流川瑠夏、説得をする
「お願いします……梨音さん。この私めに勉強を教えてくださりますか?」
「な……なんの真似よ? 瑠夏」
「る、るーちゃん頭をあげてよ……」
俺は今、土下座をしている。
亜姫じゃ話にならないと判断した俺は、梨音になんとしても勉強を教えてほしいあまり、この方法を使った。梨音たちのところに戻る途中、他の可能性も考えたが、どれもダメだった。成司先輩は言わずもがな、充希はサッカー部の仲間や先輩から教えてもらっているため、俺の入り込む隙がない。
充希曰くサッカー部の人たちはいいやつらとのことだが、部外者である俺が行くのは申し訳ないからやめた。
だから、今一番頼れる人は梨音しかいないのである。
「で、でも……瑠夏が頭よくなったら私が養えないじゃない。しかも中学のときは、『俺はバカだから俺より頭のいい人がタイプだ』って……」
「いや、それとこれとは話が別なんだよ。俺、今のままじゃ最悪留年するかも知れないんだって!」
「瑠夏が留年……ふひっ」
な、なんだ……? 梨音が変な笑い声を浮かべたぞ?
▲
――梨音の妄想劇場。もしも瑠夏が留年したら?
「おーい! 梨音ー!」
「あら? 瑠夏じゃない? 先輩である私にタメ語使ってるの?」
「あ、す、すみません……梨音先輩」
「よろしい……瑠夏はよくできた可愛い後輩ね」
「あ、ありがとうございます……」
瑠夏の頭を撫でる私……困惑しながらも満更でもなさそうな瑠夏。
「そうだ。今夜私の家に来なさい」
「え……?」
「それと、今日は私と同じベッドで密着して寝なさい」
「で、でも……」
「これは先輩命令よ!」
「わ、わかりました……」
▲
「……悪くないわね」
ああ……ダメだ。俺が留年すると聞いてなぜか悦に浸っているよこの人。
「えっと……あっ、先生悪くて留年でよくて夏休み没収って言ってたよね!?」
「え、えぇ……それが?」
「実は梨音と夏休みデートしたいってプランを考えてたんだよ! 俺がテストで赤点取ったら、それがパーになっちゃう!」
「あっ……そ、それもそうね。実は私も私で瑠夏との夏休みデートプランを考えていたのよ」
「梨音も!? じゃあ、なおさら俺が赤点取るわけにはいかないよね!?」
「え、えぇ! そうね! ごめんなさい瑠夏、私自分の最終的な欲ばかり優先して、近い未来を見失っていたわ」
「わ、わかればいいんだよ……」
ちなみに、このデートプランというのは嘘だ。夏休み梨音とどっかデートしたいとアバウトに考えてはいたが、プランまでは考えていない。とりあえずプランに関しては、テストが終わってから考えるとするか。
とりあえず、説得は成功だ。
「るーちゃん……梨音ちゃん……よく紫苑の前でデートするとか言えたね」
「ああ! ごめん!」
と思ったら、別の刺客が後ろから襲いかかってきた。やばい。テストの攻略を考えるあまり、紫苑が頭から完全に抜けてた!
「梨音ちゃん、本当にるーちゃんに勉強教えるの?」
「えぇ。夏休みデートのためだもの」
「ふーん……ねぇるーちゃん。紫苑と勝負しない?」
なに?
「正直紫苑、テストでは梨音ちゃんに勝てないけど、るーちゃんになら勝てるかも知れない。だから、もしテストの学年成績で紫苑が勝ったらるーちゃんとのデート権を梨音ちゃんから奪う! 紫苑が負けたらそれはまぁ、なし! どう!? ちなみに、逃げるって選択肢はないからね!」
「い……いいだろう! 受けてたってやるさ!」
こうして、俺と紫苑の戦いの火蓋が切って落とされた。ああ……これは面倒なことになったな。
「というわけで梨音! 俺に勉強を教えてくれ!」
「えぇ! 絶対にあなたを紫苑より上の成績にしてみせるわ!」
だが、梨音が俺に勉強を教えてくれる気になったことは、大きな収穫だ。
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