第26話 フォートナイトやるぞ!

 いつもの夕食後のティータイム。黒乃はウバ茶を飲みながらグダグダしていた。

 夕食はブラジルのフェイジョアーダという黒豆と肉を煮込んだ料理で、黒乃はその中にニンニクが入っているのに気がついた。


「メル子〜。これニンニクが入ってたでしょ?」

「はい。すりおろして入れましたが。臭かったですか?」

「いや丁度良かったんだけど、ニンニクで思い出しちゃってさ」


 黒乃は不満な表情を浮かべ語り出した。

 どうやら昨日ラーメンロボ二郎でニンニクを大量に食べて翌日出社したところ、オフィス中にニンニクの匂いが充満する事になってしまったというのだ。それを同僚達に笑われながらからかわれてしまったらしい。


「後輩の桃ノ木もものきさんなんて何回も私の所にきて臭い臭いってさ。じゃあ来るなってのー」


「てかなんでメル子は臭くないのよ? おかしくない?」

「まあ脱臭機能がついていますので」

「マジで!? すげえ!」

「私の口から出る脱臭イオンを直接黒乃様の口の中に送り込めば三分で脱臭できますよ」

「なんでそれ昨日してくれなかったの!?」


 メル子はモジモジしながら黒乃を見た。


「三分は長すぎですよ……」

「口に直接送り込むってベロチューのことかい!」

「いやベロチューじゃなくても……」

「こっちはいつでも準備万端だっつの!」


 黒乃は床にドカッと寝転んだ。


「こういう時はゲームやろ。ゲーム」

「またですか。好きですねぇ」

「よし。じゃあ今日やるゲームはこれだ!」


 『フォートナイト』!!

 2017年にEpic Gamesがサービスを開始したマルチプラットフォームのオンラインゲーム。銃を持って戦うガンシューティングアクションゲームである。様々なゲームモードがあり、その中でも百人で戦うバトルロイヤルモードは社会現象にもなった。


「もちろん遊ぶモードはバトルロイヤルね」

「トリオでやるんですか?」

「そうそう、折角だから三人チームでやろうよ。私とメル子は別のチームだけど」

「わかりました。人いますかね?」

「どうかな。あ、そうそう遊ぶのはチャプター2のシーズン4ね。このシーズンが一番好きだから」


 フォートナイトはシーズン毎の大規模バージョンアップによってゲーム環境がガラリと変わるのが特徴だ。ネットワーク上にはシーズン毎にクライアントとサーバがパッケージされてアーカイブされているので、プレイヤーは好きなシーズンを選んで遊ぶことができる。

 今回黒乃が選んだのは『ネクサス・ウォー』というマーベルがテーマのシーズンである。アイアンマンやウルヴァリンなどのお馴染みのキャラが多数登場するお祭り感あるシーズンである。


「さあ始めるぞ。スタート!」


 二人は同時にマッチングを開始した。数十秒後画面が切り替わり、空中戦艦の上に出現した。


「お! やった。トリオ組めたぜ」

「私の方もトリオ組めました。アインシュ太郎さん、シャーロッ九郎さんよろしくお願いします」

「またそいつらいるの!? なんで!?」

「なんでってロボットだってゲームくらいやるでしょう」

「そんな都合よくマッチングするかい! ゲーム以外やる事無いのかこのロボットども!」

「我々も同じようなものでしょうに」


 黒乃のチームメイトはロバート・ダウ任三郎とヒュー・ジャック万次郎である。


「なんかこいつらもロボットくせー……」

「気にしすぎですよ! さあ始まりますよ」


 再び画面が切り替わり、二人は空中を飛ぶバトルバスの中にいた。このバスにはプレイヤーが百人乗っており、それぞれが好きなタイミングで飛び降りる事ができる。

 トリオモードでは百人の中で味方はチームの三人だけ、残りの97人は全員敵である。そして戦いはその97人が全員倒されるまで続くのだ。これがバトルロイヤルと呼ばれる所以である。


「いくぞ野朗ども! もちろん降下場所は『スターク・インダストリーズ』だ!」


 黒乃のチームが飛び降りたのはスターク・インダストリーズというアイアンマンがいるエリアである。このシーズンで最も人気がある場所であり、他のプレイヤー達が集まりやすい激戦区でもある。


