南香は暴力ばかり!
試合後に起こったできごと
あの矢場杉高校で有名な「球蹴りのコウ」こと、南香を倒した俺たちは、一旦教室に戻り、チーム全員で喜びを噛み締めていた。
と、いうのはほんの数分程度で終わりを告げた。
「流川瑠夏君、だよね? 四階の空き教室に呼ばれてるから、行ってくれないかな?」
眼鏡をかけた男子生徒が、俺に声をかけてきた。その人は制服を着ているため、今回の球技大会には恐らく関わっていないと思われる。
「……る、瑠夏。もしかして、喧嘩じゃないか? お前が大活躍した腹いせに、香の部下たちがブチギレたとか?」
充希の推測を聞き、俺は少し身体を震わせた。だが、行かないのも後々ひどいことになるかもしれない……どうしたらいいのだろうか?
「あ、あのさ……誰か他に同行者連れてきてもいいかな?」
「うーん……それはダメだって。「ルカ一人で来い!」とか言ってたし」
「マ、マジか……ははは」
俺は表面上では平常を装い、愛想笑いしたが、内面では怯えていた。その愛想笑いも、無理やり絞り出した、乾いた笑いだ。
「じゃあ、その呼び出したやつが誰か教えたてくれよ!」
「み、充希……?」
「呼び出した人が俺たちの知らない人……いや、この学校にいるやつらは知らないやつがほとんどなんだけど、俺も瑠夏も知らん人だったら、よからぬことが想像できるのは確かだ! なにせ、矢場杉高校だからな!」
充希は刺々しい声を出し、眼鏡の男子生徒に突っかかった。普段ヘラヘラしてるだけに、あそこまで怒った彼に驚いたが、それと同時に本当にいいやつだなや、男前だなと改めて感激した。
「あー、はい。呼んだのは南香さんです」
「「香?」」
「なんか、流川君に用事があるって……」
……用事ね。
「球蹴りのコウちゃんが流川きゅんに用事ぃ? まさか、球蹴りの称号を流川きゅんに譲るとか!?」
「バカ。そんなわけないだろ。僕の読んだヤンキー漫画によると、実際に呼んだのは不良のリーダーではなく部下たちで、主人公がボコボコにされる展開だよ。だから多分流川も……」
「そ、そそそそそ、そそそそそそそそそれはやばすぎでしょしょしょしょしょしょしょしょ……」
チームメイトたちも、まるで俺と同期するかのように怯え、身体を震わせた。
「瑠夏。香はお前の古い友達だから、多分普通に話せると思う。ただ、気をつけた方がいい。博の言ってたように、部下たちにボコられる展開かもしれない。だから、断ったほうがいい」
氏真は諭すようにそう言ってきた。
「氏真……俺もできれば断りたいよ。でも、今ここでいかないと今後の影響に関わるかもしれないんだよ? 二回戦目出られなかったりとか……」
「ちょっ……演技でもないことを言わないでくれでごさる! ワレワレは流川氏のおかげで勝てたと言っても、過言でもないのに!」
お前はお前でなんで俺を主力扱いしてんだよ……あんなの梨音の応援のおかげなんだよ。
「でもまぁ、確かに行かないとダメかもしれないな……本当に香が呼んだ可能性だってあるし。なにより我がチームのエースがいなくなる」
「現役サッカー部の充希がそれを言うなよ……」
「だってさっきお前大活躍だっただろ? 実際」
「ま、まぁ……って、試合の話はどうでもいい! どうでもよくないけど! いくよ」
「マ、マジで行くのか……」
「……ああ」
俺は緊張と恐怖で、息を小刻みに吸った。
「で、場所はどこ?」
「四階までは僕が連れて行くよ。場所は女子トイレのすぐ隣のところね」
「わ、わかった……」
俺は意を決して、眼鏡の後ろについていく形で教室から出た。そして、俺が教室のドアを閉じる寸前、後ろ。つまり、充希たちのほうを向き、口パクでこう言った。
――こっそり、ついてきて。
「「「「「「「!?」」」」」」」
みんなはその意図を察したのか、俺が完全にドアを閉め切る直前、険しい顔で頷いた。
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