第45話 過去の記憶

「スキル【鬼神の血】発動。」


 ドクンッ!!


 身体が熱くなる。 

 頭に血が昇る!!


 熱い何かが滾る!!


 性器に血が集まるのがわかる。

 息が荒くなって、全てが赤く染まる。


 考えがまとまらない。


 ああ、犯したい・・・殺したい・・・周りには極上の女達がいる。

 

 女たちは必死な表情で鬼の男と戦っているようだ。

 そんな男は放っておいて、俺に抱かせろ!!

 俺のこの血を沈めろ!!!


 貪らせろ!!!


『忍様!!忍様!!!』


 ・・・女の声?

 どこから聞こえる?

 

『忍様!気をしっかりと持って下さい!レイリーもリュリュもキョウカさんも必死に時間を稼いでいます!!』


 ああ、うるせぇな。

 姿が見えない。

 抱けない女に興味は無い。

 

 黙っていろ!!


『忍様!!!』


 うるせぇ!!

 

 俺は近くにいる、俺に背を向けている女に手を伸ばし・・・


『忍さん!いい加減にしなさい!!!』


 そんな怒鳴り声にドキッとして動きが止まる。


『今はそんな時ではありません!!!!あなたを信じて戦っている女性達が頑張っているのですよ!?あなたがそんな事でどうするのです!!それとも、私が愛したあなたはそんなくだらない男だったのですかっ!!!!』


 ・・・俺は・・・俺は女を・・・


『違うでしょう!?あなたはそんな人じゃない!!そんな人なら私はあなたを愛さなかった!!!あなたの元に行こうとしなかった!!!!死してなおこのようにあなたを支えようとしなかった!!!!!』


 ぐっ!?なんだ!?頭痛が・・・俺は・・・この声は・・・


『私の前でそんな格好悪い姿を見せないで!!いつまでも、私が愛する忍さんで居て!!!・・・どうか、みんなを、助けて・・・』


 最後の涙まじりの声を聞き、無性に胸が苦しくなる。






 

 百合さん!!


 





 頭に昇った血が下がるのがわかる。

 それと同時に周囲が白い空間に包まれる。

 

 気がつくと目の前には・・・子供の頃の俺と・・・親父?


『なぁ、忍。俺はな?昔すげぇ荒れてたんだ。』

『荒れるってなに?』

『うん?まぁ、乱暴者って事だな。』

『そうなんだ。』


 これは・・・俺の昔の記憶?


『だがな、初めて母ちゃんと会った時、喧嘩したんだよ。でな?母ちゃんにボロクソにされて負けちまったんだ。』

『え!?そうなの?お父さん強いのに?』

『ああ、お前の母ちゃんは強ええんだぞ?』

『へぇ〜。知らなかったなぁ。』

『まぁ、母ちゃんは隠してるからなぁ。内緒だぞ?』

『うん、内緒だね!』


 ・・・親父が、負けた?

 あの親父が?

 熊を鼻歌交じりに涎を垂らしながら倒すあの親父が?


 今、目の前にいる親父の姿。

 キョウカを超える長身にがっちりとした体格。


 親父の名前である『九十九つくも 岩男いわお』って名前が似合うごつい顔。


 ・・・これが、母さんに負けた?


『俺はそれまで負け知らずだったんだが、そんな俺をボコボコにした母ちゃんに一発で惚れたんだ。で、母ちゃんは旅の途中だったから、ついていかせて欲しいって頼みこんだんだよ。最初は俺みたいな乱暴者はいらないって断られたけど、必死になって拝み倒して許して貰ったんだ。』

『ふ〜ん。』

『でな?そんな母ちゃんと一緒にいたら、俺より強い母ちゃんや旅する仲間の事を守りたくなったんだよ。そしたら不思議と今まで俺の中で暴れていた力を制御できるようになったんだ。』

『せいぎょ?』

『う〜んと、なんつーか・・・言うことを聞かせられるようになったって事だな。そん時、俺は思ったんだ。愛ってすっげぇな!思いやる気持ちってすげぇな!!ってな。』


 ・・・これは・・・


『なんでそれを僕に教えてくれたの?』

『そうだな・・・なんでだろうな。でも、もしお前がどうしても守りたい人を見つけたら、その時はこの話を思いだせ。お前の中にも、多分その力が宿っている。きっとその人を守れる力になると思うぞ?きっとな。』

『・・・そうなんだね。じゃあ、僕頑張るよ。』

『ああ、頑張れ!』


 まさか・・・親父は知ってたのか?

 俺に力がある事を・・・いや、それよりも・・・親父は一体・・・


『あなたー?忍ー?ご飯よー!!』


 この声・・・母さんの声か・・・?

 懐かしい・・・


『お?母ちゃんが呼んでるな!帰るか!!』

『・・・いつも思うけど、お母さんの声って大きいね。僕の家までだいぶ離れてるのにさ。多分、1km位離れてるよね?』

『・・・まぁ、母ちゃんはちょっとズルしてるからな。』


 ・・・何?

 1km離れているのに声が届けられる?

 ・・・どういう事だ?

 

 いや、そもそもなんで俺は忘れていた?


 この二人は・・・いや、それは後だ。

 

 まだ、みんなは戦っている筈だ!


 俺はみんなを守りたい!!

 いや、守ってみせる!!

 スキルなんかに負けてたまるか!!

 こんなんじゃみんなにも・・・百合さんにも顔向けできん!!



 

 そう決意した瞬間、身体の制御が戻った。

 荒ぶる力の根源から溢れる力はそのまま俺の体中を巡っているが、意識ははっきりとしている。



『忍様!キョウカさんが!!このままじゃキョウカさんがっ!!早くっ!早く正気に戻って!!』


 その声で一気に現実に引き戻され、白い空間は消え去る。

 

 視界が晴れると、倒れ伏すレイリーとリュリュを守るように血まみれで立ちふさがるキョウカが見えた。

 キョウカに拳が振り下ろされる。


 キョウカ!今助ける!!


「俺の仲間に・・・これ以上手を出すなっ!!!」


 俺はゴウエンに飛び込みそのまま殴り飛ばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る