第28話 兄上! ちょっと邪魔です(2回目)

「ウハウハウハ~我は邪神の13番目のしもべ魔人ラージラスなり! ようやくこの忌々しい封印の壺から出られたぞ! さ~て矮小な存在ども! 我の最初の食事となる栄誉を与えてくれるわ」


『ゴブリン! なに魔人復活させてんのよ!』

「変態! 余計なことしかできないの!」


 ソクア兄上が魔人を復活させてしまったようだ。女性陣から非難の声が飛びまくる。ちょっと可哀そうだ…

 カラスの巣全面に広がった緑の煙がじょじょに消えていく。


「ひぃいいいい、魔人??? そんな奴に勝てるわけがないよぅぅううう~マキアスお前が悪いんだ! お前が俺様の足元に壺を置くからこなんことになったんだ~」


 兄上は意味不明な事を叫びながら、ここ一番であろう速度で僕らの後ろに滑り込んだ。


「リーナ! はやくこっちへ!」


 僕はリーナを素早く抱きかかえて、いったん後方へさがる。


「兄上とともに後ろで身を隠していて!」


「マキアスはどうするの! まさか魔人と戦うつもり! いくらあなたでも無茶よ!」


「そうかもしれない…でもここで僕らが逃げたら魔人はこの島を出て、たくさんの人が犠牲になるよ」


「ま、マキアス…」


 緑の煙がどんどん晴れていく…魔人がその姿をあらわした。見た目は小さな小鬼のようだがものすごい存在感だ、質量が圧倒的に違う、これは強敵だ…


「ウハウハ~安心しろ~全員仲良く平らげてやるからな~。ん? クンクン、おまえ~な~んかいやな匂いがまじってるなぁ~。まずは女から頂くかな~」


 魔人は僕を指さして、なにやら臭いものを見る目で一瞥したあとにリーナの方をむいて舌なめずりをしている。

 リーナはなんとしても守りきらないと。僕は精神を集中しはじめる。と兄上の声が飛んできた。


「なんだ! このちっこいやつは!? これが魔人だと!?」


 ソクア兄上の声がうしろから飛んでくる、それはもう活き活きと元気いっぱいに。


「『………』」


 女性陣2人(うち1人スキルプレート)は沈黙している。


「リリローナ姫! ご安心ください! 先ほどはマキアスの邪魔が入りカラスごときにおくれを取りましたがもう大丈夫です!」


「ちょっと地味に近寄らないでよ」


 微妙なポージングを取りながら近づいてくるソクアに対して、警戒しながら距離をとるリーナ。


「うむ、そうですな! 姫にはつらいでしょうが、いったん私からはお離れください!―――――― スーパー剣聖モード!!!」


 ソクア兄上は魔人の前に立ちふさがり、剣を高々と頭上に掲げる。


「兄上のスーパー剣聖モードって? エレニア?」


『そんなものはないですね。本人が勝手にほざいているだけです』


「ひゃっは―――くたばれチビ魔人―――!!」


 ソクア兄上の【剣聖】スキルが発動した光の剣が、魔人の腕から胸にかけて振り下ろされる。


 ―――が、


「はれ?」


 魔人は真っ二つになるどころか、ソクア兄上の剣に右ストレートのパンチを放っていた。


「きぃいいいやぁああ~、俺様の剣が!!!」


 ソクア兄上の剣はぐにゃりと曲がっていた。


「ウハウハウハ~そんななまくら剣が我の拳にかなうわけがなかろが~それお返しだ―――!」


 魔人がストレートパンチを連打する。

 ソクア兄上、なんとも形容しがたいポーズで逃げる逃げる逃げる。


「ほほう、逃げ足だけはなかなかのもんじゃのう」


「ひぃぃぃいいいいい!  くるなっ! この~【剣聖】【剣聖】【剣聖】【剣聖】【剣聖】!!」


「あ、あれがスーパー剣聖モード…」


『スキルの使い方ダッサ…なにあれ。マキアス様、あれはただ【剣聖】のスキルを無駄に連発しているだけです。ん~、魔人はたいてい光が弱点ではあるはずなんですが…【剣聖】スキルの使い手がしょぼすぎて光の斬撃もほとんど効果ないようですね』


 なんだかスキルプレートに随分な言われようの兄上だが、光かぁ! もしかしてあれが試せるかもしれない! 

 僕は山頂から晴天の空を見上げて、剣を掲げた。


「エレニア! 【太陽光創成】! 目標を一点に集中!」



 □-------------------------------


【万物創成コード】


「太陽光創成」


 ☆空から光が降ってくる

 ・天候状態が晴天の場合発動可能

 ・複数の目標捕捉が可能(使用者のレベルによる)


 □-------------------------------


 上空から一筋の光の束が地上めがけて落ちてくる、ただし今回はその光は僕に集中して降り注ぐ。


『マキアス様! これ…もしかして…』


 僕が頭上高くかかげる剣に大量の太陽光が収束されていく。

 やばい…すごい力だ…


 光を帯びた剣を構えた僕は、強い踏み込みとともに魔人のまえにでる。



「――――――兄上! ちょっと邪魔です!」



 僕は魔人ラージラスにむけて、光の剣を振るう。

 太陽光創成のエネルギーが濃縮された剣は魔人の体を一刀両断した。


「グハッ…なんちゅう質量の斬撃じゃ…そ、そうか。おまえの体の臭い…あいつらの…しもべか…ウハ」


 そう言い残すと、魔人の体は緑色の煙となって跡形もなく消滅していった。


「ふう…なんとかなった、半分ぐらいしか太陽光創成のエネルギーを付与できなかったけど」


『ま、マキアス様…何言ってるんですか…凄すぎます…太陽光を剣に付与するなんて…』


「マキアス! 凄いわ! 光の騎士みたい!」


「は、はわわわわ~お、おまえそれなんだよ~」


 3人いっぺんに話さないでほしい。とにかくリーナを守りきることができて良かった。


 そしてそのリーナがばい~んと抱き着いてきて、エレニアがなんかわめいて。いつも通り? なことが繰り広げられる。


「う、ウソダァ…おまえがおまえがおまがえが~俺様の【剣聖】より、優れているはずがないんだぁあああああああああああ…」


「兄上…」


 地べたにうずくまっているソクア兄上に歩み寄り、僕は手を差し伸べようとした。


「ひ、ひぃいいいい、よ、寄るなぁあああああああああああ」


 ソクア兄上は飛び起きると同時に猛烈な勢いで僕から距離をとる。


「あ!」


 距離を取りすぎて、山頂の巣から落ちてしまった。


「あ、兄上~!」


「ひ、ひいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ………」


 兄上はそのまま海に落ちて、奇声を発して全速力で泳ぎながら遠ざかっていった。


『あれは魚ですか? 山頂から落ちても死なないなんて、さすが変態剣聖ゴブリン…』


「エレニア…何度も言うけど魚でもゴブリンではなく兄上だよ…さあとにかく船に戻ろう。王都へ急がないとね」


 帰り道はリーナが抱き着いてきて困った。まあ怖い思いをさせてしまったので、できる限り好きにはさせてあげたいが、僕の鼻血が予想以上に早く出そうになったので、早々に抱き着きタイムは終了となった。


 ちなみに、山頂から帰ってきた僕らを迎えてくれたのはお馴染み「英雄マキアス!」のマキアスコールだった。魔物討伐にくわえて魔人討伐までしたとのことで、みんなのテンションが凄まじかった。乗船してからも鳴りやまぬマキアスコール。


 やばいちょっと慣れてきそうで怖い…

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