彼女と風呂に入ってしまった

 ――脱衣所


「ちょっと梨音! 急に俺の前で脱がないでよ!」

「いいじゃない。どうせお風呂の中で裸見せるんだから!」


 梨音は猛スピードで服を脱ぎ、今は下着姿になっていた。しかも、下着の色は派手な黒紫色だ。そして、上にも下にも蝶々の柄が描かれている。とてもエロい……


「やだも~じろじろと見つめちゃって~瑠夏のえっち!」

「そ、そんなにじろじろ見てないし! と、というか! どうせ俺裸見るからいいだろ!?」


 と、俺は開き直ったような発言をしてしまった。


「それにしても、この下着を着てよかったわ。これで瑠夏を悩殺する予定だったし」

「えっ……予定!? ま、まさか俺の家に来るのも想定内だったってこと!?」

「ええ。本当はさりげなく瑠夏を家まで送って、うまく言いくるめて家に入れてもらう予定だったわ!」

「あ、ああ。そう……」

 ま、まさに計画的犯行だ……


「最も、私の計画は平野さんに邪魔されておジャンになるところだったけど……」

「……」


 その言葉を聞き、さっき紫苑にひどい言葉を吐いた自分を思い出し、再び罪悪感に苛まれた。もっと他にかけるべきこととかあったよな……


「だから、あのやばい女にはある意味感謝しているわ。私の瑠夏を奪おうとした梨、瑠夏を殴ろうとしたことは許さないけど、結果的に、私が瑠夏の家にお泊りする理由ができたからねっ!」


そんな俺の表情には気づかず、梨音は洋画で追い詰められた敵の組織のボスのように、聞いてもいないことまでぺらぺらと話していた。


「な、なるほど……でも、感謝はしないほうがいいかも。ああいう人は、感謝すると調子に乗るタイプだと思うから」

「そうだけど、使えるものは使わないと……ね」


 俺は自分の敵をも利用する梨音の策士ぶりに、少しドン引きした。


「ほら、瑠夏も脱ぎなさい。一緒に入るんでしょ? それに、瑠夏の裸、私も見たいから……はぁはぁ……」

「ひっ……」


 目を血走らせながら、鼻息を荒くする梨音を見て、更にドン引きした。しかし今から風呂に入る以上、脱がないわけにはいかない。俺はじーっとこちらを見てくる梨音をチラチラと見ながら、恐る恐る服を脱ぎ始めた。そして、どうせなら……とヤケクソになり、俺はパンツまで脱ぎ、文字通り裸一貫となった。


「瑠夏の裸……いい! いい!」


 梨音のキャラが段々崩れている……これじゃあクラスの優等生じゃなくて、変態優等生じゃないか。


「……梨音も脱ぎなよ。一緒に風呂入るんでしょ?」

「ええ。あなたの裸を見た後に、脱ぐつもりだったわよ」

「なにそのルール……」


 さも当たり前でしょ? と言いたげな表情の梨音に俺はツッコミを入れた。そして、彼女はブラのホックをゆっくりと外し、それを俺に向かって投げてきた。それにより、俺は目の前が見えなくなり、黒紫色一色の世界になった。


「うぉわ!?」

「ふふふ……」

「ちょっと梨音! なにしてんだよ!?」

「私のおっぱいの匂いを堪能してほしくて……」

「……う、うん」


 実際、いいにおいが俺の鼻の穴に一気に入ってきた。投げつけられたことを咎めることができなかった。


「もう。梨音テンションあがりす……ぎ」


 俺はやれやれと思いながら、ブラを顔から離した。その瞬間、目の前に生まれたままの姿の梨音が見えた。俺がブラに目を覆われている間、梨音はショーツも脱ぎ終わったらしい。


「……」


 今まで露出していなかった部分まで見えたため、改めて梨音の肌の白さを目にした俺は感銘を受けた。

そして、布越しでも大きいと分かっていた胸もなににも包まれていないという丸裸の状態で見えたため、彼女の胸の大きさを痛感した。そして、白い肌という明るめの色が長い藍色の髪という暗めの色により、門矢梨音という人間のバランスを保っているようにも見えた。


「る、瑠夏……見つめすぎよ?」

「あっ、ああごめん!」

「特に胸の辺りとか……じーっと見ていたわよ?」

「……うっ」


 バ、バレていたか……


「ふふふふ……瑠夏、もっと見てもいいのよ?」

「えっ……いやいや、もっとって……」

「それに、私も瑠夏の裸じーっと見ていたから」

「いや……その」

「風呂の中でも、私の胸見ていいからね。それじゃあ、お風呂に入ろうか!」


 裸の梨音と一緒にいて、俺の精神は保たれるのだろうか……? そう思いながら、俺たちは風呂場に足を踏み入れた。


「瑠夏、早速風呂に入っていいかしら?」

「い、いいよ……」

「ありがとうっ!」


 そして、梨音の足からはじまり、お腹、胸の順番に彼女の身体が段々と湯船に浸かった。


「はぁー……いいお湯ね~落ち着くわ~……」

「お、俺は落ち着かないけどな……」


 今、異性と風呂場にいる。俺はその現実が受け止めきれず、声が全体的に震えるなど、露骨に動揺していた。もっと言えば、身体も震えている……


「瑠夏、身体震えているじゃない? 私と一緒に風呂に入ればいいのに」

「だ、大丈夫だから! ま、まずは髪と身体を洗うから!」


 ただでさえ梨音と同じ空間にいるだけでも心が危ういのに、裸の梨音と一緒に湯船に浸かるなんて、できるわけないでしょーが!

 と、俺は心の中で叫んだ。


「あ、あのさ……タオルとか巻かないの?」

「当たり前じゃない。だって、温泉とかだと、タオルを巻いてお湯に浸かっちゃダメってルールがあるじゃない」

「いや……ここ温泉じゃないし」


 俺はそうツッコミを入れながら、シャンプーを出し、髪を洗い始めた。

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