第60話 一緒に行こう
「ん・・・む・・・?・・・おお!?」
「あ、起きたの。」
『おはようございます忍様。お体の調子はいかがでしょうか?』
目が覚めると、目の前にはアップのルールーの顔。
驚いて一気に頭が覚醒する。
「ず、ずっとこうしてくれていたのか!?す、すまん!」
「あ、無理して起きないの。もう少しこうしているの。」
『・・・む〜っ!』
慌てて起き上がろうとすると、ルールーに肩を押さえてそのまま膝枕にされる。
・・・不満げなリーリエの声が少し怖い。
「身体に異常は無いの?」
そんな中、心配そうなルールーの問いかけに、目を閉じ身体の調子を確かめる。
「・・・ああ、異常は感じられない。ああ、そうだ。ステータスで状態も確認出来たな。どれどれ・・・む?新しいスキル・・・ああ、そうか。意識を失う前に獲得音が鳴っていたな。なになに・・・?」
ステータ画面をしっかりと確認すると、新たな獲得スキルとして、【解放】というものだった。
【解放】?
どういったもなのだろう?
「リーリエ、わかるか?」
わからない時は、リーリエに聞くに限る。
『はい!あのですね!?そのスキルは文字通り「解放」する事ができます!例えば、隷属などの呪いや契約、また、世界に縛り付けられているもの、他には、ルールーさんのように自縄自縛になっている方などの意識、更には、特定の役割がある者などを解放することができます!!!』
「お、おお・・・そ、そうか・・・」
「はいっ!!」
何故か感情を爆発させて矢継ぎ早にまくし立ててくるリーリエ。
鼻息もとても荒く、ふすー!ふすー!と聞こえてくるかのようだ。
「・・・リーリエ、鼻息荒いの。落ち着くの。」
『あっ!?す、すみません!』
ルールーが呆れたようにリーリエを落ち着かせてくれた。
一体、なんだったのか・・・
「さて、そろそろ起き上がって良いか?」
「・・・仕方がないの。」
不服そうなルールーを見てながら起き上がる。
何故不服そうなのか。
「さて・・・」
俺は、聖樹があったところを見回す。
本当に、見事に何も無い。
「ルールー、さっきの問いかけ、もう一度しようと思う。」
俺はルールーを見る。
ルールーは無言だ。
無言で俺を見つめている。
「俺は、今『ディア』という村を作っている。村の意味は理想郷という意味を込めている。」
「・・・」
「そこでは、種族を気にせず、誰もが笑顔で過ごせるような所にしたいんだ。」
「・・・それで?」
「この世界には、まだあんな化け物のような脅威がある。俺も勿論もっと強くなるつもりではある・・・が、悔しいが今はまだ弱い。あの化け物どころか、君にも敵わない。」
俺は、一度そこで言葉を切る。
「だから、手伝ってくれないか?おふくろや親父の仲間だったルールーが来てくれるならとても助かるし、頼りになるから。」
そう言うと、ルールーは目を伏せる。
「・・・シノブ、シノブはどう思うの?シノブ個人の考え、感情が知りたいの。」
俺の・・・か。
そんなの決まっている。
「勿論、ルールーが来てくれるのは嬉しいさ。それに、鍛えて貰えそうだし、色々教えて貰えそうだし、良いこと尽くめだ。それに・・・」
「それに?」
ルールーの目をじっと見る。
「君がここで一人で寂しく過ごしているのは、俺はどうも気に入らないみたいだ。どうせなら、近くで笑っていてくれないか?」
こんなことを言うのはちょっと照れくさい。
俺の柄じゃないしな。
だが、本音でもある。
ルールーはこれまで数百年、ずっと一人寂しく過ごしていた・・・のだと、思う。
当然、俺がルールーの心情を全てわかってあげらるわけでも無い。
大きなお世話だと言われるかもしれない。
だが、それでも、
「俺が嫌なんだよ。君が寂しい思いをしているかもしれない、と考えるのが。楽しく過ごして貰いたいんだ。・・・おふくろ達と居た時のように。」
ルールーには、怒られるかもしれない。
俺には、親父やおふくろの代わりはできないから。
「俺は俺として、ルールーを笑顔にしてあげたいんだ。」
俺はじっとルールーを見る。
ルールーは無言だったが・・・ん?何故頬が赤く・・・
「・・・ホント、シノブはレナそっくりで優しいの。リーリエ?」
『・・・なんでしょう?』
ん?
