第19話 港町の怪物
コルナ村を出て街道を進むこと数日が経った。いよいよルイガイア領(父上ゲイナスの所領)を出ることになる。王都へはまだまだ距離がある。
「マキアス! みて海よ!」
馬車から海岸線がみえてきた、ほのかに潮の香りして、青空のもと海面がキラキラと光っており爽快な気分にさせてくれる。
僕は身を乗り出してはしゃぐリーナを見て、微笑ましい気分になった。しかし王族はそんなに海に行かないものなんだろうか。この国は島国ではないが、海に面した領地はあるので船に乗る機会もあるだろうに。
『まったく。ただの塩水のかたまりに大げさですね』
「ふふん、マキアスと一緒に見れたことが大事のなのよ。エレニアにはわからないのかしら、女の子なのにね。そんなんじゃモテないわよ」
『残念でした~私はマキアス様に永久にご奉仕できればそれで満足です』
永久にご奉仕て、そんな奴隷契約みたいな言い方はやめようね。
僕は王女とスキルプレートのいつものやり取りを聞きつつ、前方に見え始めた港町を指さして2人に話しかけた。
「ほら、リマンが見えてきたよ」
『マキアス様、わたしあまり船は好きじゃないです…』
「まあ、そういわないでよエレニア、リマンから船に乗ったほうが効率がいいからね」
王都へ行く方法は街道沿いに進んでもいいのだが、これより先は山岳地帯の山道になるためリマンの港町から船を使って山岳地帯を迂回しつつ街道沿いの港町に行く方がショートカットになるのだ。
リマンは大きな港町で、馬車ごと移動させてくれる大型の船もあるので、丁度よかった。
王都の騎士たちも一向にくる気配がない。リーナが王都に秘密裏に出した手紙が届いていない可能性もあるので、あまりあてにせず僕が自力で王都に送り届けることに集中した方がいいかもしれない。
「あれ何かしら?」
いろいろ思案していた僕にリーナが海岸線をみて呟いた。
リマンの港町の沖合に、なんだか不自然な形をした島のようなものがある。丸い小山が浮いているようだ。
「島…かな? あんなところに島なんかあったかな? リマンには久しぶりに来たからね」
その不思議な島を遠目にみながら、僕らの馬車は港町リマンに入っていった。
◇◇◇
「わあ、あれは何かしら」
「あれは、飛び魚の香草串焼きだね。羽の部分がカリカリして美味しいんだ。あとで買っていこうか」
「ええ、食べてみたいわ!」
リーナは興味津々の様子で港町の商店をみている。ゲリナの街でもそうだったが、やはり王女様が商店街とか気軽には行けないのだろう。
そして僕らは商店街通りから港湾施設の方へと向かっていた。乗船する船の予約と切符購入のためだ。
しばらく歩いて港湾施設についた僕らだが、賑わう様子はなく意外に人が少ない。というかほとんどいない。
「おかしいな、前に来たときは人であふれかえっていたのに」
「ああ、乗船希望者ですか? ごめんなさい、今は船が出せないんです」
施設の受付らしき女性が僕らの様子を見て声をかけてくれた。
「え? 船が出せないってことですか? 何かあったんですか?」
「沖合の航路に、アイランドタートルがいついてしまって…」
「アイランドタートル?」
「はい、大型の島のような魔物です」
「マキアス、それって私たちが来るときにみたあの島のことじゃ…」
「ええ! あの島! あれ!? でかすぎないですか! あれ生き物なの!」
「はい、アイランドタートルは基本的には襲ってこないのですが、この港周辺を縄張りにしたようでして…船を出すと外敵とみなして沈められてしまうんです」
なにそれ、怖すぎる。あんな島みなたいな奴とどうやって戦うんだ…
「あの、てことはいつまでも船が出せないということですか?」
「少なくとも、アイランドタートルが沖合にいる以上は船を出せません。詳しいことはわかりませんが、世界の海を移動して縄張りを変え続ける魔物らしいので、いつかはいなくなるはずなんですけど…」
受付の女性が暗い顔をしつつ、ため息をついた。そんないつ居なくなるかもわからない魔物にいつかれてどうしようという声が漏れてきそうだ。
「それって、かなり大変なことになっているんじゃ」
「ええ…近隣の漁師も漁に出れないですし、人も物資も流通が滞っています。特に物資の輸送はルイガイア領全体に影響を与え始めています」
「ん? それってどういうことですか? 領内にはある程度の食料は自給自足できるはずだし、ある程度の備蓄もあるはずだけど」
「ここ数日の害虫騒ぎで、多くの村の田畑が荒らされたらしいのです。また備蓄の倉庫もかなりの被害がでたらしくて、現状は多くの物資を輸送で賄わないといけない状態なんですが港がこの状況では…。害虫自体はようやくご領主のご子息さまが討伐されたらしいですね。たしか【剣聖】の息子様だったか」
「な、なによそれ、あれはマキア…」
リーナの言葉を僕は手を出して遮る。誰が討伐したかなんて今は些細な事だ。そんなことより、船が出ないとなると、陸地の街道沿いに山脈地帯を抜けるしかないか…
僕らは受付の人にお礼を言って、その場を立ち去った。
「今日はもう遅いし、宿に戻ろう。とりあえず山を抜けるルートでいくしかなさそうだけど、少しこの町で準備をしないとね」
リーナは黙って俯きながら僕の手を握ってきた、その手は少し震えていた。
「リーナ、安心して。君は必ず無事王都に送り届けるよ。海がダメでも山から行けばいいだけだから」
彼女が不安そうな顔をしていたからなのだろうか、僕の口から自然と言葉がでてきた。
「うん、わかってる。でも私のせいでマキアスを色んなことに巻き込んで…」
「リーナはそんなこと心配する必要はないよ。僕がやりたくてやっている事だからね。」
僕はリーナの手を優しく握りつつ、笑みを浮かべて答えた。
『らしくないですね、リーナ。いつもの空気読めないアホみたなテンションはどうしたんです?』
「ちょ、空気読めないアホってなによ! エレニアこそ好き勝手に表示されるスキルプレートのくせに!」
『まったく無駄な巨乳すら使うことを忘れたあなたから、元気を取ったらなにが残るんです?』
「無駄なって…巨乳以外にもいいとこあるわよ! あんたこそ巨乳羨ましいんでしょ!」
王女さまが巨乳巨乳連呼してはいけない…僕が王族卑猥単語連呼強要罪とかで捕まってしまう…と心のなかで思いつつも、いつものリーナに戻ったようでほっとする。
「さて、仲の良いお二人さん。宿屋を探しに行こうか。それとも野宿がご所望かな」
「マキアス! わたし海の見える宿屋がいいわ!」
リーナが僕の手をグイグイ引いていく。いつもの彼女の声だ。
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