友達になってくれ!
――ある日の昼休み。
「成司先輩、昼休みに俺たちを呼び出して……一体なにがあるんだろうな」
「大丈夫よ。いざとなったら私が守るから!」
俺と梨音は、朝の校内放送で昼休みに生徒会室に来い。と、成司先輩から呼び出されたのである。はぁ、一体なんなんだろうな……
「失礼します……」
「失礼します」
俺はおどおどしながら生徒会室に入ったのに対し、梨音は堂々として入った。
「ふふっ、よく来たね。流川瑠夏ッ……と、門矢クン」
「成司先輩……私になんの用ですか? 言っておきますが、瑠夏と別れる気はありませんからね」
「失敬な! むしろ俺は流川瑠夏に個人的に話があって呼び出したようなものなのだっ!」
「じゃあ私呼ぶ必要なくないですか……? まぁ、例え呼ばれてなくてもついて行きますが」
「ふんっ……」
な、なんだ? いつも梨音にいい対応をするはずの成司先輩が、なんか冷たい……?
「流川瑠夏。俺はキミに頼みがある」
そう言いながら、成司先輩はゆっくりと俺に近づいてきた。
「な、なんですか……? 言っておきますが、梨音と別れる気はありませんよ!」
「キミまでそんなことを言うのか。やれやれ。悲しいな……」
いや、アンタが散々梨音を口説いたからだろ……自業自得だ。
「流川瑠夏……」
「ちょっ……なんですか!? 近い近い……」
成司先輩は俺に迫りまくっていた。お互いの距離があまりにも近い。梨音とイチャつくときよりも近い。
俺は恐怖を感じ、恐る恐る後退りをしたのだが……
「あっ……」
「残念。行き止まりだ」
とうとう壁際にまで追いやられてしまった。
「な、なんですか……?」
「流川瑠夏ァ!」
「ひっ……」
「ちょっと! 私の瑠夏になにを!」
なんと、成司先輩はいきなり俺に壁ドンをしてきた。
男にそんなことをされたのははじめてなため、俺はパニックになり、アワアワした。
「な、な、な……成司先輩?」
「流川瑠夏……」
「……なんですか?」
「俺と、友達になってくれ!」
……はい?
「……え?」
壁ドンをされた挙句、急にこんなことを言われてしまい、俺の頭の中は完全に真っ白になった。
「俺は昨日、キミの友人と幼馴染から話を聞いた。流川瑠夏という男の人間性をな!」
うん。知ってる……報告されたからね。
「そこで俺はわかった。なぜキミが門矢梨音クンを惹きつけるのか、なぜあらゆる女性を惹きつけるのか! それは、キミの優しさだ! キミはどんなに嫌なやつが相手でも優しいと聞いた! そのおかげで、色々な人間が救われたことは間違いない!」
いや、そんな大層なことをした覚えは……って梨音、成司先輩を睨みつけながら頷いてる!?
「俺は今までキミのことを、梨音を奪い、あまつさえ意味もなく女性からモテる敵だと思い込んでいた。だが、そんなことはなかった。キミはとても優しく誠実な人間だ! だから俺は、そんなキミと友達になりたいのだ!」
「うぅ……」
成司先輩は俺の手を握ってきたと思えば、おもむろに手を擦るように触ってきた。手つきが気持ち悪い……
「頼まれてくれるか? 流川瑠……痛てっ!」
「り、梨音……」
梨音はどこからか取り出したハリセンで思いきり成司先輩の頭を叩いた。
「成司先輩……私の瑠夏になにをするんですか? こんな下心まみれの顔と手つきで近づいて、今度はなにを企んでるんですか?」
「な、なにを言う!? 俺はただ純粋に流川瑠夏と友達になりたいだけだ!」
「……そうですか? 例えば、弱点を探って私を瑠夏から奪うとか、そんなことではないですか?」
「違う! もしも俺がそんなやり方をするなら、逆だ!」
え……?
「前までの俺だったら確かにそうだったかもしれない。だが、今は違う! 門矢梨音クン! キミから流川瑠夏を奪ってやる!」
な、なに言ってるのこの人……? あ、頭が追いつかない……友達になりたいんだよね?
「俺は誰よりも流川瑠夏という男を理解したい。だから、彼と友達になりたい。それだけだ。流川瑠夏への愛情の深さは、キミに負けたくない!」
「いやいやいや……あなたごときに私の男を理解してもらいたくないです! 瑠夏は私のものですから!」
「そう言っていられるのも今のうちだ! いつか、キミより流川瑠夏のことを理解するからな!」
そして、今まで(なぜか)梨音と張り合っていた成司先輩は、また俺に近づいてきた。
「流川瑠夏……俺は、キミのことを知りたい。誰よりも」
あ、顎クイしてきやがった……うへぇ。
「できることなら、俺以外見て欲しくないが。今は我慢しておこう。そのときがくるまで」
「……」
今の成司先輩言葉と言動により、全身にトリハダが立った。
「り、梨音……助け」
「まだそんなことを言ってるのか! 俺がキミを門矢クンから助けるのだ!」
や、やばい……この人、マジでなに言ってるか分からない。
「瑠夏、行くわよ!」
「り、梨音!」
「ああっ! 待ちたまえ!」
このとき、梨音が俺の腕を掴み、そのまま引っ張るように俺を連れて生徒会室から去った。
(くっ……まさかライバルが増えるなんて! これからはもっと、瑠夏のことを見張っていなきゃ!)
「り、梨音……ありがとう。助かったよ」
「えぇ。これからも瑠夏は、私が守るから」
「うん……」
こうして、成司先輩と梨音の因縁がはじまってしまったのであった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます