第59話 それでも前に進むために

「こ、これは・・・なんなの・・・?」

『ルールーさんの約束を大事に思い続ける気持ち・・・それが具現化した・・・?』


 ルールーが驚いた顔をしている。

 しかし俺は集中を解かない。

 これは集中を解いたらおそらく消える! 


 この鎖はかなり強固だ。

 俺にはそう見える。

 

 それだけ、ルールーが約束を大事にしていた証拠だろう。


 だが、俺はそれを断ち切らねばならない。


 ルールーの為にも、おふくろの為にもな!


「ルールー、その鎖、自分で切れるか?」

「・・・出来ないの!身体が動かないの!」


 手足を動かそうとして、それができず焦るルールー。

 おそらく、自分では気が付かず、無意識に動きを止めているのだろう。

 やはりそうか。

 なら、


「そうか・・・それはルールー、君の未練だ。おふくろとの約束に対するな。」

「っ!!」


 未だにそれが外れないって事は、まだルールーはそれに囚われているって事だ。

 

「ルールー、俺はその鎖を今から断つ。だから・・・それが切れたら俺たちと一緒に来てくれないか?」

「・・・」

「俺たちでは頼りないかもしれない!情けないところも見せるかもしれない!だが、俺はもう君を放っておくことはできない!寂しそうに、ひとりぼっちで約束に囚われ生きる君を放っておくことは!」


 まるで、昔の俺を見ているようで。

 

 あの、空虚な自分を。


「俺達には・・・俺には君が必要だ!頼む!!」


 俺の叫びに、ルールーの表情は驚きに目を見開き、そして頬を少し赤く染め微笑んだ。


「・・・分かったの。レナの子・・・シノブは困った奴なの。」


 ルールーがそう言った瞬間、四肢を繋ぐ鎖が弱くなったように感じた。


 斬れる!!


「ならば俺がその呪縛から解き放つ!【気闘術】【鬼神の血】発動!!」


 集中しろ!

 俺は今からルールーを救うんだ!

 

 ルールーがまた前に進む為に!!

 一歩踏み出す為に


 手刀に力を集中しろ!


 全ての力を!!


「うおおおおぉぉぉ!!」


 手刀を四回振るう。

 

 たしかな手応え。


 バキィ・・・ィィィン!!


 四肢を縛る鎖が砕け散る。


「あっ・・・」


 呆けたようなルールーの声。


 急激に身体から力が抜ける。

 【切り開くもの】の効果が切れたのか?


 Pon!


 スキル獲得音?

 何故今・・・?


『あっ・・・』


 リーリエからも呆けるような声が漏れる。

 だが、俺も無理した力の使い方をしたのか、急速に意識が薄れていく。


 倒れていく身体。


 抱きとめられる感触。


「・・・やれやれ、仕方がないの。しかし、困った奴なの。色々レナに似てるのにあんな風に求婚みたいに・・・本当に困ったの・・・別の意味でレナに合わせる顔が無くなったの・・・どうしよ・・・」


 そんな声がルールーから聞こえた気がする。


 そして俺は意識を失った。










 ワタシ、ルールーは、自分の膝の上に頭を置いて寝ているシノブの顔を見ている。

 あどけない顔。

 レナ譲りで可愛いの。

 目が閉じている分、あのバカ鬼要素が減っていて良いの。





 あの瞬間


 シノブが鎖を断ち切った瞬間、身体が、心が軽くなった気がしたの。


 本当は、分かっていたの。


 レナはそんな事を望んでいないって。


 でも、そう思わないと、悲しくて、寂しくて、押しつぶされそうになっていたの。

 だから、約束に縋って、シノブの言う通り呪いになっていたのかもしれないの。


 シノブの頭を撫でる。

 自然と顔が笑顔になる。


 困ったの。

 こんなの初めてなの。


『・・・ルールーさん。もしかして・・・』


 シノブの能力の窓、が呟いたの。


「だって仕方がないの。ただでさえレナに顔も魔力の色も似ているのに、あんな求婚みたいな事言われたら・・・」

『・・・ですよねぇ・・・』


 ただでさえレナ大好きなルールーが、好きにならないわけが無いの。

 何やらしょんぼりしたリーリエ。

 まぁ、本当は分かってるの。


「これからは仲良くするの。もうすぐなの?」


 そう問いかけると、驚いた気配がしたの。


『・・・分かるのですか?』

「なんとなく、なの。これでも長生きしているの。」


 ルールーがそう言うと、リーリエは苦笑交じりになったの。


『・・・流石ですね。はい、今回の件で後少しになりました。』

「きっと大丈夫なの。だってシノブはルールーを救ってくれたの。」

『はいっ!』


 やっぱりなの。

 能力の窓が話すわけが無いの。


 だから最初から疑っていたの。


 リーリエは能力の窓のフリをした誰かだって。

 

 で、そこに気がつけば簡単なの。


 なんの為にしているのかを考えれば・・・シノブの傍に行く為なの。

 もし、始めから傍に行けないのであれば、正体を隠さないだろうし、なの。


 シノブをもう一度見る。


 レナ。

 約束を守れなくてごめんなさい。

 でも、レナの子はルールーも支えるの。

 

 レナはルールーがレナの子を好きになったって言ったら笑うかな?

 喜んでくれるかな?


 これからは前を向いて、自分の幸せの為に頑張るね、なの!

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