彼女を部屋に入れてしまった

「なるほど! ここが瑠夏の部屋ね! 男の子の部屋って感じ!」

「ま、まぁありきたりな感じだよ……つまらなくてごめんね」


実際そうだ。俺の部屋にあるのは3つの並べられている白い棚でそれぞれ漫画、ライトノベル、ゲーム機が入っている。

その棚と対をなすように設置してあるのは、机だ。そこで俺は勉強をしている。


そして、部屋の奥には無駄に二人並んで寝られるであろうデカいダブルベッドがある。ちなみに、これは元々両親が使っていたものだったのだが、使わなくなったからと言って俺に押し付け……くれたものだ。


「いやいや! 私、異性の部屋入るの初めてだから……ねっ!」


と、言いながら梨音はおもむろに俺のベッドの下を覗いた。


「ちょっと!? 部屋に入るなり、いきなりなにしてんの!?」

「いやー、瑠夏のベッドの下にえっちな本があるかもって思ってねー」

「仮にあったところで梨音に得はないでしょ……」

「いえ、あるわよ」

「え?」

「私の仕事ができる」

「仕事って?」

「本を燃やす!」

「もや……え!?」

「だって、私以外をえっちな目で見るなんて、許さないんだから……」

「……」


梨音は急に目が据わり、辺りをジロジロと見回した。


「瑠夏、エロ本はどこ? 全部私に差し出しなさい!」


あれ? 俺、今もしかしてピンチ……?


「今日はそのエロ本を使って、ちょっと時期の早い焚き火をしようかしらね〜」

「……」


お気楽な口ぶりではあるのに、どこか威圧感もあった。


……隠してもしょうがないか。


「すみません……」


俺は土下座をしながら、梨音にスマホを差し出した。


そのスマホには、FINSAというホームページが映っていた。


「る、瑠夏? どうしたの? いきなりスマホを見せてきて……」

「今時紙のエロ本なんて買わないんだよ……全部デジタルなんだよ」

「ふぅ〜ん……デジタルねぇ……」


梨音はジトっとした目でスマホを見つめていた。


「あの……アカウントを消すのは勘弁してください。これ、父親のアカウントなので……俺と共用しているので」


俺は親父のストレスの発散先を守るため、必死に頼み込んだ。


「いや、本当に俺も一時期こっそり見てたんですけど……梨音と付き合ってからは一度も見てません!」


実際、彼女ができてから本当に見ていない。アクセスすらもしていない。


「ゆ、許してくれますか……」

「うーん……どうしよっかなー」

「……」


梨音は意地悪な表情になり、わざと考え込むような発言をした。


「じゃあー……私の条件を呑んでくれるかしら?」

「は、はい! 死なない限りはお願いします!」

「うーんそうだなー……あっ、そうだ!」


そして、梨音は両手を叩き、こんなことを言ってきた。


「私と一緒にお風呂に入りなさい!」

「……え?」

「そうしたら、あなたを許すし、あなたのお父様のアカウントは消さないわよ! それでいいかしら!?」

「うぅ……物心ついてからの異性との風呂か」

「……物心?」

「あっ……」

「ねぇ、瑠夏。物心つく前はどの女の子と入っていたの……?」

「だ、誰だろうねー……」

「まぁ、想像はつくけど……」


そして、一度梨音は話すのをやめ、俺の部屋のあちらこちらの匂いを嗅いだ。まるでウサギのように鼻をピクピクと動かしながら。


「どこも平野さんの残り香がする……」


嘘だろ!? 小6以来家にすら来てないのに……年単位で残る香りなのかよ。


「特にこの本棚とか!」


あれは紫苑が勝手に俺のラノベとか漫画とか読み漁ったりしたからな……


「後、このコントローラー!」


と、言いながら梨音は紫色のゲームコントローラーを取り出し、俺に見せてきた。


「確かにこれはよく紫苑に貸してたやつだけど……」

「やっぱりね……」


怖いよ。なんで匂いとか分かるんだよ……俺からしたら無味無臭だよ……


「ねぇ、瑠夏。何歳まで平野さんとお風呂に入っていたの? 正直に言いなさい」

「しょ、小4だよ……」

「小4ね……アウトだわ」

「え……」

「小4とかもう子供ができるかもしれない身体なのよ!? 間違いとか起こしたらどうするのよ!? 精通しやすい年齢でもあるのよ!」


と、梨音は俺の肩をガシッと掴み、揺らしながら大声で叫ぶように言ってきた。

言ってることは正しいかも知れないけどサラッと生々しいこと言うなよ……


「平野さん、あなたを手に入れるためなら手段は選ばない人よ。もしかして、あなたと一緒にお風呂に入っていたとき……既成事実を作ることを考えていたかもしれないわっ!」

「いや、待って! その頃の紫苑は無害だから! それこそ……あっ、そうそう! 充希みたいなその、男友達みたいな感じだから!」

「三葉君!? 有害じゃない! あの子も友達と称してあなたに近づいて、奪おうとしてるじゃない!」

「いやだから、充希はそんなんじゃないって……」


いつも思う。なんで梨音は男友達までライバル視しているのか……


「とにかく! 私とお風呂に入りなさい! 平野さんに先越されたけど、私で上書きしてあげる!」


その執念が怖いな……


「ついでに、あなたのお父様のアカウント消去も見逃してあげる!」


そしていつの間にか俺を揺さぶっていた発言がついで扱いになってるし……


「わかったよ。いいよ」

「やったー! それじゃあ、行きましょう!」

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