朝チュン(いや、ちがうから)後の教室

あれから梨音は俺の家に一泊……いや、二泊で泊まった。つまり、俺たちは一緒の家から出て、一緒に登校した。ということである。

一緒の家から登校ということ自体は前にもあったのだが、登校中、梨音からこんなことを耳元で言われた。


「……まるでホテルの朝帰りみたいね」

「ぶっ……」

「私たち、もう完全にカップルね……」

「いや、そういうことはしてな……してたな。俺が気づかなかっただけで」

「ごめんなさい。あなたの家だと恐れ多くて、できなかったのよ。また今度、機会を作るわ」

「そ、そうですか。ありがとうございます……」


俺の彼女、そんなに過激な人だったか……?


と思い出し、俺は教室で悶々としていた。

ちなみに、梨音は今そばにはいない。教室という同じスペースにいるが、今は同性の友人と会話をしている。


なぜか、ちょいちょい彼女からの視線を感じはするのだが……


「よぉ、瑠夏。おはよー!」

「充希! おはよう」


と、ここで朝練後の親友が教室に入り、俺のそばにやってきた。


「なぁ、充希。あれから大丈夫だったか……一応生存確認は取れてたけどさ、やっぱり心配で」

「ああ。大丈夫だ。いつも通りの俺だ。むしろ平野は俺にはなにもしてこなかったぜ」

「そ、そう……ならよかった」

「ただ、逆に平野の方が心配になったぜ」

「え?」

「あいつ、あれから抜け殻みたいになって、なにも話さないし動かないし、顔は死んでるしって感じだったんだよ。だから……」

「だから?」

「肩貸して送ったぜ。それで、インターホン押したら平野のお姉ちゃん? らしき人が出てきてよ。あの人、抜け殻のような平野を見るなり、めっちゃびっくりしてたんだよ」


しお姉、お疲れ様……


「まぁ、平野を家に送った後。俺は普通に家に戻ったから、特になにも起きなかったぜ。あっ、それともなにか起こった方が面白かったか?」

「いや、起こらないほうがよかったよ……充希が無事でよかった」

「そ、そうか……ん?」

「どうしたの?」

「すん……すん……」

「うわっ!? な、なんだなんだ!?」


ここで充希はいきなり俺の髪に顔を近づけ、匂いをかいできた。


「なんだよいきなり!? 気持ち悪いなー!」

「瑠夏、シャンプー変えたか?」

「それ大体は彼女とか女友達に言う言葉だぞ……男同士だぞ俺たち」


と、ここで感じた。もしかして、梨音が充希をライバル視している理由……本当にこいつは俺のことを!?


そうなのか!? 梨音!


と、アイコンタクトを送るように俺は梨音の方を向いた。彼女は既に俺(達)の方を見ているようであり、その顔は……


なぜか笑顔だった。いつものように充希を睨みつけているわけではなかったようだ。


だが、彼氏である俺にはわかる。梨音の笑顔にどこが怖さがあるということに……


「グリーンアップルの香りがする……」

「だからかぐなって!」

「いてっ……そ、そういえば。門矢も似たような香りしてなかったか?」

「聞き捨てならないぞ! おっ、お前っ……いつかいだんだ!? 言え!」


充希の発言を聞き逃さなかった俺は思わず机をバンッ! と叩いた。


「お、落ち着けよ……違うって! あいつと会話したとき、たまたま香りがこっちにきただけだよ!」

「そ、そうか……たしかに俺も梨音のにおいが鼻に入ったことはあるけど……」

「お前、少し門矢に似てきたな……嫉妬深いとことか」

「そうか?」

「うん。で、それよりもだ。お前、門矢と似た香りってことはまさか……」

「な、なんだよ……」

「お前、門矢の家で一緒に風呂に入ったのか!?」


充希が大声でそう言った瞬間、周りの人たちが一斉にこちらを向いてきた。


「ちょっ……声がでかいって!」

「ああ、すまん……つい」


充希はバツが悪そうに謝ってきたが、時すでに遅し。男女問わず、教室の人たちが一斉に俺たちを取り囲むようにやってきた。

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