睨みつける。

 拘束されとるのにいい度胸じゃのう。


「ほいサンダーブレイク」


「「「「もぎゃあああああ!!?」」」」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 わらわの放った魔法で用心棒達はあっという間に鎮圧された。

 まぁ所詮雇われのごろつきじゃしのう。


「ひ、ひぃ! た、頼む! 何でもやる! だから命だけは!!」


「二度もわらわ達に手を出して活かして貰えるとでも思っておるのか?」


「に、二度?」


 シルクモスの生地目当てにわらわ達を襲い、今もわらわ達を襲うように命じた。

 一度だけなら命だけは助けてやってもよかったのじゃが、二度逆らうようではもう活かしておく理由もないのう。


「ではさらばじゃ」


始末をつけたわらわ達はさっそく慰謝料を頂くことにした。

 襲ってくる者には相応の報いを。

 それが魔王になる前からのわらわ達のモットーじゃからの。


 わらわ達はロッキルの部屋にあった金目の物をかたっぱしからマジックポケットに放り込んでゆく。


「はっはっはーっ、久しぶりのボーナスタイムじゃー!」


「さすがに商会の主だけあって良いものを飾っていますね。とはいえ、少々物足りない感じですが」


 確かにロッキルの部屋はなかなか良い品が飾ってあったが、あれだけ乱暴な手段をとった割には置いてあるものが上品すぎる。

 それに壁に隠し棚の類も見当たらぬ。


「これは地下かのう?」


 悪党は大抵後ろめたい物をどこかに隠すものじゃ。

 それが主の部屋に無いのなら、大抵は地下に隠してあると考えるのが相場。


 む? 別の場所に隠してあるのではないか、か?

 確かに別のアジトに隠してある可能性もある。

 じゃが大抵の悪党は悪事の証拠を目の届く範囲に隠しておくものなんじゃよ。


 商会の業務が行われる一階におりたわらわ達は、倉庫にやってくる。


「ふむ、では倉庫の荷物もごっそり頂くとするか」


「あらリンド様。せっかくですから丸ごと頂きませんか?」


 しかしそこでメイアが待ったをかけてくる。


「まるごと? 店の商品を全部ではないのか?」


「いえ、店ごとです」


「店ごと……ああ、そういう事か」


 メイアの意図を察したわらわは、倉庫の荷物をそのままにして地下への入り口を探す。

幸い隠し階段はそれほど難しい場所に隠されてはおらず、人に見られにくい倉庫の奥まった場所で発見できた。


「では行くとするか」


 わらわ達は扉を破壊すると、地下へと降りてゆく。


「むっ、誰ぞおるの」


 地下へ降りてくるお、捜査魔法が地下に人気がある事をわらわに伝えてくる。

用心棒のようじゃが、地上に居た者達よりも数が多いではないか。

 これは余程隠したいものがあるみたいじゃの。


「では失礼するのじゃ!」


「お邪魔致します」


 わらわ達は躊躇うことなく用心棒達がいる部屋へと入る。


「な、なんだ手前ぇらぶぁ!?」


 相手が最後まで言い終える前に懐に飛び込んで鳩尾を強打。

 即座に一人目が沈む。


「なっ!? ぐひゅっ」


 驚いた二人目の背後に立ったメイアが意識を刈り取る。


「くっ、舐めやがって!」


 ようやく武器を構え終えたがわらわは構えた剣ごと相手を蹴り飛ばす。

 勿論殺しておらんよ?

 残った連中もわらわ達にとっては大した生涯とはならず、瞬く間に制圧が完了した。


「やっぱ人族のごろつきは弱いのう」


「訓練を受けた騎士でもなければ強力な魔物と戦い続けている冒険者でもありませんからね。多少腕の立つ者が居ましたが上位に上がれなかった冒険者崩れと言ったところでしょう」


 用心棒達をフン縛ったわらわ達は、地下の捜索を開始する。

 正直いって地下に隠されたお宝は上にある者とは比べ物にならない程価値のある品ばかりじゃった。


「おお、これは良いマジックアイテムじゃの。紋章が書かれていると言う事は貴族から奪った品か?」


「こちらは希少な薬草が沢山ですよ。どうやってこれだけの数を集めたのでしょうね。ですが管理が微妙ですね。すぐに持ち帰って処理をし直さないと」


「おお? これは呪いのアイテムのリストか? 中々えげつない効果の品が揃っておるの。騙されて買ったとは思えぬし、さては他人に使う為に買ったな」


 こんな物を利用してまで他人を陥れておったとは、まったく人族の方が魔族の名にふさわしいのではないかの?