「ご主人様はアイアンマン狙いですか。じゃあ私たちは……」


 続いてメル子のチームもバスから飛び降りた。


「ほほう、『ドゥーム・ドメイン』に降りるのか。そんな場所大して強い武器もあるまいに」


 メル子たちが降下したドゥーム・ドメインはドクター・ドゥームがいるエリアだ。


「うおおお! やばい! ライバル達がめちゃめちゃ多いぞ!」

「ご主人様、私達と戦う前に全滅しないでくださいよ」


 黒乃が降りたスターク・インダストリーズには十チーム集まってきているようだ。ここを勝ち抜くのは至難の技である。それに対してメル子が選んだドゥーム・ドメインに降下したのは二チームのみ。


「よし! 早速宝箱開けたぞ! うわあああ! 後ろにいた奴にショットガン取られた!」


 武器を奪われて丸腰状態の黒乃は窓から飛び降りて逃げた。素早く別の階に移動し隠れる。


「ロバート・ダウ任三郎たすけて! 武器ないから、一本分けて! 早く! ヒュー・ジャック万次郎はどこにおんねん! 一人でアイテム漁ってないではよ助けにこんかい! ロバート・ダウ任三郎、ピストルはいらないんだよ、そのポンプショットガンくれよ!」

「うるさいですね」


 ロバート・ダウ任三郎の活躍で黒乃は体勢を立て直し数チーム倒す事に成功したようだ。


「ハァハァ、ロバート・ダウ任三郎中々やるな。褒めてつかわす。それに比べてヒュー・ジャック万次郎は何やっとんじゃ。アイテム漁りはもういいから合流しろや!」


 激戦の末、黒乃チームはほぼ全てのライバル達を排除する事に成功した。しかしこれで終わりではない。スターク・インダストリーズにはボスであるアイアンマンがいるのだ。


「よしよし、さあいよいよアイアンマン倒すぞ。こいつ倒すとクソ強武器もらえるからな。いくぞ! ヒュー・ジャック万次郎ははよこっち来て!」


 黒乃が気を取られている隙にアイアンマンに気付かれてしまったようだ。アイアンマンは必殺技であるユニビームを撃ち込んできた。黒乃はそれをくらい一瞬でダウン状態になってしまった。


「ギャー! やられた! ロバート・ダウ任三郎助けて! アイアンマンはいいから私を先に復活させて! おい! 戦ってないでこっち助けて! あ、アイアンマン倒したのか、ナイス任三郎。よくやった。それに比べて万次郎はどこ!?」


 アイアンマンを倒したことで必殺技であるユニビームとリパルサーを手に入れた。どちらも無限に使える武器であり非常に強力だ。


「私達もドクター・ドゥーム倒してミスティカルボム手に入れましたよ」

「あ、そう。良かったね。もうすげー疲れた」

「あ、ストームが収縮しますね。皆さんスターク・インダストリーズに向かいましょう」


 ストームとはマップの外側から迫ってくるダメージゾーンで、その中に長時間いると死んでしまう。ストームは時間の経過と共にどんどんと収縮してくるので、プレイヤーは常にストームから逃げるようにして移動しなくてはならない。

 つまり必然的に全プレイヤーは最終的に一ヶ所に集まるような仕掛けになっているのだ。

 今回はスターク・インダストリーズ付近が最終的な収縮地点になりそうだ。


「お前ら、他のチームがここに登ってくるから建築でヤグラ作って迎え撃つぞ」


 建築とはフォートナイトにおける最大の特徴で、瞬時に建築物をその場に作り出す機能の事である。壁、床、階段、屋根の四種類のパーツを組み合わせて要塞を作り、敵の攻撃から身を隠しつつ、高所から一方的に銃撃を加える事もできる。

 この建築をいかにうまく使うかが勝負の分かれ目になる。


 黒乃達はスターク・インダストリーズの屋上に建築で要塞を作り周囲のチームを次々と倒していた。残りは数チームだ。


「よしよし、いいぞ。ロバート・ダウ任三郎はアサルトライフルのエイムがいいな。ヒュー・ジャック万次郎はお前なんで湖で泳いでるの!? 釣りしてる? 何やってんだよ!」


