アキは英文で書かれた本を借ります

それにしても亜姫、めっちゃ英語の本見つめてるな……彼女も英語の勉強をしているのだろうか?


遠目からじぃっと見つめていると、亜姫は大きな茶色い本を手に取った。そのサイズは図鑑をさらに大きく分厚くしたものであるため、彼女は片手で持てず、両手でその本を持っていた。


(頭の悪い俺でも分かる……あれ、絶対難しい本だ!)


このとき、俺は思った。あの本を手に取るくらいだから、亜姫は英語が得意なのではないか……と。


(英語ができない人があの難しそうな本を好き好んで手にするとは思えない。……よし!)


ここで俺は、亜姫から英語を教えてもらうことに決めた。正直、以前みたいに勘違いでまとわりつかれるのは嫌だったが、赤点取って追試で夏休み没収。最悪留年や退学になるよりは大幅にマシと判断したのである。


「あっ……」


しかし、俺が決断した途端、大きな本を手に持った亜姫は英語の本のコーナーから去っていった。


「ちょっ、チャンスは今しかないのに……」


なるべく音を立てないよう、俺は彼女の後をつけた。なぜ今ここで呼び止める勇気がないかって?


 ――怖いからだよ。でも大丈夫だ。タイミングがいいなと思ったときに話しかけるさ。今はテスト対策が一番大事だからな。


(しかしまぁ……これじゃあ、まるで俺がストーカーみたいだな)


俺は自分の行いを恥じつつ、亜姫を遠くから追った。


しばらく後をつけていると、彼女は図書館に設置されている机に向かった。そこにはすでに分厚い本が四冊ほど積み重なっていた。色はそれぞれ赤色、藍色、深緑、灰色とシックな色である。


(難しそうな本をあんなに……!?)


そして亜姫は今まで手に持っていた茶色の分厚い本を、これらの上に乗せた。それにより、合計五冊になった。



(や、やっぱりあの子……頭いいんじゃ!?)


次に亜姫は、カバンからノートパソコンを取り出した。そして本に目を通しては、パソコンのキーボードを打ち込むことを何度も何度も繰り返していた。


(な、なんかカッコいい……)


男子高校生の三大憧れシュチュエーションの一つである、キーボードカタカタを目にした俺は、ますます亜姫の行動に興味が湧いた。


(よ、よし! い、今だ! 行くぞ!)


俺は意を決して彼女の元へ近づき……


「あ、あの……亜姫?」

「ひゃ!? ひゃい!」


小声で話しかけた。すると、亜姫は初めて聞くような、変な声を出しながら驚いた。これは話しかけ方失敗したかな……


「な、なに……ル、ルカ!?」

「いや……あの。亜姫、難しそうな英語の本読んでいたから、英語の勉強を教えてもらおうかなって」

「ア、アキ……英語はで、できないよ?」

「え? でも英語の本真剣に読んでたじゃん?」

「そ、そ、それは……どうしても調べたい英文があったから」


なるほど……しかし教科書やテキストじゃなくて難しそうな本をチョイスするあたり、英語が相当好きなんだな。

それにしてもこの子、さっきから喋り方がたどたどしい気がするな……


「あの、気になることがあるんだけどさっきパソコンになにを打ち込んでた、の?」

「あっ、それは……」

「見せてくれるかな?」

「いや……でもこれ、ルカに一番見られたくないし」


なんでだよ。


「えー……いいだろ。少しくらい」

「しょ……しょうがないな。じゃあ、感想聞かせて」


感想? どういう意味だろうか? とりあえず、なにが書かれているかな。

俺は覗き込むように、亜姫のパソコンを見た。



あらすじ


私、ふじいアキ! いきなりたけど、学校に登校している途中、交通事故に遭って死んじゃった……転生したら、大好きなゲームの登場人物になっていたんだけど、よりによって悪役令嬢のシーシャになっちゃった!

破滅エンド回避のために、頑張らなきゃ!



べ、勉強じゃなくて小説かぁ……しかも最近はやりのジャンルのやつじゃん。

と、とりあえず続きを読もう。英文が出てくるかもしれない。感想も言わなきゃいけないしな。


 ――こうして、俺は自分の選択を少しだけ後悔しながら、次のページに進むために下へスクロールした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る