るーちゃんの好きなとこ
「るーちゃんは、やっぱり優しいんですよね」
優しいか。彼からも同じことを聞いたな。やはり、流川瑠夏の共通点は優しい……と。
「んん!?」
「ん? どうかしたのかね? 続けたまえ」
「い、いや……なんでるーちゃんのいいところを言った途端メモしてるんですか!?」
「あ、ああ……これは個人的な仕事のためだ。心配するな。キミの大切な幼馴染を、生徒会に引き入れるとかそんな邪な考えはない」
「は、はぁ……(じゃあ、この人はなんのためにるーちゃんの長所を? わ、わからない)」
流川瑠夏……彼のことをもっと知りたい! だから俺は平野クンを呼んだのだ。だから、そんな目で見るのはやめてくれたまえ。
「えっと……こんなことを言うのは恥ずかしいんですけど、昔の紫苑はヤンチャだったんです」
ヤ、ヤンチャ……? 少なくとも今の彼女の雰囲気からは想像もつかないが
「で、るーちゃんはどっちかというと内気な性格で、紫苑かいつも連れ回してたんですよ。で、紫苑は結構危ないことまでもしてたので、めっちゃ迷惑かけてました……」
「ふむ……」
「あっ、紫苑がヤンチャだったことはメモしないでくださいね! そ、それよりも! そんなことよりも! 紫苑がるーちゃんが特に優しいと思ったエピソードなのですが!」
「大丈夫だ。キミのプライベートは書かないさ」
「ありがとうございます……小学生のころ、上級生と公園の砂場の取り合いになったことがあったときです」
▲
――あれは小学三年生の頃
「ちょっと! ここは紫苑たちが先に使ってたんだよ! 勝手に入らないで!」
「うるせぇ! 大体オレたちは六年生だ! 下級生は最上級生に逆らうなよ!」
紫苑とるーちゃん対小六の男の子二人で、どっちが校庭を使うか言い争ってました。もっとも……
「し、しーちゃんやめよ? この人たちこわいし……」
「るーちゃん! こんなやつらの言いなりになっていいの!? 紫苑は嫌だ! こんな身体の大きさと年齢が紫苑たちより高いだけでこんな横暴をするやつらにくっしたくないよ! だから、戦おう!」
「え、えぇ……おれもやるの?」
「うん! やるよ!」
「わ、わかったよ……しーちゃんがそう言うなら」
▲
うむ……流川瑠夏はこの時点ですでに優柔不断だったのか。
▲
「よーし。じゃあオレたちと勝負して勝ったら譲ってやるよ! 勝負内容はこうだ! あのジャングルジムの一番高いところから飛び降りて、上手く着地できたら勝ちだ!」
「……!」
「し、しーちゃん……やっぱりやめよ?」
「いいよ! その勝負、受けて立つよ! るーちゃんもやるよ! ね?」
「し、しーちゃん……」
紫苑はアツくなりすぎるあまり、今にも泣きそうな顔をしたるーちゃんを巻き込んでしまいました。
今思うと本当に悪いことしちゃったな……
「よーし! じゃあ俺からやるぜ!」
まず一人目の小六が勢いよくジャングルジムの真ん中辺りまで登り、そこからジャンプし、飛び降りた。
「ははっ! どうだ! こんくらい朝飯前だぜ!」
「はははっ! どうだ! 弱虫のお前と、女のお前じゃ無理だろ!」
「し、しーちゃん……」
「ふんっ、紫苑にだってそれくらいできるもん!」
「えっ……?」
紫苑は感情の赴くがまま走り出し、ジャングルジムに登った。
「あいつより高く登るのは簡単。でも、もう一人のあいつにも負けたくない……なら!」
感情の赴くがままと言っても、当時の紫苑はこのとき冷静にぶんせきをしていた。
「お……おい! あいつあんなに登るなんて!」
「し、しーちゃん! 危ないよ!」
「ぐぬぬ……俺を超えただと」
紫苑はてっぺんから三番目のところまで登り
「はっ!」
そこから飛び降りた。着地も綺麗にできた。
「よっと!」
「し、しーちゃん……大丈夫?」
るーちゃんはおろおろしながら、紫苑に近寄ってきた。
「るーちゃん心配しすぎ! 紫苑にとってこれくらい余裕なんだから!」
「よ、よかったぁ……」
「もう。るーちゃんは心配症なんだから」
紫苑は優しくるーちゃんの頭をなでた。
「で、どう? 紫苑はこれだけの高さから降りれたよ? 降参してもいいんだよ?」
ちょっと調子に乗った紫苑は、小六のやつらに挑発をした。
「バッ、バカにするなよ! オレはお前よりもっと高いところからと、飛び降りれるんだからな! 見てろよ!」
小六のもう一人の男の子は、怒りながらジャングルジムに登った。
▲
「ひ、平野クン……まだ流川瑠夏のエピソードが出てこないのだが。昔は気弱だったことしかわからないぞ」
「いえいえ、ここから出てくるんで!」
「う、うむ……」
▲
「見たか! オレは今からここから飛び降りるからな!」
「お、おいコウくん! さすがに危ないだろ! 降参しようぜ!」
「やだ! オレはここから飛び降りるんだ!」
コウくん……つまり、もう一人の小六の男の子は、なんとてっぺんに登ったのである。さすがに仲間の子も止めようとしたのだが、コウは耳も貸さなかった。
「ね、ねぇ……紫苑たちの負けでいいからあの子止めなよ」
「いや……でも俺、さすがに一番高いとこまで行くのは怖いよ」
さすがにヤバいと思った紫苑は、仲間の子にコウを止めるように言ったが、その子もその子でビビりだったのである。
「おいおい! 飛び降りて見せるから……な! み、みてろ……おわっ!?」
「コ、コウくん!?」
コウは足を滑らせてしまった。どうにかジャングルジムに捕まったことで落下は避けられたが、手を離してしまうのも時間の問題だ。
「……っ!」
「る、るーちゃん!?」
急にるーちゃんは走り出し、素早くジャングルジムのてっぺんまで登った。
「捕まって!」
「お、おう!」
るーちゃんは手をのばし、コウを助けようとした。
「紫苑たちも助けにいくよ!」
「え……でも」
「友達なんでしょ!」
「わ、わかったよ……!」
そして、紫苑と小六は一緒にジャングルジムのてっぺんまで登り、手をのばし、るーちゃんが掴んでいない方のコウの手を掴んだ。
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