吹き荒れる絶望の嵐
第51話 康太さんの誤解
放課後になった。堀川と言えばもう光とすっかり打ち解けていた。
「じゃあな悠、頑張れよ!」
そう言い残して堀川と森下さんと一緒に部活へと行ってしまった。おそらく堀川は仮入部にでも行くのだろう。
そして柳さんはと言うと
「今日も帰ろー!」
と誘われた。が、今日は楓の家に行かないといけないので
「ごめん、今日は帰れない」
と断った。柳さんは首を傾げて、
「なんでー?」
と、聞かれた。(まだ楓の様子は治ってないようだし、どうなるかわからない)と考えた僕はとりあえず
「用事があって」
と答えておいた。
「そっか。わかった」
と、答えた柳さんはそれ以上追求して来ずに帰って行った。
「じゃあ楓、行こう」
楓のところに行って言う。楓は頷き、一緒に楓の家へと向かった。
道中、僕は話そうと試みたが楓は素っ気ない返事をするばかりでとてもじゃないが会話にならなかった。唯一楓から言われたことが
「ごめんね」
だった。
「ううん、気にしないで!」
僕はそう答えた。それからと言うもの会話が成り立たないため、僕も話すのをやめて暫く沈黙のままバスに揺られ続けた。そして僕らは天野宅にやって来た。
「ただいまー」
そう言い楓は家に入っていく。
「お邪魔します」
僕は挨拶をしてはいる。
「おかえりー、楓。北村君、こんにちは」
冬美さんはいつになく沈んでいる声で言った。楓も母の表情やテンションから見るに凄くびっくりしているようだった。この時点で僕は(何か良くないことが起きるのではないか)と察した。とりあえず挨拶は返しとかないといけないので、
「こんにちは」
してはみたが冬美さんの表情に変化は無い。
「じゃあどうぞ」
そう言って僕は天野家のリビングに向かった。するとそこには康太さんがいた。ご飯の後楓を家に送ってすぐに会った時の表情そのものだった。
「どうぞ、座って」
そう言われたので僕は椅子に腰を下ろした。同様に楓、冬美さんも腰を下ろす。
「さあ、悠君。俺は長話が嫌いだ。だから単刀直入に聞く。お前、楓と付き合っておきながら他の女とも付き合っているのか」
その言葉に楓の顔は(驚愕の驚愕!)みたいな顔に変わっていた。僕は(は?)という表情をしていただろう。
「嘘ついても分かるからな。正直に言え」
康太さんの顔がどんどん曇っていく。僕は誰とも付き合っていないので
「付き合ってませんよ!」
僕は正直に答える。が、康太さんは一段と顔を曇らせて、声を荒げて言う。
「お前、嘘は大概にしろ! 他の女と公園でハグをしあっていたくせに何を言ってるんだ!」
これには楓も驚きを隠しきれなかったようで
「え!?!?」
と思わず声を吐く。冬美さんは先に聞かされていたのか、平然としている。(テンションが低かった理由はこれだったのか)と僕は理解した。
僕は正直に「楓とのことでいざこざがあって、悩みを聞いて貰っているうちに、悲しみを出したくなった」と言えるわけもない。なぜなら僕と楓はこの家上では付き合っていることになっているからだ。
「そんなことな……」
と言いかけて僕の言葉は遮られた。
「もういい! お前みたいな二股するクソ野郎は二度と楓に近付くな! それにすぐにこの家から出ていけ!!」
康太さんの怒鳴りようにか、楓は泣き出してしまった。冬美さんは楓に近付き、楓の背中をさすってあげている。
僕としてはこの場をなんとかしなければならない。「抱き合っていた」という一部否定できないことはあるが、それ以外は全くの誤解である。それを言おうとすべく声を発する。
「僕はそんなこと…!」
が、喋る暇もなく大声にまた遮られて、
「言い訳は要らん!! とっとと出て行けと言っているだろ!!」
また怒鳴られてしまい、挙句には僕の裾を掴まれ外に投げ出されてしまった。
「さっさと帰れ!」
と言い残し、康太さんは力強くドアを閉めた。体に少しの痛みと頬の辺りに擦り傷が出来ており、血が出ていた。
僕は頬の痛さを忘れるぐらい絶望し、曇り始めている空を見上げるのだった。
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