第6話 婚約解消

 二人の関係を目の当たりにして、逆にあの日から心の準備はできていた。


 その日は、私の治療が終わってからちょうど二ヶ月後のことだった。




「ユーリア。今日は君に大切な話をしにきたんだ」


 それを伝えに来たミハイル様の隣には、ヴェロニカさんがピッタリと寄り添っていた。


 わざわざ直接私の元を訪れたミハイル様は、珍しく緊張した様子だった。


 ああ。


 とうとうこの日が来たのかと、とうに覚悟はできていたけど、やっぱり心は痛んだ。


「部屋に入ってもいいかな?」


「はい。王家の御厚意で滞在させていただいている身です。どうぞ、私の許可など得る必要はないのです」


 私に与えられた部屋は続き部屋となっていて、隣はずっと過ごしていた寝室であり、こちら側は応接室の役割も果たせる。


 ミハイル様とヴェロニカさんに、部屋の中央に設置されたソファーを勧めた。


 ミハイル様とヴェロニカさんが座った向かい側に、私も座る。


「これから君に伝えることは、君をどれだけ傷付けるか理解している。誹りはいくらでも受けるつもりだ」


「どうぞ、ミハイル様の話を続けてください」


 ミハイル様が話し始めると、不思議と心は穏やかなものとなっていた。


「私は、ヴェロニカの事を愛している。彼女との出会いは運命だっと感じているんだ。これから先、聖女の役目を果たしていかなければならない彼女のことを、公私共に支えていきたい。ユーリア。どうか私との婚約を解消してくれ」


 ミハイル様はそれを言い切ると、膝に置いた拳に力を込めており、私からの糾弾を待っているようだった。


「承知しました。王太子殿下」


 だから、その言葉をお伝えした時は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をされて、私を見ていた。


「これまでありがとうございました。殿下が寄り添ってくださったから、病床にいても日々に絶望しなくて済みました」


 これは、本心からの言葉だった。


「私は、お二人のこれからを祝福いたします。私の命を救ってくださったのは、ヴェロニカさんです。幸せを願うのは当然のことです」


 それを聞き終えた王太子殿下は、安堵したような表情を見せていた。


「ありがとう、ユーリア。いや、ライネ辺境伯爵令嬢」


「では、必要な書類をこちらに届けていただけましたら、すぐに署名したいと思います。城を出る手筈も整えたいので、家族に連絡していただけると助かりますが」


「私が責任をもって全て行う。君の負担にならないように」


 話が済み、必要なことが決まると、殿下とヴェロニカさんはすぐに部屋から出て行った。


 そう言えば、ヴェロニカさんは特に何も喋らなかったな。


 殿下の隣に座って、穏やかな微笑を浮かべていただけだった。


 ほっと、人知れずため息を吐く。


 終わったのだ。


 これで、私とミハイル様との婚約関係は。


 最後はとても、呆気ないものだった。

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