第90話 初デート開幕!

「デート♪︎ デート♪︎ ふんふふ~ん♪︎」

「朝からご機嫌だな。まだ1時間くらいあるのに」


 デート当日の日曜日。朝食を終え、持って行く物の確認などデートの準備をする俺と、とっくに支度を整え、ソファーで鼻歌を歌うご機嫌な柚梪。


「だって、恋人同士の特別なお出かけですよ? 楽しみで仕方ありません! 龍夜さん、早く行きましょうよ~!」

「まあ、落ち着け。今から家を出ても、行く予定のお店とかギリ開いてないから」

「ギリなら待ってればいいじゃないですか!」

「……まあ、そうだな」


 時刻は9時10分頃。出かけるにはまだ早いが、柚梪が待ちきれないような顔を見せてくる。


「はぁ、仕方ないな。まあゆっくり歩いて行けばちょうどいいだろ」

「やった! そうと決まれば善は急げってやつですね! 早く行きましょう!」

「ゆっくりって言ったろ?」


 荷物の最終チェックを済ませた俺の腕をグイグイと引っ張り、玄関へ連れて行く。


 俺と柚梪は靴を履き、太陽が照らす快晴の外へと足を踏み出し、俺と柚梪の恋人関係は新しく一歩前へと進んだ。




 俺の決めた柚梪とのデートプラン……最初の目的地は、カップルに人気と有名な喫茶店だ。場所は、家から一番近い駅の前に位置する。


 その喫茶店は、特にカップルジュースとやらが有名らしい。よくアニメや漫画で見るような、1つのコップに入った飲み物を、1本のハート型ストローで親しい関係の男性と女性が飲むと言うもの。


 その他にも、その喫茶店ならではの美味しいスイーツも人気とのことだ。


 正直、カップルジュースなんてサイトに載っていた写真を見た時、『柚梪とこれを飲むとなれば』と考えたら、恥ずかしくて堪らなかった。


 だが、人生初のデートだ。思い出作りとして、恐れていては男の名に恥をかく。だからプランに加えた。


 今は、柚梪と腕を組みながら目的地の喫茶店へと向かっている最中だ。まあ、腕を組むのも恋人ならではのことだが、柚梪の方からくっついてきた。


「あ、猫ちゃん!」


 道を歩いていると、子猫を3匹連れた親猫が1匹の家族がいた。おそらく親猫は母親だろう。


 子猫の色は、黒・白・黒の模様がついた白の3匹。


 柚梪が猫達に近寄ると、子猫は柚梪の靴やスカートの裾の匂いを嗅いだ後、柚梪の足に頭や体を擦りつける仕草をする。


「わ~! 可愛い♡」


 どうやら人に懐く猫達のようだ。親猫も、子猫達が柚梪と戯れている所を、威嚇も止める仕草を見せず、少し離れた位置から見守っている。よほど人のことを信頼しているようだ。


「にゃ~」

「どうしたの? にゃ~にゃ~♪︎」


 子猫の鳴き声に合わせて、楽しそうに猫の真似をする柚梪が実に可愛い。見ていて目と耳が癒される。


 俺はポケットからスマホを取り出し、電源を入れる。


「柚梪、子猫ちゃんを抱っこしてこっち見て。写真撮るよ」

「は~い! じゃあ……君にしよう」


 柚梪は3匹いる子猫の中から、白い子猫のお腹を優しく両手で掴んで抱き上げると、自分の顔の横に白子猫の顔がくるよう持ち上げる。


「じゃあ撮るよ。はい、チーズ……」


 パシャッとシャッター音が鳴ると同時に、柚梪と3匹の子猫が映った写真を1枚撮る。柚梪が抱き上げている子猫以外の2匹は、スマホの方を向いていないけど、とても可愛いらしく撮れている。


「うん。いい感じに撮れたぞ」

「見せてください!」


 抱き上げた子猫を降ろした柚梪が、俺の隣へと移動してくる。


「ほれ」

「わ~! 可愛いです! 私の携帯にも送ってください!」

「いいよ。でも、家に帰ってからね」


 その後も、2~3分ほど子猫と戯れてたあと、猫の家族とお別れした。


 猫はとても可愛いが、野良の猫はどういう菌を持っているか分からないから、ちょうど近くにあった公園の手洗い用の水が出る蛇口で、柚梪に手を洗わせた。


「柚梪、ハンカチは?」

「はい、ちゃんと持ってきてますよ」


 柚梪はバッグからハンカチを取り出し、濡れた手を拭く。


「それにしても、ここ誰も居ませんね」

「まあ、小さな公園だからな。子供が遊びに来るって言っても、大抵はお昼過ぎた後だからな。……お、まあまあいい時間じゃん」


 スマホの電源を入れて時間を確認すると、9時25分を過ぎた頃だった。


 ここから駅まで、もうちょい距離がある。だいたい15分と例えれば、途中休憩を入れたりするし、だいたい50分には到着するだろう。


 喫茶店は朝8時から夜の22時まで営業しているが、日曜日だけは朝10時開店なんだ。


 それに、日曜日は休日だ。人気のある喫茶店なら、必ず人がたくさんくるだろう。少し早めに到着して待っておくのがちょうどいい。


「柚梪、もう行けるか?」

「はい! 柚梪ちゃんは元気満々です! さあ、行きましょう龍夜さん!」


 再び腕にしがみついてくる柚梪。


 今は周りに人が居ないからあれだけど、大通りとかに出たら人の目を寄せ付けるんだろうなぁ……


 でもその反面、柚梪と言う元お嬢様の可愛いくて美人な彼女が居るという所を見せつけたい欲もある。


 高校時代の時は、よく友達と『付き合ってる奴は消えちまえー』とか言ってたけど、今となれば逆の立場だ。この場面を高校の友達に見られたら、どうな反応されることか。


 そしてここから、俺と柚梪の本格的なデートが幕を開ける………


 

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