流川瑠夏、説得をする

「お願いします……梨音さん。この私めに勉強を教えてくださりますか?」

「な……なんの真似よ? 瑠夏」

「る、るーちゃん頭をあげてよ……」


俺は今、土下座をしている。


亜姫じゃ話にならないと判断した俺は、梨音になんとしても勉強を教えてほしいあまり、この方法を使った。梨音たちのところに戻る途中、他の可能性も考えたが、どれもダメだった。成司先輩は言わずもがな、充希はサッカー部の仲間や先輩から教えてもらっているため、俺の入り込む隙がない。


充希曰くサッカー部の人たちはいいやつらとのことだが、部外者である俺が行くのは申し訳ないからやめた。


だから、今一番頼れる人は梨音しかいないのである。


「で、でも……瑠夏が頭よくなったら私が養えないじゃない。しかも中学のときは、『俺はバカだから俺より頭のいい人がタイプだ』って……」

「いや、それとこれとは話が別なんだよ。俺、今のままじゃ最悪留年するかも知れないんだって!」

「瑠夏が留年……ふひっ」


な、なんだ……? 梨音が変な笑い声を浮かべたぞ?



 ――梨音の妄想劇場。もしも瑠夏が留年したら?


「おーい! 梨音ー!」

「あら? 瑠夏じゃない? 先輩である私にタメ語使ってるの?」

「あ、す、すみません……梨音先輩」

「よろしい……瑠夏はよくできた可愛い後輩ね」

「あ、ありがとうございます……」


瑠夏の頭を撫でる私……困惑しながらも満更でもなさそうな瑠夏。


「そうだ。今夜私の家に来なさい」

「え……?」

「それと、今日は私と同じベッドで密着して寝なさい」

「で、でも……」

「これは先輩命令よ!」

「わ、わかりました……」



「……悪くないわね」


ああ……ダメだ。俺が留年すると聞いてなぜか悦に浸っているよこの人。


「えっと……あっ、先生悪くて留年でよくて夏休み没収って言ってたよね!?」

「え、えぇ……それが?」

「実は梨音と夏休みデートしたいってプランを考えてたんだよ! 俺がテストで赤点取ったら、それがパーになっちゃう!」

「あっ……そ、それもそうね。実は私も私で瑠夏との夏休みデートプランを考えていたのよ」

「梨音も!? じゃあ、なおさら俺が赤点取るわけにはいかないよね!?」

「え、えぇ! そうね! ごめんなさい瑠夏、私自分の最終的な欲ばかり優先して、近い未来を見失っていたわ」

「わ、わかればいいんだよ……」


ちなみに、このデートプランというのは嘘だ。夏休み梨音とどっかデートしたいとアバウトに考えてはいたが、プランまでは考えていない。とりあえずプランに関しては、テストが終わってから考えるとするか。

とりあえず、説得は成功だ。


「るーちゃん……梨音ちゃん……よく紫苑の前でデートするとか言えたね」

「ああ! ごめん!」


と思ったら、別の刺客が後ろから襲いかかってきた。やばい。テストの攻略を考えるあまり、紫苑が頭から完全に抜けてた!


「梨音ちゃん、本当にるーちゃんに勉強教えるの?」

「えぇ。夏休みデートのためだもの」

「ふーん……ねぇるーちゃん。紫苑と勝負しない?」


なに?


「正直紫苑、テストでは梨音ちゃんに勝てないけど、るーちゃんになら勝てるかも知れない。だから、もしテストの学年成績で紫苑が勝ったらるーちゃんとのデート権を梨音ちゃんから奪う! 紫苑が負けたらそれはまぁ、なし! どう!? ちなみに、逃げるって選択肢はないからね!」

「い……いいだろう! 受けてたってやるさ!」


こうして、俺と紫苑の戦いの火蓋が切って落とされた。ああ……これは面倒なことになったな。


「というわけで梨音! 俺に勉強を教えてくれ!」

「えぇ! 絶対にあなたを紫苑より上の成績にしてみせるわ!」


だが、梨音が俺に勉強を教えてくれる気になったことは、大きな収穫だ。

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