第33話 アダマス氏族との交流

「お?これはもしかして・・・」

 

 さらに数日して、湖まで来た俺は、木板を見つけた。

 そこには、光る文字で何かが書かれている。


 以前、レイリーとリュリュが見つけたアダマス氏族の置いたと思われる書き置き。

 あれに対し、レイリーは俺たちに相談し、俺達はその相談内容・・・アダマス氏族への援助に同意した。

 その了承を書いた木板を置いておいたところ、どうやら返答があったようだ。


 残念ながら、この文字は俺には読めない。

 リーリエの話しでは、俺は女神様からある程度の知識を貰っているらしいが、それはあくまでも一般的なもので、この文字はその範囲外らしい。


『これはおそらくエルフ種特有の文字なのでしょう。多分ですが、暗号化されたものでは無いかと思われます。』


 この木板を見せたリーリエの回答がそれだ。

 

 リーリエは、時間をかければこれを解読する事自体は出来るらしい。

 だが、わざわざ頼まなくても、レイリーに見せればすぐに分かる。


 俺はその木板を持ち帰って、狩りから帰って来たレイリーに見せた。






「・・・ふ〜ん、なるほど。」

「レイリー、なんと書いてあるんだ?」


 ふむふむと言った感じで頷いているレイリーに、俺は気になって問いかける。

 するとレイリーは俺とリュリュを見た。


「これを置いたのはおそらく私が木板を置いた翌日よ。どうやら、毎日あの木板を確認に来てたみたい。で、私の書き置きを見た翌日にはこれを置いてたようね。どうやら、かなり困っているみたい。」

「・・・なるほど。なら急いだ方が良さそうだな。」


 俺がそう言うと、レイリーは呆れたように苦笑した。


「・・・こう言っちゃなんだけど、忍ってかなりお人好しよね。普通、あんなに罵倒された相手をそんなに簡単に助けないんじゃない?」


 ふむ、しかしそれはちょっと違うな。


「レイリー、それは違うぞ?俺は利用できそうだから助けるだけだ。残念ながら俺はそこまで甘い男じゃないんだ。」


 なんでもかんでも助けるわけじゃない。

 今回の件は事情があるから助けるだけだ。

 しかし、そんな俺を余所目に、レイリーはリュリュと顔を見合わせ、微笑んだ。

 なんだ?


「シノブ・・・あんたそれで誤魔化してるつもり?」

「そうだよぉ。シノブンは人魚種だって助けてくれたじゃない。今回もレーちゃんが気にするから助けるんでしょう?誤魔化さなくてもいいよぅ。」

『まったく忍様は・・・心にも無い事を言わなくても良いのです。あなた様のしたいようにしてくださればそれで良いのですよ?』

「・・・」


 ・・・むぅ。

 完全にバレている。

 なんでだ?

 だが、認めるわけにはいかん。

 レイリーが気にするからな。


 俺はそう思って無言を貫くが、そんな俺を見て三人はクスクスと笑っている。

 ・・・くそ。

 なんだか照れくさいじゃないか。

 やめてくれ。







 翌日、俺とレイリー、そしてリュリュは湖に朝から来ていた。

 どうも毎日その時間にアダマス氏族の者は湖に来ているらしい。

 あの木板にそう書いてあったそうだ。


 俺たちが湖で釣りをしながら時間を潰していると、気配察知に反応があった。

 

「来たか。」


 俺の言葉に、レイリーとリュリュが反応して、俺が振り返った方向を見る。

 すると、雑草をかき分け、エルフ種が数人姿を見せた。


「・・・レイリー様・・・それとあの時のニンゲン・・・それに、その魔力・・・人魚種か?」


 リュリュに気が付き、驚いた様子を見せるエルフの男。

 しかし、そんな男をレイリーは睨みつけた。


「あんた、これから援助して貰う相手になんでそんなに高圧的なの?ちゃんとシノブやリュリュにも敬意を見せなさい。」


 レイリーの言葉に、エルフ達は顔を見合わせ、その後頭を下げた。


「・・・先日はすまなかった。ニンゲンだからと見下していた。どうか許して欲しい。そちらの人魚種もすまない。」

「「申し訳なかった。」」


 ・・・ふむ。

 どうやら、見せかけだけの謝罪では無いようだ。

 