 そうこうしているうちに再びストームの収縮が始まった。黒乃がいる位置はストームに飲み込まれてしまうようだ。移動しなくてはならない。


「ストームの安全地帯はそこの山の上か。あそこまで登らないと……既に別のチームが要塞作ってる!?」

「ふふふ、読みは当たったようですね。先に来て山の上をとらせてもらいました」

「やられた! 一番いい場所取られた!」

 

 フォートナイトは高所から攻撃するのが圧倒的に有利であり、その高低差を覆すのは容易ではない。


「ふん、だが甘く見るなよ。こっちにはアイアンマンのユニビームがあるんだぜ。喰らえ!」

 

 黒乃の胸からビームが発射された。ビームはメル子がいる建築を貫通しダメージを与えた。


「痛い! ビームが建築を貫通してきました。やりますね」

 

 ロバート・ダウ任三郎もアサルトライフルでメル子達を攻撃しながら山を登っていく。とうとうメル子達のすぐ下まで到達しそこに建築で要塞を作り立て篭もる事に成功した。


「どうじゃあ! ここから上を取って逆転してやる」

「そうはさせません。それっ! ミスティカルボム!」


 メル子は火の玉を頭上に掲げて投げつけた。ドクター・ドゥームの必殺技ミスティカルボムである。


「ぷぷぷー、建築がちょっと壊れただけだよん。ん?」


 建築がメラメラと炎上している。ミスティカルボムには建築物を燃やす効果があるのだ。


「アチチチ! ちくしょう! おらユニビーム!」

「ああ! アインシュ太郎さーん!」


 黒乃のユニビームでダウンしたところをすかさずロバート・ダウ任三郎がアサルトライフルでトドメを刺した。

 ロバート・ダウ任三郎はその隙を逃さず素早く階段を作りながらメル子の元へと駆け上った。メル子を守るためにシャーロッ九郎がその間に立ち塞がり迎え撃つ。

 二人のポンプショットガンが同時に発射されお互いに命中した。


「シャーロッ九郎さーん!」

「うおおお! 相打ちか。ロバート・ダウ任三郎よくやった。仇は取ってやるぞ!」


 黒乃も階段を駆け上がりメル子に近づこうとする。


「そうはさせません。必殺ミスティカルボムです」


 メル子は巨大な火球を頭上に掲げ投げる準備をした。


「ふはははは! そんな技動作が大きすぎて簡単に壁で防げるわ!」


 黒乃もすかさず壁を作り防御体勢に入った。その壁にミスティカルボムが炸裂する。


「どうだ、ノーダメだぜ! あれ?」


 黒乃が壁でミスティカルボムを防いだと思った次の瞬間、黒乃は宙高く吹き飛ばされていた。そのまま崖の下まで飛んで落下死となった。


「なにこれ!? どういう事!?」

「ミスティカルボムは直撃しなくても周囲にいるだけで吹き飛ばされるという特殊効果があるのです!」

「嘘だろ! インチキだこれ!」


 しかしまだ戦いは終わっていない。


「あれ? 試合が終わらないぞ? まだ誰か生きてる?」


 そこに颯爽と現れたのはなんとヒュー・ジャック万次郎だった。彼の手にはアダマンチウムの爪が光り輝いている。


「ヒュー・ジャック万次郎! お前ウルヴァリンを倒して爪を取りにいってたのか!」


 ヒュー・ジャック万次郎は素早い動きで崖を登っていく。


「いけー! その爪でメル子を切り刻めー! ああ、ああ……普通にアサルトライフルで撃たれて死んだわ」

「やりました! ビクトリーロイヤルです!」

「万次郎貴様ー! この役立たず! ボケ! カスゥ!」


 黒乃は衝撃のあまり床に転がったまま動けないようだ。


「アインシュ太郎さん、シャーロッ九郎さん。お疲れ様でした」

「あれ? 画面になんかメッセージが表示されてる。なになに……お客様のアカウントは暴言による通報を受け一週間の停止処分とさせていただきます。なんだよこれ!」

「あらら」



「いやー楽しかったですね、ご主人様」

「クソゲー……」

「え?」

「こんなんクソゲーだわ!」

「いや神ゲーですよ。ほらいつものいきましょうよ」


 黒乃はぷるぷる震えながら両手両膝を床につけた。


「メル子さん」


「この度は調子こいてしまって」


「本当に申し訳ございませんでした!(ございませんでした)」


 ぺこぉ〜

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