第84話 理解
彼女に笑われてしまうだろうと冷静に自身の反応を受け止め、顔を伏せたかったが───。
「ゆっくり……私も、初めてだから」
震えは、彼女の柔らかな表情となり今日まで知らなかったことを積み上げていっている。
「浅く、わかっただけだと思うん……」
彼女の瞳が言葉をゆっくりと止めさせた。私は、あやしく降りていた手を彼女のくびれあたりに戻し、引き寄せる。
俯瞰で見れば、ありふれた抱き合い方であるが同じ感じ方を共有している今は、見つめ合って呼吸の押し引きを意識するだけで内面の襞をひとつひとつ─── 彼女ほど複雑ではないから、わかりやすく私が先に音をあげてしまう。
「もっと深くを、感じられてるから。そう思えるのよ。……すてきね」
「これで、ゆっくり?」
私の声は、この瞳に吸い込まれている。
「もっと、みて」
「消えて、なくなりそうだよ」
「ふふっ、ちゃんと底はあるわ」
彼女がはじめてを楽しんでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます