第27話 兄上! ちょっと邪魔です
「これがリバークロウの巣かな?」
僕らはリバークロウに連れ去られたリーナを追って巣のある無人島にきていた。【風力創成】で体を浮かしてなんとか山頂の巣にたどり着いたところである。途中でガンガン山の側面に体当たりしてしまったが。
「いててて」
『マキアス様、こんな山頂まで体を飛ばすなんて無茶しすぎですよ』
スキルプレートのエレニアが体をさすっている僕を心配して話しかけてくる。まだまだ修行が足りないな。
「でも、今はそんなこと言ってられないしね」
『そうですね。あんな巨乳でもいなくなると寂しいですからね』
エレニアはリーナと口げんかをよくするが、間違いなくその身を心配していることがわかる。まあ仲がいいのは知っていたけど。
リバークロウの巣は円形の大きなお皿が複数重なっているように出来ており、さながら鳥の巣の砦みたいな作りになっている。
騎士の鎧やら何かの壺やら多種多様な物が氾濫している。おそらく様々な場所から持ってきたものなのだろう。
「よっと。ここが、一番上の階層かな?」
僕は巣の最上階らしきところに上がって周りを見回した。
人影が2つ見える。
「り、リーナ! ん? え? あ、兄上…?」
そこにはなぜかべちょべちょのソクア兄上と、自分の周りにライトシールドを展開しているリーナがいた。
「え? どういう状況??」
僕は思わず困惑の声がもれてしまった。
『マキアスさま! リーナが魔物迫られてる!』
「いや、エレニア僕の兄だよ…」
『え!? ゴブリンじゃなくて? 人間ですか?』
「う、うん兄上だよ…」
服ボロボロのべちょべちょ状態でよだれを垂らしている理由はまったくわからないが、兄のソクアであることに間違いはない。
「マキアス! 来てくれたのね! ありがとう!」
リーナこちらに向かってブンブンと手を振っている。良かった、とにかく無事のようだ。
「なるほど、リーナはリバークロウから身を守るためにライトシールドを展開しているんだね」
「違うわ、マキアス。 この変態から身を守るためよ!」
「え?」
リーナに変態と指さされたソクア兄上は、中腰でくんくんくんとリーナのライトシールドの匂いを嗅いでいる…
「あ、兄上…」
『うわぁ…きもい…生理的にむり…』
エレニアさんがドン引きしている…兄上なにやってるの…
「む! お、おまえは! マキアスか! いつのまに!」
さっきからいましたよ僕。
どんだけ匂いかぐのに集中してたんだ兄上…
「まさか俺様のリリローナにキモいことしようと来たのか!」
「あ、兄上…」
「誰があんたのリリローナよ! この、ド変態!」
僕が言葉を発する前に、リーナのタイキックがソクア兄上の顔面に炸裂した。
「うびゅっきゃっ」
『うわ…蹴られる時の声もきもい…』
「ああ、マキアス来てくれたのね。ありがとう。怖かったわ」
王女らしからぬ、しなるように鋭い一撃を放ったリーナは、一転して満面の笑みで僕にむかってダイブしてきた。
「ちょ、リーナくっ苦しい、そんなに締め付けたら…」
不安だったろうから僕も思わず抱きしめてしまったが、こんなに激しい密着はまずい!
