第86話 方向
確かめたい。
「柔らかい」
「知ってたでしょ?」
彼女の腰から下へ、手のひらで塗り込むようなうごきは感覚に頼る探り方みたいに何度も確かめながら、素肌へのタイミングを計っている。
「あんまり、読まないで欲しいな」
「わかりやすいのは良いことよ」
彼女の解放は、私にとって歓迎されるものであるが、まだ理解は大枠のみであり迷いは幾らでもある。
しかし、彼女が続けた言葉には感情の発露があり……目に耳にしなくとも伝ってくる生々しさ、無垢な光を感じた。
その眩しさにゆっくりと遠くからふかふかのイメージで近づいてゆく。
触れることに躊躇わず、同じものを合わせる感覚で無垢な光に向き合う。
この光を曇らせないし、消さない。
通じ合う第一段階をもう一度、確認するように振り返り感覚の共有をチェックする。
私の中でも、これはこういう名前。
私の中でも、これはこのくらいの固さ。
私の中でも、これはこんな重さ。
私の中でも、晴れていればこれくらい色であり、雨であればこれくらいの色を着けている。
貴方にしっかりと伝えたい。
意図のない掴み方はなく、掴む時はいつも同じであると。意図せず傷つける等ということは起こり得ない。
貴方を掴むなら、目指すから。
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