第68話 楓との遊園地!(5) 〜船のアトラクション〜

 僕らは手を繋いだまま歩いていた。

 数十分歩いても全く目的地につかなかった。と言うより、見慣れた風景がずっと続いていた。[船の乗り場↑]という看板の矢印を1つ見て何となくで歩いていたので、こう言うことになったのだろう。


「ちょっと地図見に行かない?」


 楓は、僕が同じところをぐるぐるしてしまっていたと言うことに気付いたのか、そう言う。顔も元の色に戻っており、どうやら照れがましになったようだ。


「ごめんね。楓」


 僕は正直に迷子になっていたことを認め、謝る。すると、楓は


「もー、しょーがない人だなぁー、全然いいんだよっ」


 すごく恋人が言い合ってそうなセリフをいった。(少し怒ったか)と僕は思ったが、どうやらからかいだったようで、ニコニコしている。どうやらまったく怒っていないようだ。


「ありがとう。楓」


 そう言って僕らは当然のように手を繋ぎながら地図を見に行くのだった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 それから僕らは位置を確認し、船の乗り場へ向かう。


「うわぁー、たくさん人並んでるね」


 すでにたくさんの人が並んでいた。何分待ちかと言うところに30分待ちと書かれていた。


「そうだね。後にする?」


 そう楓に聞く。すると、楓は首を横に振りながら、


「いや! これからもっと混むかもしれないし、せっかく悠くんの乗りたがってたやつだし、待つ!」


 そう楓が言った。(僕のこと考えてくれてる!)と、僕は心の中喜んでいるのだった。


 そうして楓と30分間話をした。すごく楽しくて全く暇を余すことがなかった。そして、僕たちの順番がやってくる。


「次の方どうぞ!」


 そうスタッフの方が言う。その合図と共に、停止している船に乗り込む。この船は大人数で乗るようなものではなく、連れ同士で乗ることができるようだ。下にレールが見えて、かつ、運転できるようなハンドルらしきものないので、この船はどうやら自動で動くらしい。

 僕は楓をエスコートし、さらっと景色の見えにくい、奥側に座る。


「では、いってらっしゃーい!」


 と言うスタッフの声に合わせて船が動き始めた。

 楓は凄くワクワクしているようで、まるで子供のように辺りを見回している。


「うわー! あの観覧車大きい!」


 そう楓が指をさしたのはこの遊園地の中央に位置する、超巨大観覧車だった。乗ってるカップルが一番上にゴンドラが来た時にキスをするとずっと結ばれる、と言われているぐらいだった。もちろん僕は把握済みである。


「そーだな! 夕焼けとか綺麗そうだし、あとで乗ろう!」


 僕が思う、告白するのにベストなコンディションの「夕方に行こう」と伝える。


「うん! そうしよ!」


 楓は笑顔でそう言った。僕は心の中でホッとするのであった。


 残り4分の1あたりまで船が来ていた。

 この辺りは楓が「乗りたい!」と言っていたジェットコースターがよく見えるところであった。


「うわぁー! めっちゃ早い!」


 楓がジェットコースターをみて、ずっと同様ではしゃいである。


「うわ!」


 その時、楓は前に乗り出しすぎたのか、バランスを崩して、水の中に落ちてしまいそうになる。


「楓!」


 僕はそう叫び、楓を必死に引っ張ると、楓は僕の方に引き寄せられる。そのまま勢い余って僕の方に……。


「ゆ、悠君……ありがと…」


 楓は恥ずかしそうに僕の名前を呼び、お礼を言う。


「か、楓……楓が無事でよかった……」


 僕も同様に照れながら楓を呼ぶ。


 この時、僕らは一応公共の場である水上を自動で進む船の上で、ハグをしてしまったのである。

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