第54話 楓の反省電話

「ごめんなさい!!」


 まずはそう、楓は声を上げた。それから、


「まずはさっきのことごめんなさい。ちゃんと悠君を庇わないと行けない立場だったのに…、ちゃんと…、庇ってあげられな…くてごめん…なさい…」


 最初の勢いは無くなり、どうやら楓は電話の向こうで泣いているようだった。


「どうして康太さんが怒った時に泣いたの?」


 (僕としては今のところ許すかを迷っているところで、しっかり聞いておくべきだ)と思い聞いてみる。


「……お父さんが……怖くて。怒鳴る時は…本当に…正気を失ったように……怒るから……。それに…怖くて言い出せ…なかった……と言うのも…ある。本当に……臆病で…ごめんなさい」


 確かにあれは怖かった。あんなに怒っている人を見たのは人生初だったほどだ。(僕を信じてくれなくて泣いたのか)とも思ったりしたが、「怖い」と言ったのでそこは信じようと思う。確かに怖かったし。


「なるほどね。その件は僕も怖かったから、まあ、楓についてはいい。康太さんはダメだけどね。で? それだけ?」


 僕は納得の言葉を口にする。その件は僕の寛大な心で許してあげる事にした。が、それに付け加えて、(他にも反省するべき点があったのではないか)と思い聞いてみる。


「……嘘を…つかせたり……、避けてたり……して……ごめんなさい……」


 正直、嘘の話は僕を庇うために言ってくれたことだとわかっているため、責めるつもりはなかった。なんなら感謝していた。そのせいで今回の事態を引き起こしたりしたが、それはまた別の話だ。しかし、避けていた事については僕は早く理由を知りたかった。


「嘘は楓の優しさじゃないか。それは気にしていない。だけど、"避けていた"と言う事については理由を聞かせてくれないかな?」


 すると楓はしばらくの沈黙の後。口にする。


「…………ごめん…。その事に……ついては…少し……時間が……欲しい…。また…迷惑をかけて……しまうのは…ごめんなだけど……、明日の…放課後に…屋上に……来てくれ……ない?」


 楓はまだ涙ぐんだ声だが、屋上に来て欲しいと言われた時に何か違うものを感じた。それに(急にこんな事になったんだし、何か覚悟? とかを決めないといけないのかもな。でもこれだけは確定させておかなければ)そう思い、聞いてみる。


「明日の放課後には絶対に教えてくれるね? それが僕の待つための条件だよ。それで良い?」


 すると、楓は、


「……わかった。あと……その話…を話す…放課後までは……近日してきた……ような…距離感で……いい?」


 了解の意を示し、更に明日もこの距離感でいい? との要求が来た。


「うん。まあそっちの方が楓にとっていいのなら、明日だけならいいよ。明日以降は無しだからね。じゃあまた明日聞かせてね」


 地味に(楓と関わりたい!)と捉えられそうな文だが、大丈夫だろう。


「……ありがとう……。…わかった。明日…ちゃんと…話す」


「じゃあまた」


「……今日は…本当にごめん……ね。また」


 その言葉を聞き届けてから電話を切った。(今日のことは別に良いのに。)と、思った。許し状況については、(楓は避けていたこと以外はもう許した。許さないのは康太さん)僕は本気でそう思った。


 ずぶ濡れ、顔に擦り傷で家に帰ると母さんが


「悠、その怪我どうしたの!?」


 と言われた。濡れているより先に怪我を指摘されるとは思わなかった。

 正直に言おうかと迷ったが、ここで言ってしまうとかなり面倒ごとになりそうな気がしたので、


「ちょっと滑って転んじゃって」


 嘘をついた。またこの問題が解決したら正直に言おうと思う。


「そう。雨の日は特に気をつけなさいよね」


 どうやら母さんは騙せたようだ。今日受けた事については解決するまでは、母さん含めて、誰にも言わないと自分の中で誓った。面倒ごとが嫌いすぎるからである。

 それからやる事をやってからベットに着く。そして目を閉じる。


 そうして転校生登場からスタートはまだ良かったものの、放課後は絶望、と言う1日が終わったのだった。

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