第四話 暗闇の出会い②
「勇者の仲間の一人がこんなところで……これはとんだ拾い物かもしれぬのじゃ」
と、聞こえてくる声。
その声は少女のようで――ゾイ自身の声では決してない。
ゾイは最初、またも自分の頭がイカレタと思ったが。
(左腕の痛みのおかげで、思考はハッキリしている。真っ暗で何も見えないけど、手足を動かす感覚もしっかりと感じる)
ゾイは正気だ。
少なくとも、今現在は。
となれば、今するべきことは一つ。
と、ゾイは件の声の持ち主へと言う。
「誰……だ?」
「我はマオ……そうさなぁ、うぬ等が言うところの魔王とでも言っておくのじゃ」
「ま、おう?」
「そう、魔王じゃ。それにしてもここは暗いの……うぬの顔も見えん。明かりを灯す、眩しいとは思うが……我慢するのじゃ」
と、言ってくるマオ。
同時、穴の中に響き渡るのは指を鳴らす音。
その瞬間。
穴の中に光が満ちたのだ。
「あっ……ぐぅ、目、目が――」
「くっくっ……なんじゃ? なんともこれはまぁ……やはり我が思った通り、変化しておったか」
と、聞こえてくるマオの声。
彼女は嬉しそうな様子で、ゾイへと言葉を続けてくる。
「ほれ、うぬも目を開けて自分の姿を見てみるがよい。特別に手鏡を用意してやるのじゃ」
「そんな事、急に言われたって……」
この明かりだ。
目を開くことは容易ではない。
だがしかし。
見てみたい。
久しぶりにゾイへ話しかけてくれた少女。
彼女の姿が気になる。
「……っ」
ゾイは全力で光に耐える。
そして、視線を目の前へと向ける。
するとそこに居たのは。
黒く透き通ったゴシックドレスを身にまとった少女だ。
身長が低く、やや発育は悪そうだが、とても美しい彼女。
中でも目を引くのはその銀髪ロング、そして頭部に生える漆黒二本角だ。
ゾイはそんな彼女へと、何か言葉をかけようとする。
けれど、彼はそより先に見てしまった。
マオが胸元に持っている鏡を。
「ひっ!?」
映っていたのは怪物だ。
体中が腐り果てた人間のような生物。
さらにそいつは、あらゆる場所が蛆の住処になっている。
「うっ……」
と、ゾイは思わず吐きそうになる。
なんとかそれを抑えるため、口元へと手を――。
グジュ……。
っと、そんな音が聞こえた。
嫌な予感がした。
「…………」
ゾイはゆっくり、手を顔から離す。
そして、そこへと視線を落とす。
すると見えて来たのは。
腐肉でできた手。
蛆専用の寝床となった腕。
時折ぼたぼたと地面に流れ落ちる汚汁。
「ぅ」
鏡に映った化け物。
その正体はゾイだった。
「うあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
こうして。
ゾイの意識は闇の底へと落ちて行くのだった。
●●●
一方、その場に居るもう一人。
マオは「やれやれ」と鏡を放り投げ、一人呟く。
「気絶とは……こんなことになるのなら、面倒なのを嫌がらずに我がしっかりと説明しておけばよかったのじゃ。それにしても情けない奴じゃ……これは使えぬゴミか……いや、もう少し様子を見てみるかの」
と、マオは空間転移の魔法。
そして、ゾイを運ぶ魔法などを続けて展開。
そのまま一人言葉を続ける。
「かつての我を打倒し、女神から不老のスキルを送られた勇者達……そして、冒険の途中で行方不明になったとされているゾイ」
と、マオはゾイの頬を人撫でしたのち。
さらに言葉を続ける。
「うぬ等がこの洞窟を通った日から、八百年たっていること……そして、その間にうぬがゾンビに変化していたこと。それらを先に伝えてから、鏡を見せた方がよかったのかの?」
少なくともそうすれば。
ゾイは気絶しなかったかもしれない。
「なんにせよ、面倒じゃのう」
とりあえず魔王城に帰ったら、ゾンビがどのようなものか。
そして、ゾイが始祖ゾンビという特別な存在であること。
さらには、それが持つ特別な力の使い方。
その力を使えば、最低でも容姿はどうにかなること。
マオはそれらをゾイに真っ先に教えよう。
と、一人心に誓うのだった。
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