第七話 少年はゾンビになっていた③

「へぇ、まだ動けるのか……面白い。だったら、この僕がお前を食らい尽くしてやる。最後までな」


「待てゾイ、これを使うとよいのじゃ」


 と、聞こえてくるマオの声。

 彼女はどこからか剣を取り出し、ゾイの方へと投げてくる。

 ゾイはそれをとりあえず受ける。


 だがしかし。

 ゾイに剣の心得などない。

 正直、このまま素手で戦った方が――。


「いや、待てよ……そういう事か」


 ゾイが思い出したのは、マオから受けた説明だ。

 それは――。


●食った対象のジョブを奪い取ることが出来る。


 さっき、ゾイは骸骨剣士を喰った。

 もし、その効果がすでに発動しているとすれば?


 …………。

 ………………。

 ……………………。


 結論から言おう。

 ゾイの予想は当たっていた


「おいおい、どうしたんだよ! お前本当に剣士か?」


 ゾイが繰り出す軽い斬撃。

 それを受ける度、よろける骸骨剣士。


「全然剣が使えてないじゃないかよぉ……悲しいなぁ! 今日まで必死になって努力してきたその剣技、急に使えなくなっちゃたんだもんなぁ!」


 大人と子供。

 プロと素人。


 今のゾイと骸骨剣士の間には、それほど差がある。

 無論、ゾイが前者だ。


「なんだそのへなちょこ剣技は? 型もなってない……子供のチャンバラかぁ!?」


 言って、ゾイは少し強めに骸骨剣士へ攻撃する。

 すると、簡単にすっころぶ骸骨剣士。


(ようやく実感した――これが始祖ゾンビの力か)


 骸骨剣士が弱くなった理由。

 ゾイが急に剣を使えるようになった理由。

 それは簡単だ。


 骸骨剣士のジョブ『剣士』。

 それをゾイが奪い取ったからだ。


「カ……カ、カカ」


 と、ゾイの思考を断ち切る様に聞こえてくる骸骨剣士の声。

 奴はゾイの方へと手を延ばし、悲しそうな声を上げている。


 きっとジョブを返してほしいに違いない。

 なるほど。


「もう飽きた……死ねよ、ただの骸骨野郎」


 言って、ゾイは骸骨剣士を切り刻む。

 身体強化スキルによって強化された身体能力。

 ジョブ『剣士』が取得しているあらゆる奥義。

 それら全てを使って。


 そうして数秒後。

 骸骨剣士はこの世から、塵も残さず消え失せた。

 残ったのは。


「……倒してみると、弱かったな」


 猛烈な速度で身体を回復させるゾイ。

 そんな彼と、それを見ているマオだけだった。 


      ●●●


 圧倒的な剣技。

 圧倒的な身体能力。

 圧倒的な再生能力。


 強い。


(もう昔の僕じゃない……僕は強くなったんだ。あんな怖そうな魔物を瞬殺できるくらい、僕は強くなった! この調子でどんどん強いやつのジョブを奪い取っていけば、僕はアオイたちに勝てる)


 などなど。

 ゾイがそんな事を考えていた。

 まさにその時。

 

「なん、だっ!?」


 突如、全身の力が抜け始めたのだ。

 けれど、ゾイには心当たりがあった。


「そう、か……身体強化のスキルが切れたんだ」


 急劇に身体能力がもとに戻った。

 要するに、ひ弱なゾイに戻った。

 その結果として、こういう症状がでているに違いない。


 だがしかし。

 全てが戻ったわけでない。


 ゾイはそんな事を考えた後、自らのステータスを確認する。

 するとそこにあったのは。


●ジョブ

『荷物持ち』『※剣士』


「ははっ……そうだ、もう僕はただの雑魚じゃない」


「調子はよさそうじゃな」


 と、聞こえてくるのマオの声だ。

 彼女はゾイの方へと近づいて来ると、そのまま言葉を続けてくる。


「これでうぬは骸骨剣士の力を宿したわけか……ふむ、これは期待できそうじゃ」


「骸骨剣士は……殺しちゃってよかったんですか? 思わずその――」


「いい、我は弱い者に興味がない。それに、うぬが骸骨剣士の力を手に入れたのならば、全く問題ないじゃろ」


 と、つまらなそうな様子のマオ。

 彼女は「さて」と一言、ゾイへと言ってくる。


「我の目的はかつて我を倒し、こんな少女の姿になるまで力を削いでくれた勇者たちを破滅させること……うぬと目的は一致していると思うが、我の下僕になる気はあるか?」


「マオ様は僕に力をくれました。だから、その答えは言うまでもなく決まっています」


 ゾイは復讐のためならば、手段は選ばない。

 魔王の配下にもなんだって、なってやる。


(今にみてろよアオイ、ネイカ、ライヒ……僕はお前たちを破滅させやる)


 ゾイはそんな事を考えた後、マオへ跪く。

 すると、マオは機嫌よさそうに彼へと言ってくる。


「よい、完璧じゃ。では完璧ついでに、近くの村を制圧してきてもらおうかの」


「近くの村? 魔王城の近くにそんな村があるんですか?」


「うむ、我が滅ぼされたと人間が思ってから数百年。奴らはこの城の周辺にも、我が物顔で村を作っている」


 と、不機嫌そうに足を揺らしてくるマオ。

 彼女はそのままゾイへと続けてくる。


「今のうぬならば、容易に制圧できるじゃろ? なにせその『剣士』というジョブの持ち主は、我の右腕と呼べるほどに強かったのじゃから」


「マオ様……僕は命令してくれれば、どんな事でもやりますよ」


 言って、ゾイは顔をあげマオを見つめる。

 彼はそのまま、彼女へと言葉を続けるのだった。


「それが最終的に、アオイたちを追い込むことになるのなら」

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