第21話 雷

 部屋中の電力が停止し、いつ復旧するのかも分からない状況だが、俺と柚梪はスマホの明かりだけで歯を磨く。


 お互いに並びながら、まるで親子のように歯を磨き、本当なら1人ずつ磨く予定だったのだが、生憎あいにく今は柚梪が怯えている状態で、俺の腰元の服を掴んで、離してくれる気配がない。


 夜23時頃、我が家の就寝時間になる。


 歯を磨き終わった俺は、柚梪を連れて2階の自室へと行き、柚梪を寝かせるつもりだったのだが……


「柚梪……?」


 階段を前に、柚梪は……今にでも涙が溢れそうなほど、俺の服を掴みながら潤った目で見つめてくる。


 夜中の2階は、朝やお昼と違って漆黒の闇に包まれている。さらに、雨戸を閉めて停電もしているため、1階の電気の光が行き届かず、さらに闇と化していた。


 俺も、子供の頃に体験しているから、柚梪の気持ちが良く分かる。なぜか知らないけど、夜中の2階って少し恐怖心を持つよな。


「2階が怖いのか?」


 柚梪は弱々しく1回頷くと、片手から両手で俺の右手を、ギュッと握ってくる。


 だが、柚梪が2階で寝てくれないとなると、ソファーを2人で使って寝ることになる。とてもじゃないが、俺1人で寝っ転がるだけで埋まってしまうから、2人でとか寝れたもんじゃない。


 しかし……柚梪は1人が嫌なのだろうし、どうしたものか。


 しばらく考えた後、俺はソファーに座って寝ることにし、柚梪を寝っ転がせることにした。


 ソファーへと戻ってきた俺は、定位置に座り柚梪は寝っ転がせようとしたが、俺の右腕にしがみついて身を寄せる。


 毛布を肩まで被る柚梪。俺の分の毛布すら持っていかれてしまった。


 優しく柚梪の体を抱き寄せると、少し安心したのか、頭を俺の肩に添えながら、柚梪のまぶたはゆっくりと閉じていく。


 ピカッ……ドーン、ゴロゴロ……


「……!?」


 柚梪が眠りに入ろうとすると、突如として雨戸の隙間から白い光が、部屋中を僅かに照らした後、とんでもなく大きな音が鳴り響く。


 さすがの俺のビビってしまった……それどころか、柚梪に関しては眠りに入ろうとしていた時のため、完全なる不意打ち。


 雷の音を聞いた柚梪は、一瞬で目が覚め、俺の腕から体の方へと逃げるかのように飛びついてきた。

 それどころか、限界を迎えた柚梪は……涙を流して、声は出ていないものの、本格的に泣き始めてしまった。


 俺のお腹らへんの服を握り、柚梪の涙が服にみていく。


「確かに、今の雷はすごかったね。柚梪、大丈夫だから、そんなに泣かないで?」


 右手で柚梪の頭を撫でる。しかし、柚梪の泣き止む気配は無い。


 すると、追い討ちをかけるかのように、再び部屋中を白い光が照らした後、大きな雷が鳴り響く。


 ピカッ……ドーン、ゴロゴロ……


「……っ!?」


 柚梪は、さらに服を握り締める力が強くなる。泣き止む所か、より泣き出してしまった。困ったなぁ……


 俺も雷が怖くて、母さんから離れられなかった頃があったな。そういえば……俺が怖がって母さんの元を離れなかった時、ある事をしてくれたっけな。

 確か、そのある事を母さんにしてもらうと……恐怖でいっぱいだった俺は、急に安心感に包まれた記憶があるぞ。


 柚梪に効果があるかは分からないが、やってみる価値はあるだろう。


「柚梪……」


 俺は、柚梪の体をグイッと俺の体へと寄せ、膝の上に柚梪を座らせると、左手を背中へと通し柚梪の左肩を優しく握り、右手を柚梪の頭に置いて、俺のある場所に耳があたるように、柚梪自体を移動させる。


 そのある場所ってのが、俺の心臓だ。


 簡単に言うと、柚梪を俺の膝の上に座らせて、柚梪を抱き締めた後、俺の心臓の鼓動が聞こえる場所に、柚梪の耳をあてている状態だ。


 そして俺は、腕の中で困惑しながら涙をポロポロと流す柚梪に、優しく声をかけてやる。


「柚梪。大丈夫……俺がここに居るし、柚梪の事を守っているから、安心しな。大丈夫大丈夫」


 俺のドクンドクンと鳴る、心臓の鼓動を聞きながら、頭を撫でられる柚梪。この時の柚梪は、すでに涙を流さなくなっていた。


 どうやら効果ありのようだ。俺は柚梪の体を、さらにギュッと抱き締める。柚梪が安心出来るように……


 俺もあの時、母さんの心臓が動く鼓動を聴きながら、優しい言葉をかけて貰った。なぜかは知らないけれど、人は他人の心臓音を聞くと、多くの人が落ち着くらしい。


 俺の腕の中に居る柚梪は、俺の言葉と心臓の鼓動を聞き、温もりを感じていると、気がつかない間に眠っていた。


 少し涙がはみ出ているが、スヤスヤと安らかに眠る柚梪の頭を、俺は止めることなく、優しく撫で続けた。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る