第61話 悠、告白出来ず
これは、楓がお礼を言った後の話だ。
「やあ、楓さんと北村」
そう言って近づいてきたのは堀川だった。
「堀川くんっ!?」
楓は(どうしてここに?)と言った表情をしている。それは僕も同様だ。
「堀川、なんでここに?」
そう言うと、堀川はニヤッと笑い、
「たまたまだよ」
そう答えた。さっきの話が聞かれていないか不安だったのが、ニヤッと笑ったのでさらに(見られていたんじゃないか?)と言う不安が高まった。
「それより、楓さんに話があります」
急に堀川は真面目に語り始めた。急な空気の変わりように楓と僕は驚いた。
「な、なに?」
楓は今日の出来事から少し警戒しながら聞く。
「楓さん! 俺と付き合ってくれ!」
そう言って手を伸ばし、頭を下げる。僕がいるにも関わらず普通に告白している。僕は好きな人に対して目の前で告白され、驚きを隠さなかった。堀川は頭をかなり下げて、僕の方を見る。すると口パクで
「いいのか? 北村? このままだと俺が楓さんをもらうかもしれないぞ?」
と、おそらく言った。こんなことがあったが、僕はやはりまだ楓のことが好きだった。堀川に取られるのは嫌だった。だって好きな人だから。なので、僕は勇気を振り絞って告白をしようとしたその時、
「ごめんなさい。堀川君とは付き合うことはできません」
楓は堀川の告白を拒否した。堀川はなんとも反応せずに、質問する。
「どうしてですか?」
告白の機会を逃してしまった僕は(まあ、妥当な質問だな)と、僕は思いながら聞いている。
「そ、それは…」
楓はもじもじしながらこちらをチラッと見た。僕はその反応に首を傾げたが、堀川は振られたと言うのに楽しそうにニヤついている。
「それは?」
堀川は追及する。
「北村君、いや、悠君が大好きだからですっ!」
楓はそんなことを言った。堀川は
「なるほどな。それは仕方ない。ありがとう」
と、言葉を残してまったく落ち込んだ様子もなく、出口の方に向かって行った。
その後、沈黙が続いている時に僕はどうするべきか少し悩んでいた。今のは告白と捉えてもいいだろう。「大好きです!」と言われたのだから。
仲直りもできたし、拒否する理由はなかった。この前の一件も(悪いのは康太さんだ)と僕は思っているからだ。楓の理由にも共感できる点があったからである。
僕は数秒後、決意した。(僕も楓のことが好きです、こんな僕でよければ付き合ってください!)と返そうと。それを言おうとしたら、また、楓が先に口を開いた。
「あ、あの、悠くん。今は返事をしないで。たくさん迷惑をかけた私の事を嫌っていることはわかっているから。だから私に一度だけチャンスをくれないかな? テスト後の週末、私と出掛けてくれませんか!」
(全く嫌ってないし、なんなら今OKしようとしなんだけどな)と思った。でも、(一度しかないと言うことは、楓が本気で落としに来るのか、それは見てみたいな)と言う僕の中の結論が出て、今は告白する言葉を飲み込んだ。そして
「うん! わかった」
「ありがとう、北村君!」
と言うことで告白の機会をのがしたが、テスト後の週末、お出かけという名のデートをすることになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます