第六話 少年はゾンビになっていた②
マオに案内された結果。
ゾイにはいくつか、わかったことがある。
それは。
一つ目――この建物は魔王城であるということ。
二つ目――今いる場所は、そんな魔王城内にある訓練施設ということ。
三つ目――。
「あ、あひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!? 腕が、ぼ、僕の腕がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ゾイはたしかにゾンビになった。
だがしかし、結局ものすごく弱かったという事だ。
「い、痛い……はぁはぁ……も、もう嫌だ……た、助けて……マオ、助けて!」
「えぇい、腕を飛ばされたぐらいで狼狽えるなバカ者め」
と、言ってくるのはマオだ。
彼女はつまらなそうな様子で、ゾイへと言葉を続けてくる。
「腕なぞほっとけば生えてくるのじゃ……それと、我の事はマオ様と呼ぶように」
「カタカタカタカタカカタカタ」
と、マオの声に続いて聞こえてくる声。
その声こそが、ゾイの腕を斬り飛ばした犯人。
ゾイの対戦相手――骸骨剣士だ。
骸骨剣士は「カタカタ」と笑った後。
ゾイの方へと――
「く、来るな! い、いやだぁ……い、痛いのは嫌だ……っ」
ボトボト。
動くたび、そんな音と共に血が流れ落ちる。
しかも、視界にチラチラ映るのは先ほど切り落とされた――。
「う、腕……僕の腕……うぅ」
これは夢だ。
さすがにおかしい。
(そ、そうか! そうだよ! 僕はきっとまだ、眠っているんだ! この城のベッドで寝ているに違いな――)
スパンッ。
と、ゾイの思考を断ち切るように聞こえてくる音。
同時、感じたのは腹部の違和感。
「え?」
次の瞬間。
ゾイの腹から中身が零れ落ちた。
「えぇえええええええええええええええええええええええええ!? これ、あは、あはははははっ! これ僕のこれ僕のぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
感情の収集がつかない。
圧倒的な恐怖のせいで、何かが壊れていくのがわかる。
とりあえず、少し考える時間が欲しい。
だがしかし。
ゾイがそんな事を考えている間にも。
「カタカタカタカタ」
と、笑いながらさらに近づいて来る骸骨剣士。
同時――。
ぶちぶちぶち。
ぶちゅちゅちゅ。
骸骨剣士に踏まれるゾイの中身。
もうやめてほしい。
もうゾイの心は限界だ。
と、ゾイはそんな事を考えるのだが。
「ぶふっ」
ゾイの側頭部にヒットするのは、骸骨剣士の蹴り。
直後、彼は物凄い勢いで吹っ飛ぶ。
「…………」
気がつくと、ゾイは壁にめり込んでいた。
これ、もうだめなやつだ。
死ぬ。
普通に死ぬ。
死、ぬ?
本当、に?
「なにも……してない、のに?」
ゾイの脳裏に浮かぶのは、三人の女の姿。
すなわちアオイ、ネイカ、ライヒ。
「死ねない……あいつらに復讐するまで、僕は」
「カタカタカタカタカカタカタ」
と、ゾイの思考を断ち切る様に聞こえてくる骸骨剣士の声。
奴はゆっくり、ゾイの方へと近づいて来る。
しかし。
ゾイにはもう恐怖心はなかった。
(アオイもネイカもライヒも……殺したい。殺したいのに、どうしてこの骸骨剣士は……どうして僕の邪魔をしているんだ?)
ムカつく。
殺したい。
死ね。
許さない。
許せない。
絶対に。
(僕の邪魔をする奴は……全員、喰ってやる)
渦巻く激しい怒り。
それを自覚した瞬間。
体内に凄まじい力が駆け巡るのを感じる。
「…………」
ゾイは一歩踏み出し、壁から脱出。
そして、骸骨剣士と向き合う。
すると。
「カタカタカタカタ」
なおも笑ってくる骸骨剣士。
ゾイは奴へと言う。
「カタカタ……うるせぇなぁ」
何を笑っているのかわからないが。
不快だ。
人の邪魔をして笑うな。
そんな奴は――。
「死ねよ……」
言って、ゾイは骸骨剣士を全力で殴りつける。
直後、聞こえてきたのは破砕音。
骸骨剣士の鎧が砕けただけではない。
奴のあばら骨が、粉々になった音だ。
そして、奴が反対側の壁へと吹っ飛び、めり込んだ音だ。
「なんだ、この力?」
そうだ。
これこそがマオがくれた力なのだ。
骸骨剣士への負の感情が高まった。
それ故に、ゾイは今これほどの力を手にしているのだ。
まぁなんでもいい。
今は物凄く気分がいいのだから。
「あは、あははははははははは!」
と、ゾイは全力で地面を蹴る。
そして、地面を爆散させながら骸骨剣士の目の前へ移動。
「うざいんだよ、おまえ……だからさ、俺の力の糧になれ」
言って、ゾイは骸骨剣士を食った。
骨をバリバリ、咀嚼して嚥下。
まずい硬い……でも食える。
一口。
もう一口。
まだまだ食える。
「っ!」
と、ゾイは咄嗟に数歩下がる。
理由は簡単。
満身創痍といった様子の骸骨剣士。
奴がゾイに攻撃を仕掛けてきたからだ。
「へぇ、まだ動けるのか……面白い。だったら、この僕がお前を食らい尽くしてやる。最後までな」
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