何故リーリエを?
「やっぱり、もう無理なの。」
『・・・はぁ〜、そうですか・・・ううう・・・忍様のバカ〜・・・』
無理!?バカ!?
やっぱり駄目なのか!?
というか、俺は何か失敗したのか!?
「シノブ。」
焦っている俺を呼ぶルールー。
「な、なんだ?」
「はっきりと言ってほしいの。ルールーにどうして欲しいの?」
そう言って微笑むルールー。
俺の言葉は決まっている。
「ルールー、一緒に行こう。俺たちと一緒に。」
「・・・うん、一緒に行くの。シノブと一緒に。」
「本当か!?」
そうか!
良かった!
これで、ルールーにも寂しい思いをさせずにすむ!!
「レナには謝っておくの。」
「謝る・・・?ああ、約束か。」
まぁ、そうかもな。
結果として、おふくろとの約束を破ったことになってしまったしな。
「違うの。鈍感なの。その辺は、あのガンダンの馬鹿に似たの。あの馬鹿鬼、許しがたいの。」
『・・・忍様〜。変わって欲しいやら、欲しくないやら・・・あうう・・・』
「・・・どういうことだ?」
「内緒なの。」『内緒です。』
・・・本当にわからん。
その後、ルールーが身支度を終えるまで、俺たちは鬼たちが寝ていた泉のほとりで時間を潰す。
少ししてルールーが呼びに来たので、ルールーが居住に使っていた穴蔵に向かい、ルールーの荷物をアイテムボックスに入れようかと聞いたのだが、
「レナにアイテムボックスを付与してある袋を貰っているから、大丈夫なの。」
「付与?」
『忍様、付与というのは、物や人に魔法の影響などを与えるものです。この場合は付与魔法を使って、それを物に固定する行為を付与と言います。・・・凄まじいですね。忍様のお母様は。』
・・・たしかに凄いなおふくろは。
本当に、一体どうなっているんだ?
いくらなんでも凄すぎる。
ああ、そうか!
そういえば、向こうで一緒に住んでいた頃、色々不思議な道具があったな!
触れると自動で絞まる縄とか、軽い衝撃を与えると、大きな振動となって屋根の雪を効率良く落とす仕組みとか。
おふくろ達がいなくなって、百合さんの商家で品物を見た時、そういう物が売って無くて疑問に思っていたが、あれもおふくろの作った物だったのかもな!
・・・遠いなぁ。
おふくろ達に追いつくのは。
準備を終え、ルールーが最後に聖樹があったところに向き直った。
「・・・守ってあげられなくて、ごめんなさい、なの。そして、助けてくれてありがとう。助けられた命、大事にするね?なの。・・・きっと仇は取るの。今度は、シノブ達と一緒に。だから、見守ってて欲しいの。」
そう言うルールーは、超越した美しさがあった。
思わず見惚れる。
「・・・あれ?これって・・・あっ!?」
突然、ルールーが声をあげる。
なんだろう?
ルールーが聖樹があった場所の中心に駆け出すので、俺も近寄る。
しゃがみこんでいるルールー。
俺も見てみる。
「これは・・・」
『・・・聖樹の苗木?』
地面から浮き上がって来た小さな苗木。
光に包まれて土ごと少しだけ宙に浮いている。
驚いたままそれを見ていた俺に、ルールーは嬉しそうにこちらを見た。
「きっと聖樹も子供を一緒に連れて行って欲しいって言ってるの!」
そう言った瞬間、聖樹の苗木を包む光が強くなる。
「ああ、そうだな。きっとそうだ。よし!一緒に行こう!」
柔らかい光が俺たちを包む。
Pon!
スキルの獲得音がする。
『・・・忍様、ルールーさん、どうやら、推測は当たったようですよ?』
優しいリーリエの声に、俺たちはステータスの窓を覗き込む。
するとそこにあったのは新たな称号、【聖樹の守り手と共にある者】だった。
「シノブ!今度こそ聖樹を守るの!力を貸して、なの!!」
「ああ、任せろ!次は負けん!どんな障害にもな!!」
そう決意するのだった。
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