「まぁ、謝罪は受け取った。それと、ここにいるリュリュも対等に扱ってくれ。大事な仲間なんだ。」

「・・・わかった。それと、あのような恥知らずな真似をした我々と交渉してくれて感謝する。」

「・・・困った時は、お互い様だ。・・・レイリー?交渉は任せるよ。できるだけの事はしてあげて欲しい。」


 俺がそう言うと、レイリーは困ったように苦笑した。


「・・・ホントお人好しなんだから。まぁ、良いわ。で、あんた達、今どうしているの?」

「レイリー様、実は・・・」


 エルフ達の話を聞く。

 

 どうやら、かなり状況は悪いようだ。

 聞いているレイリーの表情も暗くなっていく。


「そんなに酷いなんて・・・まったく、叔父様も威張り散らしているだけじゃなくてしっかりと計画をたてなさいよ・・・ま、今更か。」


 どうやら、あのレイリーの叔父は、自分たちだけ備蓄を好きに扱い、ほとんど残していなかったようだ。

 まったく、呆れてしまうな。


「シノブ?どうしよう?」

「そうだな・・・まず、住む所はなんとかなっているのか?」

「・・・今は、樹の下で雨露を凌いでいる状況だ。正直、なんとかなっているとは言い切れない。」


 あの魔狼のせいか。

 

「リーリエ。」

『はい、忍様。』

「この辺りでエルフが住むとしたらどうするのが1番良い?」

『そうですね・・・では、この湖のほとりに村を作るのはいかがでしょうか?ここなら水には困りませんし、エルフの一般的な家であるツリーハウスも建てやすい樹が生えています。それに、なんと言っても忍様やレイリー、リュリュと言った強者が少し離れた所にいますので、万が一があった場合でも助けに来やすいですから。』


 なるほど。

 今の俺たちなら、ここまでは全速力なら半刻くらいで来れるからな。

 大きな魔法を空に撃ってもらえばわかるかもしれないし。


『物資の搬送も問題無いでしょう。』


 ふむ・・・


「レイリー、君はどう思う?」

「そうね・・・あんた達、ここに住むって事は、シノブやリュリュに助けて貰うって事よ?その意味、分かってるわね?」

「・・・はい、これからは敬意を持って応対させていただきます。そして、それを氏族の者には徹底させます。」

「・・・絶対よ?・・・シノブ、リュリュ、お願い、アダマス氏族を助けてあげて。」


 そう言って俺達に頭を下げるレイリー。

 俺はそんなレイリーの頭をポンと撫で、顔を上げさせる。


「何を言ってるんだ。仲間だろう?」

「そうよぉレーちゃん。」

「シノブ・・・リュリュ・・・ありがと・・・」

『レイリー、私もステータスの身ではありますが、尽力しますよ。』

「リーリエ・・・ありがとね。」


 こうして、俺たちはアダマス氏族を助ける事になった。


 翌日に残りの氏族全員との顔合わせ。

 そしてすぐに住居の制作に入った。


 ここにいるエルフ種は、レイリーを除いて30人位だ。

 男が20人前後で女が10人程度のようだ。


 まだ、俺やリュリュを見る視線に戸惑いや、中には嘲りがある者がいるが、それも、


「いい加減にしなさい!シノブもリュリュもあんた達よりずっと強いのよ!それに助けて貰っておいてそんな態度を取るな!!」


 という、レイリーの言葉に段々と無くなっていった。

 実際、エルフの戦士は俺を怖がっているような態度を見せていたのもそれを無くす要因になったのだろうな。


 住居は5日程で全員が住める程になった。

 俺は主に建設を手伝い、レイリーは狩りをして肉を、リュリュは湖から魚を入手していた。


 作業が終わる頃には、俺やリュリュもエルフ達と打ち解け、感謝されるぐらいにはなっていた。


 今後は、エルフの女性達には、俺のアイテムボックスから提供する海水からの塩作成や、簡単な調味料を作って貰い、男は狩りをする者と、俺の家までの道を整地をする者で別れて貰う予定だ。


 俺の家までの道が完全に整地されれば、俺達が助けに来るのも更に短縮されるだろう。


 それ以降についてはまた考えるとするか。

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