「もうちょっとぎゅっとしてくれないと、あの変態にけがされた心を清められない…」
無理です、これ以上は僕の色々がおかしなことになる…
僕が限界をむかえる前に、怒りに声を震わせた声がとんできた。
「ま、マキアス!! き、きさぁま~~! 俺様のリリローナになにしてやがんだ! 姫の弱みでも握っているのか! は!? そうかあの外れスキルは「魅了」や「催眠」の邪なスキルだったんだな! 姫! このソクアがいますぐその変態からお救いします!」
いつの間にかリーナのタイキックから復活したソクアは、彼女に向かってカエルのように飛びつこうとする。
『うわぁ…飛び方もきもい…』
飛び込んだ来たソクア兄上に、今度はリーナのかかと落としが炸裂した。王女って足技の訓練とか受けるものなのだろうか。
ソクア兄上が頭をかかえて悶えていると、上空に大きな黒い影が現れた。
「ケァ~ケァ~!」
「ひぃいい、化けガラスもどって来やがった! で、でも、リリローナの足の匂い~たまらんかった~うへへ」
「『キモい…』」
王女とスキルプレートから再度キモい判定を受けたソクアを横目に、僕は抜刀して構える。
「エレニア! ここでリバークロウを仕留めるぞ!」
『はい、マキアス様! いつでもいけますよ~』
「おぉぉぉぉおい! マキアス! あ、ああのカラスはぁ! お、おおおお俺様が退治する! て、ててて、手をだすなよぉぉぉ!」
『あのゴブリンは下半身をブルブルさせてなにを言っているのですか?』
「いや、兄上も勇気を振り絞って強敵に立ち向かおうとしているんだ。あとエレニア…ゴブリンではなく人間だ…」
『たんにリーナの前で、いいかっこしようとしているだけな気がしますが…』
僕は剣を構えて、精神を統一しはじめた。
「ケァ~ケァ~!」
リバークロウはその大きく鋭いくちばしを僕らにむけて落としてきた。
「ふひぃ! け、【剣聖】っ!」
ソクア兄上がスキル【剣聖】を発動して剣をふるう。
「ケァ~ケァ~ケァ~!」
「ひ、ひぃいいいい! 来るなぁ! 【剣聖】!【剣聖】!【剣聖】!」
兄上は光の斬撃をリバークロウに打ち込みまくるも、いっこうにリバークロウの攻撃の勢いは衰えない。
リバークロウは僕から受けたはずの斬撃跡が全くなく完全に回復している。兄上の光の斬撃も受ける傍から再生をはじめている。
ということは―――魔物の心臓である核を一撃で破壊するしかない。それ以外は驚異的な再生能力で復元してしまうだろう。ぼくは【風力創成】を発動して一気に前に出た。
「――――――兄上! ちょっと邪魔です!」
兄上の前に出た僕は、彼が放つ【剣聖】光の斬撃を高速で回避しつつ、リバークロウの正面に一気に間合いをつめる。
「一刀速断――――――!」
【風力創成】で高速になった体と僕の最速の剣技である「一刀速断」のあわせ技だ。これをリバークロウの核に全力で叩き込んだ。
僕の一撃により、腹部に鋭い溝が刻まれる。
腹部の奥で心臓である核が完全に真っ二つになっていた。
「ケェェェ………」
リバークロウの巨体はゆっくりと地面に崩れ落ちていき、ピクリとも動かなくなった。
「ふう…」
僕は呼吸を整えて、剣を鞘に戻す。なんとか倒せたようだ。
「はははは…、俺様の【剣聖】の光の斬撃より速いだと…ありぇねぇ…う、ウソだ…」
『こら、ゴブリン。なにふざけたこと言ってんの? これがマキアス様の実力なの。【万物創成コード】とマキアス様の剣技よ。わかった?』
「だ、だれがゴブリンだ! あのハズレスキルのマキアスが…そんなわけあるか…俺は【剣聖】のスキルだぞ…」
「ソクア! いい加減にしなさい! あなたもマキアスの実力をみたでしょ!」
いつの間にか、リーナがソクアの前に立ってその美しい青い瞳がすっと相手を射貫くように差し向けられている。あ、これ久しぶりにみる王女モードだ。
「王女に対する数々の無礼、恥を知りなさい! あなたは自領に戻って謹慎していなさい! おって王国から処罰を言い渡します!」
「ひぃいいい…そ、そんな…ち、違うんですリリローナ姫!」
「何が違うのかしら?」
「そ、その! マキアスのスキルは【幻影】かなにかで幻をみせているんです! そこのカラスの魔物を飼いならして俺様をはめたんです! そうでなければ俺様のスーパースキル【剣聖】がマキアスごときに後れを取るはずがありません!」
「何を言っているの? まったく理解できないわ」
「そ、そうか! そうだったんだ!」
「ちょっと、人の話を聞きなさい」
「姫! リリローナ姫もマキアスに脅されていたのですね! そうか! そうだったんだ! 気づくのが遅れてしまいましたがご安心ください! 私ソクアが姫をしっかりと抱きしめて我が領内までお連れ致します!」
「あなたさっきから何を言って…きゃっ、近寄らないで!」
―――バリッ
「んだよっ! なんか踏んだぞ! 痛てぇな!」
ソクア兄上がリーナに迫り始めたときに何かしら割れる音がした。
同時に緑色の煙がソクアの足元からモクモクと立ちはじめる。
「ウハウハウハ~ようやく封印から解かれたぞ! おっほ~女が1人に男1人とゴブリン1匹か、こりゃ久しぶりの食事にありつけそうじゃ」
なんだかわからないが、兄上が何かよからぬものを復活させてしまったようだ…
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