「あら、これは人族の国では禁制品の危険な毒草ですね。薬物中毒にして逆らえない様にするつもりだったのでしょうか? 没収没収」


「おっとこっちは二重帳簿発見じゃ」


「犯罪の証拠が沢山ですねー。帰りによーく見える場所に飾っておきませんと……これは」


 と、メイアが何かの書類を見て表情を変える。


「どうしたのじゃ?」


「これを見てください」


「むっ?」


 メイアの差し出した書類を見たわらわは、その内容に眉を潜める。


「シルクモスの捕獲計画とな」


 そこには、別の大陸で発見したシルクモスの群れを捕獲する為の計画じゃった。

 そして書類に記された内容を見た感じ、既に計画は実行されこちらに向かって運ばれているようじゃ。


「もしやウチのシルクモス達は」


「はい、恐らくこの店の者達に捕らえられたのでしょうね」


 まさかそれと知らずに犯人を襲撃しておったとは驚きじゃのう。


「他の書類を見た感じですと、どうやらこの商店は他にもいくつかの魔物を捕らえては貴族に売りさばいていたようです。最近では国に同種の魔物を大量に納品していますね」


「国というとアレか?」


「ええ、宰相の計画ですね」


 しかもヒルデガルドの魔物使い計画にまで絡んでおったのか。


「魔物に関しては数の問題もありますので、ここはそのうちの一つと言う事でしょう」


 ふぅむ、兵力として仕えそうな魔物を見つけてはそれを売りつけておったか。

 モノだけでなく命まで売り物にするとは本当に業が深いことよ。


「どうやら地下は犯罪の証拠や表立って売る事の出来ない曰く付きの品ばかりのようじゃのう」


「これ以上人様に迷惑が掛からない様に、しっかり回収させて頂きましょう」


 地下倉庫の品をありがたくマジックポケットに収納したわらわ達はさらに奥へと向かう。


「ほう、これは牢屋か」


 奥に進むと鉄格子が嵌められた牢屋に出くわした。


「ただの商会の地下にあるような施設ではありませんね」


 じゃな。普通の商店は地下に牢屋なぞ作らんからの。

 どう見みても後ろめたい設備なのじゃ。


「む?」


 と、その時じゃった。牢屋の一角に弱々しい気配を感じたのじゃ。

 わらわが異常を感じた事を察したメイアもまた音を立てずに周囲を警戒しだす。

 牢屋のある地下から感じる弱々しい反応、普通に考えれば誰かが捕まっておるのであろうな。


 一応見にいくとするか。


 とはいえ誰が潜んでおるとも限らぬ。

わらわは油断なく通路を進んでゆく。

メイアは少しだけ離れた位置で何かあっても援護できるように備えつつ付いてきておる。


「ここか」


「ゥゥゥ……」


 反応があった牢屋の前に立つと、小さな唸り声が牢屋の隅から聞こえてくる。

 明らかにわらわを警戒しておるの。


「心配せずともよい。わらわはこの店の者ではない」


 甲高い声は大人の者ではない。と言う事は誰ぞ金持ちか貴族の子供でも誘拐してきたのかのう?

 いや、貴族の子供ならこんな獣の様な唸り声をあげたりはせぬか。獣人族ならありえるかの?

 わらわは閉じ込められた者を刺激せぬよう、弱めの灯りの魔法で牢屋の中を照らす。


「む? これは……!?」


 そこにおったのは人族の子でも獣人族の子でもなかった。


「ゥゥゥゥゥゥゥ!」


 なんと魔物の子供だったのじゃ。

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