第23話 なんか違う人魚

「ふぇぇぇん、水着が剥がされましたぁ〜。この後、エッチな事されちゃうんですねぇ。あんまり痛くしないでくださぁい。初めてなのでぇ。」


 俺の前でそう言って涙目で見上げる美少女・・・下半身は魚だが。

 こうして改めて見ると、本当に美少女だと思う。

 レイリーにも全然負けていない。

 それどころか、一部は勝っている。

 圧倒的に勝っている。

 というか、勝負にすらなっていない。


 しかし、それどころでは無い。


「シノブ・・・?そうなの・・・?ワザとなの・・・?私には見向きもしないくせに・・・?やっぱりおっぱいが大事?ねぇ?おっぱいなの?」

『忍様・・・なんて事・・・レイリーが中途半端に誘惑したせい・・・?それとも私がまだ顕現してないから?・・・まさか、若返った事で溢れ出る性欲が・・・どうしましょう・・・このままでは忍様が性欲モンスターに・・・あの文献にあった、忌まわしきヤリチンとかいう生き物に・・・』


 ブツブツと呟く二人の声。

 何を言っているかよく聞こえないが、背筋に冷たいモノが走る。


 リーリエはわからないが、レイリーは目に影が出来ている。

 おそらく、リーリエにも目があったら同じ状態だろう。

 極めて危険だ。

 ここで判断を間違えたら、なんだか不味い事になりそうな気がする。

 主に俺が。

 というか、何故二人はそんな状態になっているのか。


「ち、違うぞ。そんな事は無い!すまない!水をアイテムボックスに入れていたんだ!断じて、君が目的だったわけではないんだ!」


 ちらりとレイリーを見る。


 よし!

 レイリーの目の影がとれた!

 これなら・・・


「ええ〜?でぇもぉ〜、ママが男の人に釣られたらちゃんと性的に食べられて来なさいって言ってたしぃ。人魚はそうやって子孫を増やすんだってぇ。」


 ぐっ!?

 なんて生き物だ!!

 

 あ、駄目だ!

 レイリーの目の影が戻った!


 リーリエはどうやってるのか、ステータスの窓をプルプル震わせている!

 爆発まで秒読みだろう。

 何か無いか・・・何か!!


「と、取り敢えず、下着を返そう。え〜っと・・・こ、これか!ほら、これだろ?本当にすまない!俺にそんな気は一切無いんだ!すまん!!」


 俺がアイテムボックスから取り出した桃色の胸当てをじ〜っと見ている人魚。

 頭を下げているが、視線が俺に集中している事が分かる。


「じゃあ、取り敢えず返して貰うね〜?でも、どうしましょ?ウチ、このままじゃ帰れないんだよねぇ。」


 手から胸当てが無くなるのが分かったが、その後の言葉で固まる。

 どういう意味だ?


「あのね〜?人魚種の掟でぇ、釣られたのが男の人だったら、ちゃんと交尾しないと帰っちゃ駄目なのよぅ。」


 ぐっ!?

 なんて掟だ!!


 一歩ずつレイリーが俺に近づいているのが分かる。

 見なくても分かってしまう!!

 だってなんだか殺気出してるし!


 リーリエもそれに合わせて近づいて来ている!

 不味い!!


「そ、それなら黙って居れば分からないんじゃ・・・」

「・・・?嘘は良くないよ?」


 そうだが!!

 それはそうなんだが!!

 いかん、凄く良い子だこの子。

 どうしたら・・・


「な、なら、取り敢えず家に来て話をするか?あ、だが、俺の家はここから更に登った所にあるからその尾じゃ無理だな!今回は縁が無かったって事で!ははは!」

「あ、大丈夫だよぅ。こうすれば・・・と。じゃ、お邪魔するねぇ?」


 目の前でポンッと音を立てて、人魚は尾を人の足に変化させた。


 ・・・嘘だろ?

 というか、


「服着て無いじゃないか!!」


 俺は慌てて目を閉じる。

 モロに見てしまった!!

 

「?そりゃ無いよ?」

「抱えて行くから戻してくれ!!」

「そうなの?わかった〜。」


 ふう、焦っ・・・

 ガシッ!!


 後ろから肩が掴まれる。

 レイリーだ。


 だらだらと汗が流れる。

 なぜ、こんなに恐怖を味わっているのか俺は・・・


 視界には、目に影がある真顔のレイリーと、窓が視界一杯になった重苦しい雰囲気のリーリエが。


「・・・シノブ、帰ったらお話しよ?いっぱいお話しよ?」

『忍様・・・家に連れ込む事への納得の行くご説明は頂けるのですよね?私は1時間でも2時間でも一日でもお話出来ますから。ちゃんと納得させて下さいね?大丈夫です。納得行くまで、何週間でも、何ヶ月でも、何年でも向き合いますから。寝ずに、食事も取らず、ず〜っと。納得するまで・・・』


 ああ・・・終わった・・・


「行こ〜?」


 間延びした人魚の声を聞きながら、俺は肩を落として、人魚を抱えたまま自宅へ歩き始めるのだった。

 二人からの視線を背中に感じながら。


 ・・・本当に、どうしたものか・・・

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