第77話 康太さんの土下座

 僕たちは柳さんと一緒に天野家の入り口まで来ていた。


「ここが天野さんの家?」


 柳さんは僕に首を傾げて言う。


「そうだよ」


 僕は頷く。


「ついにだね。頑張ろうね」


 昨日事情を知った柳さんは僕にそんなことを言ってくる。しっかりと僕のことを思ってくれて、言ってくれているようだ。


「うん。頑張ろう!」


 そう言い、僕らはインターホンを押した。


「はーい」


 そう言う、久しぶりに聞く声が聞こえた。

 そう、これは冬美さんの声である。


「あ、北村です」


 僕はそう言う。

 すると、


「ちょっと待っててね」


 そう言い、インターホンの向こうから『ブチッ』と言う音が聞こえ、数十秒後に冬美さんが出てきた。


「待たせてしまってごめんなさいね。さあ、どうぞ」


 と、言ったら、隣にいる柳さんの存在に気付く。冬美さんは(たれ?)とでも思ったのか、


「北村君、そちらの方は?」


 と、質問をしてくる。


「康太さんを納得させるのに必要な方です」


 と、僕は答える。すると、


「なるほどね」


 納得した顔になり、僕たちを家に招き入れた。


 僕はまず家の中に入り、


「お邪魔します」


 そう言う。後ろからついてきている柳さんも同様に、


「お、お邪魔します」


 少し遠慮気味に挨拶をする。


「こっちよ」


 そう言われ、冬美さんについて行く。

 そして、前回訪れた時に怒鳴られたあのリビングに到着した。

 楓は既にリビングの椅子に座って待っていた。康太さんは椅子に座って黙ってこちらをみていた。

 そして、後ろから柳さんが入ってきた途端、


「こいつだ! 楓! 公園で北村君と抱き合っていたのはこの女だ!」


 と、いきなり声を上げる。

 が、楓が即座に、


「お父さん聞いて。二人からその状況を聞いたんだけど、私が悪かったの」


 すると、康太さんは声をさらに荒げて、


「嘘つけ! どうせ楓自身が騙されてるだけだろ!」


 と、康太さんは言う。が、あの時とは違い、楓も負けず、


「そんなことない! 悠くんはそんなことする人じゃない! と言うより私の話を聞いて!」


 そう言うと、意外にも康太さんは黙り込み、楓の話を聞く姿勢をとる。


「私がね。私が悠君にたくさん迷惑をかけてばっかひだったからね、これ以上迷惑をかけないように距離を置いたんだよ。バスの時間をずらしたりしたでしょ? それのせいだったんだよね」


 そう言うと、冬美さんは『なるほど』と言う表情を浮かべていたが、『はっ』とし、僕たちに椅子に腰をかけるように『どうぞどうぞ』と言わんばかりに手で合図している。

 僕たちはその言葉に甘え、座った。

 そして、楓は話を続ける。

 

「それでね、それで、私を好きだった悠君が深く傷ついちゃってたの。それは本人からも聞いたし、後から考えてみると自分でも(あの時の悠くんは暗かった)って思ったから。でね、それを変えてくれたのが今お父さんが『抱き合っていた』と言っていた今ここにいる子なんだよ? どうやら、その相談を悠君がしたらしくて、その時にしたみたい。

 だから、柳さんと悠君は付き合ってないし、元はと言うと私が悪かったの!」


 と、長い説明を終える。

 ちょっとわかりにくい点もあるような気もするが、ある程度は伝わったと思うので、僕たちは黙っておく。


「悠君、本当なのか?」


 康太さんはどうやら娘の言葉には弱いようで、すでに信じかけているようだった。


「はい」


 僕はきっぱりと答える。


「では、そこの君に聞く。抱きつく前の悠君はどんな感じだった?」


 と、康太さんは聞く。

 柳さんは言い方を工夫しながら答える。


「あの時の悠君はあり得ないぐらい暗かったです。(悩みを吐き出すと楽になる)と、私の実経験から分かっていましたので、強引ではありますがその悩みを引き出すことにしました。

 無事聞き出すことができて少し表情が明るくなったのですが、目がかなりうるうるしていることに私は気づいたのです。どうやら、悠君は人前で泣きたくないのか、凄く泣くのを我慢しているように見えたのです。だから、これも強引ではありますが、(泣くと楽になる)と、私は実経験を参考に思い、『胸を貸す』と言ったんです。そう言うと、悠君はすぐに私に飛んできました。これだけを聞くと、私を好きなんじゃないか、と思ってしまうでしょう。私もそう思いました」


 それを聞くと、康太さんは


「やっぱりそうじゃないか!」


 大声で隣り散らかす。楓が口を開こうとしたその時、


「少し黙りなさい!」


 と、冬美さんが康太さんを怒鳴る。


「なっ、冬美、なんで……」


 そう言いかけている言葉を打ち消して、


「いいから黙って聞いてなさい! ごめんね。続きをお願いできる?」



「はい。だけど、違った。悠君はこんなことを言いながら泣いていたんです。『楓、なんでだ! なんでだ!!』と。わたしはこの時悟りました。(この涙の量が楓ちゃんに対する愛の強さなんだ)って。

 つい、いらないところまで話してしまいましてがこんな感じです」


 そう言うと、康太さんは


「なるほど。では、最後に北村君に問う。本当に浮気はしていないんだな?」


「はい!当然です!僕が愛するのは、あなたの一人娘である、天野 楓さんだけです!」


 僕は大声で宣言した。それにはここにいる、僕以外全員が驚いていたようだ。


「そうか……。本当にすまなかった」


 どうやら信じてくれたらしい康太さんは僕たちの前に土下座をする。さらに土下座をしながら続ける。


「北村君。話を聞かずして勝手に家からはありだ投げてしまったことも本当に申し訳なく思っている。許してくれとは言わない。わたしが全て悪いのだから。

 楓。君の彼氏さんを怒鳴りつけたり傷つけたりしてしまって本当にすまなかった。わたしのことは嫌いになって当然だろう。好きに思ってくれて構わない。

 名前も知らなくてすまないが、こんなところに来ていただいてすまなかった。さらに親の醜態となると恥ずかしいばかりだ。それにいきなり聞いてしまってすまなかった。

 本当にみんなすまなかった」


 そう言った。


「じゃあ、私たちの交際を認めてくれるってことでいいのね?」


 そう言うと、


「…もちろん」


 康太さんはそう言う。

 それを聞いた途端、楓はこっちに飛んできて、


「やった!!」


 そう言って、僕らは抱きつき合うのであった。親の前だったし、柳さんもいたので、すぐにやめた。


 そうして、康太さんを納得させることができて、全ての問題が解決するのであった。


 〜後書き〜


 この小説を読んでいただきありがとうございます! 強い娘の言葉に弱い康太さんでした。無事誤解を解かせることができて、平和な日々が戻ります!

 と言うことで、次の話で最終話にしたいと考えています。(Afterストーリーは書く予定です)

至って考え中なので、続けてほしい!と言う方がいらっしゃったら、コメントで教えていただけると幸いです!

 これからもこの小説をよろしくお願い致します!

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