青藍・不死身・ポニーテール

 ポニーテールが揺れる。黒髪のキミはいつ見てもはつらつとしていて、眩しい。まるで違う世界の住人みたいだ。実際同じ学校に通っているのに、話したこともないどころか同じ教室で授業を受けたこともない。それはキミがアイドルだからだ。


 同じ学校に通っているし、一緒の授業を受ける機会もあった。けれど、キミはアイドル。学業を優先してるものの仕事が忙しくて学校に来ない日だって多い。


 だからキミが通学する日は学校全体がちょっとだけ浮足立つ。キミのファンは学校内にだってとっても多いのだ。でおその殆どが遠目から見守るだけ。仲の良いメンツは決まっていて、彼らが守るようにしているせいでおいせそれと近寄ることすら出来やしない。


 その事自体に不満はない。もちろん不満がある人のほうが多いとの話だ。アイドルとお近づきになりたいのは分かる。でもアイドルというものは遠くから見守るだけでいいはずだ。本来そういう存在のはず。


 それ故にアイドルは不死身であるはずだし不滅でもあるはずなのだ。


 下手に近づき過ぎでもしたらその偶像は打ち砕かれて、アイドルがただの人間になってしまいかねない。


 遠くから応援するだけでいいのに、近づく奴らはそれが分かっていやしない。


「おはよう」


 そのはずなのにキミはボクに朝の挨拶をしてきた。間違いなくボクにおはようと言った。それはなぜだか今日は取り巻きもいないからで、なんならいつもよりも早く登校したお陰でふたりっきりでの校門。


「お、おはようございます」

「なんで、敬語なの? 同じ学年だよね。そんなに気にしなくていいのに」


 キミの声はとても同じ生物とは思えないほど澄んでいて、その発する言葉の邪魔をしたくないと思った。


「気にしますよ。キミはアイドルなんです。ボクとは違う世界の住人。そんな人としゃべるだけでもおこがましいのに、タメ口だなんて」

「……え? 何言ってるの?」


 しまった。思っていることをつい言ってしまった。本人に言っていいことじゃないだろ。


「君って面白いね。ねっ。名前教えてよ。これから仲良くしよ?」


 とんでもないことを言われている気がする。頭が混乱して理解が追いつかない。


 差し出された手は握手を求められているのだろうか。どうすればいい。正解はなんだと頭が痛くなる。


 握手に応じないのは失礼この上ないのだ。おずおずと手を差し出す。


「よろしくね」


 青藍色の爪をしたキミはボクの手をしっかりと握って、眩しいくらいの笑顔をボクだけに見せてくれたのだ。

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