『二日目』
二日目
翌日。確かに巻き戻ってしまったこの村の中で、私だけが
「レインに、レインに知らせないとっ、みんな忘れているんだ、この村が繰り返しているって!」
私の記憶をフラッシュバックさせた“ロンドベル庭園の魔草”。大輪開いた銀色に連れ戻された記憶はとても僅かで、この村が繰り返していると言う事と、この花を渡されたあの時の光景の事しか思い出せないでいる。
「私一人では何も出来ない……でも、レインなら」
彼は私を、この世界から連れ出すと言ってくれた。あの目を、あの声を、あの温もりを覚えている。
「私の世界を変えてくれたのは、お父さんじゃなくてアナタだった。だから今度は私がアナタの手を引いて見せる」
――とにかく、やってみなくちゃ。レインは昼過ぎに、あの細い路地に姿を現す。その時に全部伝えるんだ。
昨日と同じ空模様を窓の向こうに見上げながら、私はお父さんの寝室を出る。
*
「わた、私たちはね、レイン。繰り返してるんだよ! この村もみんなも全部!」
何故だかイルベルトの現れなかった暗い路地の真ん中で、私とレインとの間に沈黙が走った。ひたすらに無垢な灰の眼差しが、首を傾げて私を見下ろしている。
「繰り返しって、なんの話しをしてるのリズ?」
「思い出さないの? じゃ、じゃあ」
“ロンドベル庭園の魔草”を取り出しレインに触れさせたけれど、彼は目をパチクリさせながら肩を上げるだけだった。私の様に記憶がフラッシュバックする事は無いみたいだ。
「ごめんねリズ。僕らは今からお母さんを迎えに行かないといけないんだ。リズも来るだろう、夜会?」
「え、ぁ……いや、私は」
レインは無邪気な笑顔を見せながら、手で雨を遮って私の元を後にしようとする。彼の少し下がった眉が困惑するのを表現していて、私の心は折れそうになった。でもきっとこのままじゃダメだと思って、私は勇気を振り絞ってレインの背中に再び叫び付ける。
「本当に思い出さないの? 私たちがこの村の繰り返しに気付いて、一緒にこの呪いを出ようって誓った事」
「呪い……?」
足を止めて振り返ったレインが、雨に濡れるまま口元に指先を添えて空を見上げる。私は今更恥ずかしくなって、真っ赤になった顔を俯かせて返答を待っていた。
「あはは……ごめんリズ、また明日。行こうかスノウ」
「っ……レイン」
暗い路地を抜けていく背中を、私は見つめている事しか出来ない。「待って」と彼の背中を掴みたいのに、やっぱり私にはそれが出来ない。
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