図書館で見た意外なやつ

「よし! 今日は英語の対策をやりましょう!」

「「……え、英語かぁ」」


 俺たちは今日も今日とて梨音から勉強を教わっていた。俺も紫苑も英語が苦手だ。だから、今日の対策教科を聞き、げんなりとしていた。


 ――なお、今「俺たち」と言ったが……


「紫苑……ここの英単語はね」

「うーん……本当に意味わからない。宇宙語みたい」

「そんなわけないでしょー?」


 そう。梨音は紫苑にかかりきりで俺に全く勉強を教える気がないのだ。本気で俺を養うつもりだろうか……?

 あまりにも俺に教える気がないため、完全受け身体制だった俺は考えを改めた。よく耳を澄ませ、梨音と紫苑が今対策している箇所を聞き、それと同じ部分を同時進行でやることで、脳に取り入れるというやり方でどうにか乗り切っていた。しかし、今回は今までのやり方は通じない。それだと、すべての英語の範囲を覚えきることは難しいからだ。

 とどめに紫苑は、俺より若干英語がわかるのである。


  ――なぜなら本当に英語が分からないからだ……なんとしても梨音に教えてもらわなければ!


「り、梨音……この英文の意味、教えてくれないかな?」

「ごめんなさい。今、紫苑に教えている最中だから」

「いや、でもさすがに今日は……」

「大丈夫よ。英語ができなくなったって、外国人と話す機会はそうそうないわ。……いや、将来的に瑠夏はそもそも人と会話する機会すらないかもね」

「……え? それってどういう」


 いや、聞かなくてもわかる。梨音と多く時間を過ごしてきたせいだろうか? この後、彼女から出る言葉はわかっていた。


「次に梨音は、瑠夏は私が養うからその必要はないわ! と言う」

「瑠夏は私が養うからその必要はないわ……はっ!?」


 ドンピシャじゃん……すげぇ。さすが俺。


「って、言いたいところだけど……ちょっと違うかな」

「え?」

「私が瑠夏を養うのは本当よ。でもね、その言葉の中には色々な意味があるのよ」

「じゃ、じゃあなに……?」

「最終的に瑠夏は永遠に外に出られないのよ。だから、人と話すどころか人と会う必要がないってことよ。……私が瑠夏を永遠に家に閉じ込めるから、ね」

「……」


 俺は絶句した。そうだった……いつも彼女は俺の想像の遥か上の野望を持っていることを。どうして気づかなかったのだろう。


「ちょっと! るーちゃんを養うのは紫苑だって言ってるでしょ!」

「ははは……言ってなさい言ってなさい」


 このパターンを見るのもいい加減疲れてきた。今の梨音の発言は怖いし……とりあえず一人になりたい。


「す、すまん二人とも……俺、もっと英語のこと勉強したいから、英語の本探してくるわ」

「はーい」

「わかったわ。待っているわね」


 ちなみにこれは一人になるための方便だ。とりあえず、図書館中をうろちょろしてから、戻ろう。恐怖心が落ち着くまで。


「とりあえず適当にそれっぽいやつ持って帰るか」


 英語の本は本当に借りようと思う。もし持って帰っていなかったら嘘ついていたことがバレるし、他の女と密会していたとかあらぬ疑いもかけられるしな。


 ……ははは。俺、いつの間にかそのパターンも読めるようになったんだな。慣れって怖いな。


「……ん?」


 このとき、俺の目にある人が見えた。それは知っている人だ。そう、藤井亜姫である。


「亜姫も勉強しに来たのか……?」


 別に誰がなにをしていようがどうでもいいのだが、しばらく彼女の様子を遠くから見ることにした。もし鉢合わせしてからまれたら、それこそ面倒なことになるからな。あいつが英語の本のコーナーから去るまで待っていよう。

 

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