第82話 どこまで…

「冷静になれる?」

「勘違いしているときが、幸せじゃない?」

 手のうごきはとまり彼女の唇を見つめ、そこに集中している。

「思い出して後悔するの?」

 彼女の前でどれ程、自分を弛めていただろうか……私に好意を抱いていなければその後悔は今、感じるだろう。

「恥ずかしくは、思う」

「だから、冷静になれない?」

 好き、愛するとかの延長線上に今いるから性欲として自覚を促してくる彼女の言葉は浮いて感じる。

 してしまえば、何とかなるの?

 一定の気持ち良さだけ?

 心地好さも感じられずに?

 そんな手で触れるの?

 クエスチョンが付く言葉をどれ程に思い浮かべただろう……気がつけばもう、冷静なのだが私の世界線と彼女の世界線が交わることを感じられる瞬間をどうしても求めてしまうから、冷静を彼女が求めるならその世界線と交わろうとした。

「んっ、冷静」

 そう言って彼女の瞳を自然に見る。

 見返す彼女は、時間を使って私がふたりの世界に入ってなかったことを教えてくれた。

「したい?」

 ゾクゾクっと身体から波動が漏れて、彼女の身体も揺らしてしまうくらい惹かれていってしまう。

 血の色を赤と表現する赤の強さで、同調して感じていたものを彼女が貴方の血の色という色の名前を付けてくれたような理解で身体が更に震える。


 彼女は赤ではないと伝えたかったのだ。

 だから、私の血の色も赤と表現しないで欲しいと。

 彼女に流れる血は、様々なものをのみ込み吸収し濃さや淡さの時を過ごし今、流れているのだと。その血を短絡的に赤と表現するのは……そんな私とは、交わることはないだろうと。

 身体の問題ではなく、心なのだと彼女がそう交わりたいと初めて伝えてくれたことが、言葉遊びを繰り返すことでやっと私は感じとることができた。

 だから、心が震えたのだ。


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