名は体を表す

 ――生徒会室


「失礼します!」

「失礼しまーす」

「し、失礼します……」


 門矢さんが威勢よく、充希が軽いノリでお邪魔した中、俺は少しおどおどしながら入った。なぜなら、俺は一度も生徒会室へ入ったことがないからだ。


「お前ら、生徒会室へ入ったことあるのか?」

「ないわ」

「ないぞ」


 肝すわってんな……


「おお! 君たちは門矢梨音クンと……二葉ミツオと、氷川ルイだな」


 金髪ストレートで長身の男が、髪をかき上げ、キラキラしながらやってきた。


「違います! 三葉充希です」

「俺は流川瑠夏です」

「おっとすまない。名前を間違えてしまったようだ。失敬失敬……」


 彼は俺たちに謝罪をしてきたが、全く誠意が伝わってこなかった。むしろ、ムカついてくるほどだ。


「成司先輩、池綿(いけめん)会長はいないんですか? 私たちは会長に用があって来たのですが?」


 そう。彼こそが以前門矢さんに告白し、見事玉砕した成司寿人(なるしとしひと)先輩だ。高校二年生で、校内イチのモテ男である。


――それよりも門矢さん、会長の名前まで把握しているの、すごいな。俺なんてつい今まで忘れていたのに……


「ああ、池綿先輩は大東大学を受験するために、会長を休んでいるところさ。だから今は副会長であるこの僕が! 生徒会を仕切っているわけさ」


 と、成司先輩はまた髪をかき上げながら、自慢げに言ってきた。やたら「僕が」って強調してきたな……どんだけ自分好きなんだよ。

 俺は彼のナルシストぶりに辟易していた。


「じゃあ成司パイセン、お聞きしたいことがあるのですが……」

(パイセン!? 充希馴れ馴れしすぎだろ!)

「ん? なんだい? 後、ちゃんと先輩か副会長とつけようか」

「平野紫苑が停学になったのですが、誰か告げ口をしたんでしょうか……? 心当たりがあるのは俺たちと同じクラスの人だと思うのですが……」

「なるほど。平野クンの停学の件だね……会議まで少しだけ時間があるし……」


 成司先輩はじーっとキラキラした金色の腕時計を見つめながらそうつぶやいた。多分この時計は、ヴォレックスだろう。よく駅の広告で見かけるものと同じデザインをしているからだ。


「よし、少しだけ話そうか。さ、入りたまえ」

「「「はい」」」


 成司先輩に促され、俺たちは生徒会室へ入った。


「さ、君たちはそっちの席に座りたまえ。それと、お茶だ。飲んでくれたまえ」


 俺たちが席に腰掛けると、成司先輩はお茶を出してきた。しかし、門矢さんに与えたのはおしゃれなティーカップに入ったものだったのに対し、俺たちに与えられたのは小さいペットボトルである。この差はなんなんだ……


「門矢クンに用意してあるのは、寿人特製のハーブティーだ。味わってくれたまえ」

「ええ……いただきます」


 門矢さんはバツが悪そうな顔をしながら、ハーブティーを口に入れた。


「さすが門矢さん、飲む姿も美しい!」

「あの、成司先輩……なんで俺たちはペットボトルなんですか!?」


 さすがにこの扱いの差には納得がいかず、彼に抗議をした。


「瀬川クンと一葉クンにはそこらへんのお茶がお似合いだ」

「そりゃないっすよパイセン! 後、俺の苗字葉っぱの数減ってません!?」

「いや、そこかよ! 後、俺は流川です!」

「なんでもいいだろ! 僕は男の名前を覚えるのが下手なんだ!」

「会長は全生徒の名前を間違えずにちゃんと覚えていましたっすよ!?」

「僕は会長と違ってもの覚えが悪いんだ!」

「それで副会長が務まりますか!? 生徒会メンバーの名前は覚えられたんですか!?」

「生憎だが、男性メンバーの名前は時々間違える! だが、それがどうしたというのだ!?」

「なに開き直ってんすか!?」


 と、俺たち男三人が醜い言い争いを続けていると……

「うるさーい!」

「「「……」」」


 門矢さんが大声を出したことで、争いに終止符が打たれた。


「そこの三人! くだらないことで言い争いをしている場合じゃないでしょ!」

「えっと……」

「いやでも門矢さんよ。こいつ明らかに性差別している節があって」

「なんだと!?」


 充希。気持ちはわかるけど、先輩を直接こいつ呼びはまずいって……


「そんな! ことよりも! 平野さんが停学になった理由よ」

「「そうだった……」」


 当初の目的をすっかり忘れていた……


「こほん。僕としたことが、取り乱してすまない。平野紫苑クンの停学についてだね?」


 一つ咳払いをし、成司先輩は椅子に座った。


「はい。改めて聞きますが、平野紫苑が色々あって停学になってしまって……それで、さっき三葉君が言っていた通り、誰かが告げ口したんじゃないかって聞きたいと思いまして」


 スラスラと門矢さんは話を進めた。


「なるほど……愛しの君の話を否定するのは心苦しいが」

「あの、それ言ったの私じゃなくて三葉君なんですけど。それとやめてください気持ち悪いです」

「毒舌な君も悪くない」

「……チッ」


 紫苑はこれまたスラスラと辛辣な言葉を成司先輩に浴びせた。しかし、それをスムーズにかわされたことに不快感を覚えたのか、彼女は舌打ちをした。


「平野クンだが、彼女は昨日の放課後、我が生徒会室へ来て、自ら停学にしてくれと言ってきたよ」

「……え?」


 意外過ぎる答えに、俺は拍子抜けした。

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