第112話 スマホの動画

 楓が再生ボタンを押したので動画が始まった。病室にいる、みんなでスマホの画面を覗き込む。

 その動画には、暗くなりかけている、夕暮れのなのだろうか、そんな感じの空が映し出される。そして、モクモクと黒っぽい煙も見えている。周りもかなりざわついている。どうやらこれは車の事故後に撮られた動画のようである。

 すると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「………か…え…で…」


 一語一語ゆっくりと発音している。

 

「……いま、私の名前呼んだ…」


 楓はまた泣きそうになりながら、画面を見つめている。


「……ご…め……ん……ね……」


「お母さん!」


 その後、楓の母の声がしなくなり、


「……かあ…さん…、そ…し…て…ゆ…う…く…ん…」


 次に楓の父の声がし始める。


「……か…え…で…の…こ…と…を…た…の…む…」


 それからすぐに続く。


「…か…え…で……、…し…あ…わ…せ…に…なっ…て…」


 と言った途端、バーン!と、車だろうか、が弾ける音がしたのと同時に、スマホが激しく飛ばされた。


「お父さん!! お母さん!! あぁぁぁぁあ!」


 それからすぐに充電が切れたのか、そこで動画が終わっていた。

 楓は頭を抱えて泣き喚いている。


「「「………」」」


 これには楓以外の僕たちも涙を浮かべる。

 いや、号泣するのだった。

 

 それから数時間後。

 お葬式をするために、楓の両親の遺体を専用の車でお葬式場まで運ぶ。

 紗奈さんが「わからないとこが多いから手伝ってくれない? それに楓にとって北村くん、君がいてくれた方が少しでも気が安らぐと思うの。一緒にいてあげて欲しい」と、僕らの両親と僕にお願いしてきた。もちろん僕らは承諾し、部外者ではあるものの、僕達も葬式場まで同行する。

 

 そして紗奈さんと父さん、母さんの指導のもと、サクサクと式の準備が整っていく。

 その間、僕と楓はというと、楓はずっと泣いていたので、僕は優しく慰めるのであった。


 そうして、専門家さんに死化粧を施してもらった。

 その頃には楓は泣き止んだ。目の腫れ具合はかなりひどかった。かなり泣いていたので、そうなるであろう。

 そして泣き止んだ楓はその化粧をされている家族を魂の抜けたような顔をしてじーっと眺めていた。


 そうして、楓と紗奈さんはお葬式場に1晩泊まった。

 僕個人としては楓が心配だったが、両親は「紗奈さんに任せよう」と言われたので、家に帰った。


 そして次の日、お葬式が始まる。

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