第84話 静香さんの邪魔

 僕と楓は僕の家にやってきていた。

 今は家の前である。


「恋人になってから悠君の家行くの初めて!」


 そんなことを元気に言う。

 

「本当だね! 来てくれてありがとう!」


 学校で来てもらって良いのか、と言うのも完璧な記憶から抹消され、僕は楓に微笑みながら言う。

 そう言うと、楓もにっこり微笑み、


「こちらこそありがとう!」


 そう言った後で、楓の顔を僕の耳に近づけて、


「いっぱいあそぼーねっ」


 そんなことを囁いてきた。

 何をして遊ぶのか、と言うことは置いておいて、(本当に楓は一瞬で距離を縮めてくるなぁ)と僕は思っているのだった。まあ僕としても嬉しいのだけれども。


「うん!」


 僕がそう言い、家に入ろうとすると、


「あら、悠、もう楓ちゃんを家に連れ込むの?」


 そう後ろから声をかけてきたのは僕の母さんであった。


「言い方!」


 僕は(変な誤解を生む言い方をするな!)と、思い、即座に突っ込んだが、


「楓ちゃん、こんにちは」


 まさかのスルーで軽くお辞儀をしながら、楓に挨拶をしていた。


「静香さん、お久しぶりです! こんにちは!」


 楓も楓でしっかりとお辞儀して挨拶をしていた。

 正直早く母さんには早くどっかに行って欲しかったのだが、母さんは続ける。


「こんな息子ですが、これからよろしくお願い致します」


 と、言い、とても綺麗な礼をした。僕は全く何をしているのか分からなく、


「何を言って……」


 と、言おうとしたその時、


「こちらこそ! よろしくお願い致します!」


 と、満面の笑みで楓が言っていた。

 この時に僕は理由を察することになったのだった。


「楓ちゃん! 今日うちで食べて行かない? 今日は悠が大好きなオムライスなの! 材料も今日安売りだったからいっぱい買ってきちゃってね! それでね……」


 と、まだまだ話を続けそうだったので、


「母さん」


 僕は少し声を尖らせて、母さんに言った。

 すると、


「あら、ごめんなさい、悠に彼女が出来たことが嬉しくて、ついつい」


「いえいえ! お母さんに聞いてみないと分からないですが、許可をもらえればいただきます!」


「わかったわ!」


 そう言い、テンションの高い母さんは家に入って行った。

 ほとんど会話に入れていない僕だったが、楓がうちでご飯を食べていくように誘ってくれたので、喜んでいるのだった。


「ごめんな、楓。いつもうちの母さんが」


「うんん、静香さんが私のこと認めてくれてるみたいで嬉しかったし、でも悠くんの口から誘ってほしいな?」


 僕はなんのことかの答えを即座に出し、


「僕の家でご飯食べて行ってよ」


 恋人になってから妙に少し緊張するが、僕から誘う。


「うん!」


 楓は笑顔でそう言い、今日は楓がうちでご飯を食べていくことになったのだった。

 ちなみに、楓のお母さんには『いつ、どこで、だれと、なにをするのか、と言う連絡さえくれれば、基本は自由にしても良い』と言われているようだったので、あの時『許可が必要』と言ったのは、僕から誘ってもらいたかったからだったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る