第51話 精霊の住む森

 森の中はかなり薄暗い。

 元々森は暗いものではあるが、比べ物にならないくらいに暗く感じる。


「・・・魔力が満ちてる?いや・・・これは・・・」


 レイリーがすぐに違和感に気が付き、ブツブツと何かを呟き考え込み始めた。

 流石は魔力に鋭敏なエルフなだけはある。


 その後森の中を歩き回るが、特に変化も無い。

 そのまま半日ほど歩きまわるがやはり同じだ。


「おーい!誰かいないかー!?アタイはクロガネのキョウカだっ!!」


 ある程度歩き進んだ後に、キョウカがそう叫んだ。

 森で叫ぶのは危険な行為ではある。

 だが、背に腹はかけられない。


 ゴウエンが里を強襲してからかなりの時間が経過している筈だ。

 いくら丈夫な種族だとは言え、危険な森の中でずっと過ごすのは厳しい筈だ。


「・・・いないねぇ。」

「ああ。」


 リュリュの呟きに頷く。


 森の中には逃げていないのだろうか?


「・・・ねぇ、やっぱりこの森おかしい。」


 そんな時、レイリーがそう言って俺たちを止める。


「何がおかしいのさ?」

「気が付かない?わたし達何も出会っていない。」

「「!?」」

「?」


 その言葉に俺とキョウカはハッとする。

 リュリュは小首を傾げている。


「それが何かおかしいのぉ?」


 ・・・そうか。

 人魚のリュリュでは気が付かないか。

 海の中に森は無いものな。


「リュリュ、これだけ森の中を歩き回って、昆虫以外の動物を見ていないんだ。一匹もな。そんな事はありえない。」

「あ、そうかぁ!」


 動物は森を構成する為にも必要な存在だ。

 それなのに一匹もいないなんてありえない。

「・・・この森に薄っすらと漂う魔力、これ、多分わたし達は位相をズラされている。」

「位相をズラす?どういう事だ?」


 よくわからない。

 しかし、それはリーリエが教えてくれた。


『つまり、ここは本当の森では無いという事です。魔力で作った・・・いえ、やはりズラすという表現の方が適切でしょうか。しかし、だとすると凄まじい魔力だと思います。警戒をして下さい。』


 なるほどな。

 だとすると、それを引き起こしている何者かがいるってわけか。


「って事は、その誰かに会わないと先に進めないしでられないかもって事ぉ?」

「そうね。そういう事。」

「しっかし、そんな奴どーやってみつけるんだ?めちゃくちゃ広そうだぜここ。」

「・・・ちょっと私に考えがあるの。」


 俺はレイリーの案を聞き驚くのだった。






 




「・・・どうやってここにたどり着いたの?」


 俺たちはあれから歩き続け、森の奥まで進んだ。

 そして今俺たちの前には、15,6歳位の女の子の姿がある。


 緑の髪に、幼気な顔。

 しかし、その子は人間では無い。


 目の前の女の子の足は地面についておらず、俺たちを警戒して見ている。

 そんな中、レイリーが一歩前に出た。


「あなたの魔法濃度が濃くなる方向に進んだのよ。ここ一帯に魔力を伸ばしているのなら、中心にあなたがいるって事だもの。」

「・・・流石は魔力に鋭敏なエルフ、といったところなの。しかしそれでもこれほど薄くした魔力を感じ取るのは普通ではないの。」

「精霊であるあなたにそう言われるのは嬉しいわ。」


 謎の少女と話すレイリー。

 そうか、この少女・・・精霊なのか。

 内包する魔力が凄いな。

 エルフも凄いと思ったが・・・比較にならない。


 そんな俺の驚きは脇に、二人の会話は進んでいく。

 レイリーが出した案、それは・・・


「簡単・・・では無かったわね。私もあなたと同じ様に、魔力を薄めて周囲に放つ為に、魔力を霧状に変化させて伸ばしていき、重く感じる方に進んで来たのよ。」


 【魔力変化】を活用した方法だった。

 魔力を霧状に変化させて、抵抗を感じる方に進む、こんなのレイリーと同じ様に魔力変化を習得している者しか出来ない方法だ。

 

 そして、それを思いつくセンス。

 流石はレイリーだ。


「・・・魔力を霧状に変化?どういう・・・いえ、良いの。それよりも、この森に何用なの?返答次第によってはただではすまさないの。」


 そう言って殺気を放出し、魔力を高める少女。

 かなりの魔力だ!

 ゴウエンより強い!?


 レイリー達もひきつった表情をしている。


 ・・・敵対はできんな。


「いや、俺たちに敵対の意思は無い。ただ、この近くの鬼族が、この森に逃げ込んで迷っていないか確認に来たんだ。」

「そうだぜ!アタイと同じ鬼族を見なかったか!?もしいるなら引き取りたいんだ!」


 俺とキョウカがそう言って前にでる。

 すると、はじめてしっかりと少女と目があった。


 その時、少女の瞳が驚いたように見開かれる。


「あなた・・・ニンゲン?なんでニンゲンがエルフや鬼、人魚と一緒に・・・って、その魔力の色・・・似てるの・・・」


 魔力の色?

 色とはどういう事だ?

 いや、まずは自己紹介だな。


「俺は九十九忍という。この世界の外から来たんだ。で、わけあってここにいるレイリーと同じエルフのアダマス氏族、キョウカと同じ鬼族の者達、そしてリュリュと同じ人魚種の者たちと親交しているんだ。」

「この世界の外・・・・・・と同じ?いや、そんな筈は・・・」


 ブツブツと何かを言っている少女。

 何を言っているのか聞き取れないが、様子を見る限り何かを考え込んでいるようだ。


「・・・あの、」

「あ!?こ、こほん!理由は分かったの。確かに鬼族が数人ここに迷い込んだの。今は魔法で仮死状態にしてあるの。あのまま動き回ったら飢えて死んじゃう所だったから。」

「本当か!?どこにいるんだ!?」


 キョウカが身を乗り出した。

 少女は奥を指差す。


「この先にある泉のほとりなの。」

「行っても良いか!?」

「良いの。あ、でも条件があるの。そこのニンゲン、あなたは少し残るの。聞きたいことがあるの。あなただけになの。」

「・・・別に構わない。キョウカ、レイリー、リュリュ、すまないが確認に行ってくれないか?」


 何かはわからないが、ここは聞いておいた方が良い気がする。


「・・・大丈夫なの?」

「ああ、多分な。」

「シノブン、何かあったら大声出すんだよぉ?」

「分かった。」


 三人が少女が指さした方に進む。

 さて、何を聞きたいのかね。

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